第22話 毒舌微笑む

 第五試合。


 泣いても笑っても毒舌吐いても最後の試合。


 七位に位置する僕たちのポイントは二十一点。


 一位のチームとは二十ポイント近く離れている。


 でも最終試合はキルポイント上限なしでしかも二倍付与される。


 つまり、活躍次第でドンでん返しが可能な仕様になっているわけだ。


 どのチームもキルを欲しがり戦いは熾烈しれつを極める。


 もちろん僕たちも優勝目指して戦果に飛び込んだ。


「ほんじょーこっち来て!」


「了解!」


「みずきちゃんこの部隊に仕掛けましょう!」


「わかった!」


 このゲームにはキルムーブと順位ムーブと言うものがある。


 名前の通りキルを取り行くか、順位を優先するか、の違いだ。


 キルムーブはとにかく動き回り敵を見つけ次第交戦を始める動き方で、危険だがアグレッシブな戦闘が味わえる。


「私は屋根に登るから二人は下から攻め込んで」


 建物に籠もる部隊を見つけるや否や、準備される前に飛び込む僕たち。


 ドアを蹴破り中に踏み込むと、物陰に隠れていた敵とドンパチかます。


「無駄無駄無駄ぁー!」


「ほんじょーさん突っ込み過ぎ!」


「えっ……あっ」


 意気揚々と突っ込んだはいいけど、しっかり挟撃きょうげきされてしまった。


「ユイ! 二人でどうにかするよ!」


 あっさりダウンする僕。


 ごめんなさい本当に。


「みずきちゃんあと一人です……死ねええええええ!」


 あぁ、死ねが出ちゃった。


 藤井さんが興奮すると感情表現がストレートになるってのは、これを言ってたのか。


 確かにそのギャップに一部の人は惹かれるかもしれない。


 あまりにもストレートすぎる気もするが、まあ勝てたからいいだろう。


「ちょっとほんじょー! 今の適当過ぎだよ!!」


「さーせん」


「でもこれでキルポイント四です! 良い感じですよ♪」


「残り部隊は十か……早いうちにメインチーム部隊をシバいておきたかったけど、まだ生き残ってるんなら楽しめそうね」


 その眼光はまさに追い込まれたジャッカル。


 狐より凶暴だ。


「すぐ漁って移動するよ。忘れ物しないでね」


「みずきさん、なんだか楽しそうですね」


「そ、そう?」


「なんだろう。柔らかい雰囲気になったような」


「……」


「あ、いや! 深い意味はないですけど!」


「ほんじょーさん私はどうですか?」


「えっなんですか?」


「私は?」


 ?


 どうしたんだ?


「藤井さんは……いつも通りだと存じます」


「そうですか。わかりました」


 へ?


 なんか怒ってる?


「藤井さん怒ってます?」


「怒ってないです。残念な気分です」


「それって怒ってるんじゃ……」


「いいから移動しますよ」


「……はい」


 だから僕に女心を理解させるのは無理がある。


 どのくらい無理があるかと言うと、これくらい。


 言語化出来ないほど難易度が高い。


「二人は仲良しだね。羨ましい」


「三人とも友達です。ねぇ、ほんじょーさん?」


「は、はい。お友達から始めさせて下さい」


「はぁ?」


 なぜかみずきさんが強く反応した。


「え?」


「どういう意味?」


「いやそのまんま……」


「みずきちゃん。ほんじょーさんにその手の会話は通用しません。恐らく深い意味はなく、スッと本心から出た言葉です。友達から始める、は本当に友達から始めるって意味ですよたぶん」


 ???


 それ以外どんな意味があるんだ?


