第26話 魔女の趣くままに

 時刻が零時を回る頃。


 配信を閉じたあと、僕は床に正座し姉様は僕を見下ろす。


 腕を胸の前で組み、何か言ってやる! って雰囲気が漂ってきた。


「ねえ新くん。藤井ユイちゃんとみずきちゃんとの関係性を知りたいな」


 無表情のくせに顔に「ニヤニヤ」って書いてあるよ。


「藤井さんは去年の暮れに炎上解決を依頼してきた個人Vの人で、この件がAmaterasuって会社に伝わってそこに所属するみずきちゃんと知り合って、三人でゲーム大会に出たんです」


「それだけ?」


「え?」


「ご飯って書いてあったじゃん」


「あれは……大会中のノリと勢いに任せてそういうこと言っただけです」


「じゃあ新くんは冗談のつもりだったけど、向こうは本気だったってことなのかな?」


「………………はい」


「気になるほど間を空けたね。姉様隠し事は嫌いだなぁ」


 ……くっ! さすがは姉様だ。


 この人は頭が良いゆえに隠し事や嘘を見抜くのは上手い。


 メンタリストみたいに表情や声の抑揚で心境を把握して、誘導尋問の形で腹の内を吐かせる戦法に長けている。


 だから僕なんかが敵う相手じゃないのさ。


「だってさおかしくなーい? 彼女を連れてきたことすらない新くんが、いきなり女の子二人にご飯行こうって催促されるってどんな世界線? 異世界転移でもしてきたの?」


「ははは。深読みが過ぎるよ姉様。本当になんでもないんだから」


 言い終えた直後、姉様の右手が僕のこめかみを鷲掴みにした。


 こ、これは! 意外と握力のある姉様お得意のアイアンクロー!


「その大会のあとに何かあったから彼女たちは催促してるんでしょ~? 素直に話してほしいな~」


「痛い痛い痛い!! 話すから! 話しますから姉様!」


「ふふっ正直でよろしい」


 精神と肉体へダメージを与える。


 常人じゃ考えつかない方法だ。


 この悪魔め!


「本当はイベント後に打ち上げがあって僕も出席したんですけど、思ったより人が多いし東京で開催されたこともあって僕は緊張しちゃって、ほんの少しだけ参加してすぐ帰ったんです。だから会えなくて不満だった二人が催促してきてるんだと思います」


「すぐ帰ったって……どのくらいいたの?」


「ほんの五分くらいです」


「わざわざ東京まで行って五分で退出したの? 関係者に挨拶とかできた?」


「してません」


「本気で言ってる? わざと大げさなこと言って誤魔化してるでしょ」


「僕の顔を見れば本気かどうか分かるはずですよ」


 嘘じゃない、と視線で訴えかける。


「そう、本当なのね。じゃあ新くんが約束を破っちゃったんだ」


「いやでも打ち上げのことには誰も触れてないからそこはノーカンです」


「そんな屁理屈通用しません」


 言い終えると同時に姉様は顔を伏せた。


 小刻みに震える肩。


 「ぷぷっ」と息を漏らすのが聞こえる。


「あひゃひゃひゃひゃひゃひゃひゃ! 新くん面白すぎるよ!」


 我慢していたものが決壊したのか、姉様は仰向けになって笑い始めた。


「なんで、なんですぐ帰っちゃうの! そんな人聞いたことないっ!」


「ちょっと、声が大きいよ」


「でも、でもさ、そこは勇気出して声かけるとか出来るじゃん! 配信始めても根っこの部分は治ってないんだね!」


 そうかよ。そんなに面白いかよ。


 弾丸東京ツアーだっただけなのに。


「あはははははは! そっか、じゃあ姉様が細かくねっとり指導しなきゃいけないね」


「どういうこと?」


「今のままじゃ彼女たちと会っても新くんは何も出来ないでしょ? だから短期間で矯正してあげるから、姉様についておいで」


 起き上がった姉様は言い直す形で「題して、本城新矯正プログラム」とそれっぽい名前をつけた。


 やはりこの悪魔はご飯の件に関わってくるんだ。


 悪魔が働き始めるまでまだ二週間以上ある。


 それまで僕の命が保つかはわからない。


 ここまで来るとやべえよこの人。


 ほんとに血の繋がった家族なのか疑うレベル。



 何回もため息をついてから姉様を追い出し、僕は床に伏せた。





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