「今の覚えておくから。もう、変な時間使っちゃった」


「もう移動しましょ」


 わかんねえよ。


 僕にはわかんねえ。


 わかんねえけど、二人の背中を追いかけよう。



☆★☆



 試合終盤。


 あれから順調にポイントを稼ぎ残り四部隊となった。


 戦って物資の補給が出来ていたので、充分戦える余力が残っている。


「リング収縮が始まったらギリギリまで岩裏で我慢して、一気に壊滅狙うよ」


「なんだかんだ最終ラウンドまで生き残りましたね」


「今回はみずきちゃんのオーダーがズバリ的中でしたから」


「私だけじゃない。みんながついてきてくれたおかげ」


「確かに過去一の連携を見せてましたね」


「ほんじょーは相変わらず脳死凸してダウンしてた」


「ごめんなさい」


「ねえほんじょー。もし優勝出来たらご褒美とか期待してもいい?」


「ハーゲンダッ――」


「いらない。精神的なものがいい」


「え~」


「ほんじょーさん私も」


「なんだろう。一ヶ月ほんじょーコラボ券」


「「いらない」」


「えー精神的か。歌枠コラボてきな?」


「もっとリアルなやつ」


「リアル? じゃあ飯でも行きます?」


「「行く!」」


「しょ、承知しました……」


 まあ冗談で言ってるよな。


 冗談……だよね? 女の子二人とご飯行くってどんな世界線?


 生きて返ったら結婚しようくらいのノリだよね?


「どうしよう。新しい洋服買おうかな……」


「ちょっと髪伸ばしてたし、美容院行こ」


「そんな本気になります? 僕なんかで」


 あの、大会中ってこと忘れてません?


「ほんじょーは遠くに住んでるって聞いたし、会いに行ってもいいけど」


「みずきちゃん一緒に行きましょう」


「ちょっと二人とも! リング収縮始まります!」


「いけない私ったら。つい夢中に」


「約束だからね」


「配信中にそんなこと言って大丈夫なんですか? 女の子が裏で会うとか言ったら燃えません?」


「イベント後の打ち上げで会うのはよくあること。Amaterasuは禁止事項にしてないし」


「私は個人なんで問題ないです」


 そういう問題なのか?


 ファンからしたら、精神衛生的に聞きたくないことだと思うけどな……


「じゃあ最後まで戦うよ。しっかりついてきてね」


「はい!」


 みずきさんのかけ声に合わせて飛び出す僕たち。


 敵味方入り乱れる戦場で一人、また一人と倒していく。


 ゲームやってるだけなのに妙に生を感じた。


 小さくても目標に向かって突き進むって、悪くないんだな。



☆★☆



「それでは五位から発表です。第五位のチームは――」


「……まだ、みたいですね」


「五位じゃないみたいだから、それ以上」


 うん。それはそう。


「第四位は――」


「えっトップスリーに入ってる!?」


「トリプルスリー?」


「なんですかそれ?」


「何でもないです」


「第三位は……みずユイスタンダードです! おめでとうございまーす!」


「やったー三位だ! 十九位から三位ですよみなさん!」


「三位……ですか」


「もっと上を狙えたかも」


「いやいや大健闘ですよ! 喜びましょう!」


「みずユイスタンダードはゲストチームとして出場でした。序盤はあやふやな立ち回りで先を心配しましたが、そこは配信者魂が燃え上がったんでしょう。見事第三位まで登りつめました。決してファイト力のあるチームではないんですが、底力が勝りましたね」


 解説の人が良い感じにまとめてくれる。


 まさにその通りだ。


「一位はさつきたちだ。あーあ、勝てなかったな」


「大事なのは勝ち負けじゃないですよ。僕たちがしてきたことが、大事なんです」


「へえ、いいこと言うじゃん」


「いつもいいこと言ってますよ?」


「そうね。壁と話してもっとトークを磨いたら?」


「みずきちゃん。私たちは解散するだけ?」


「うん。全試合終わったから各自配信を締めるだけ」


「まだ時間ありますか? よくストリーマーさんたちが二次会とかやってるじゃないですか。私たちもやりません?」


「ごめんなさい僕は疲れたので」


「私も」


「もー付き合い悪いなぁ~」


「ほんじょー、ユイ。楽しかったありがとう。子供の頃みたいに夢中でゲームできた」


「こちらこそ楽しかったです! またこういう大会があったらチーム組みましょう」


「今度はみずきちゃんが敵に回るかもね?」


「ふふっ。そうなったらボコボコにしてあげる」


 モニター越しだけどみずきさんが微笑んだのがわかった。


 大会には負けたが女の子の笑顔を守った男。


 その名はほんじょー。スタンダードを約束する十九歳。


 その後は二人に別れを告げて配信を閉じた。


 そのタイミングで一通のメールが届いた。


『ほんじょーさま 配信会社Amaterasu運営でございます。三十分後に通話出来ますでしょうか』


 と書いてある。


 何の用件かわかる。


 僕の契約についてだ。


 この件は僕の中で決着済み。


 というかさっき決心ついた。




 だから静かに待つとしよう。





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