第31話 出自は違えど、境遇は割と同じ

「あなたはクレマンデス。どうしてここにいるのですか」


「もちろん、あなた様にお会いするためでございます」


「誰の命令なのでしょう?」


「キャサリンお嬢様のご命令でございます」


「やはりそうですか」


「少しお話したいことがあるとのことです。一度バラード家に戻っていただけないでしょうか」


「私がバラード家に向かうメリットがないのですが」


「どうかお話だけでも聞いて頂けないでしょうか。キャサリンお嬢様はフレアお嬢様に対してそこまで悪い感情を抱いてはいませんよ」


「だとしても、周りを気にして私を居ないものとして扱っていたような気がしますけど。まぁ良いでしょう。行きますよ」


「感謝いたします。ところでそこのお方は」


 クレマンデスと呼ばれた執事の視線が僕に向かう。


「彼は私の友人です。一緒に連れて行っても良いですよね?」


「もちろんでございます。それではお乗りください」


 僕らが馬車に乗ると、御者が馬車を動かす。馬車が動き続けても、僕とフレアは黙ったままだった。


「申し訳ありません。あなたを巻き込みたくはなかったのですが。実家に一人で戻るのが怖くて」


 心なしかフレアの声に元気がない。


「大丈夫だ。なにがあったのかは分からないけど、フレアにはいつも世話になってるしな。今度は僕が力になりたい」


「ありがとうございます。そう言えば、あなたには私の過去についてあまり語ったことがありませんでしたね」


「あまり言いたくないのなら、無理する必要はないぞ」


「いいえ。私も実家でなにが起きているのかは分かりませんが、家のもめごとに巻き込んでしまう以上、話しておきます」


 フレアは自分の過去について話しだす。彼女の実家であるバラード家はトロンとは少し離れた港町ブルワースにあるらしい。


 離れているとはいえ、ブルワースもラマテール公爵領にあるのでそこまで遠いわけではない。そんなバラード家は当主が商業ギルドのギルド長を務めていることもあって裕福な家なようだ。


 爵位は子爵と低いが、手持ちの資産を背景とした経済力は大貴族にも匹敵する。そんな家にフレアは三女として産まれる。けれど、フレアには問題があった。


 彼女はオッドアイだったからだ。オッドアイはかつて人類を絶滅させようとした魔王リリスと同じ容姿だ。そのため、バラード家の人々は彼女を冷遇し続けた。


「私は幼いころからかごの中の鳥でした。外出を許されることはほとんどなく、軟禁されて育ったようなものです。バラード家にオッドアイの人間がいることは噂されていましたが、当主を筆頭とするバラード家の重鎮たちは私を公の場にさらしたくなかったのです。ただ、幸いなことに魔道具はいじらせてもらえたので、自分のレベルをあげたり、魔法を覚えたりすることはできました」


 フレアの話は続いていく。


 彼女は成長し、12歳になったころ当主からある提案をされた。フレアがブルワースの町から出ていくか、行かないかだ。


 ブルワースの町から出れば、フレアは自由になる。しかし、家に残りたいのであれば軟禁を止めることはないと。


 フレアはブルワースの町を出ることにした。このままブルワースに居てもできることはないと考えたからだ。


「おそらく、ある程度成長した私を軟禁し続けることは世間体が悪いと考えたのだと思います。なのでブルワースを出るように私を仕向けたのだと」


「フレアも家を追いだされていたんだな」


「そうなりますね。前からどうして私があなたを助けるのか、疑問に思っていましたよね?」


「……気づいていたのか」


「ええ。私があなたに何かするたびに困惑するような態度をしていましたから」


「それで? どうしてフレアは僕のことを気にかけてくれているんだ?」


「自分でもよく分からないのですけれど……。おそらく、あなたには私の友人になって欲しかったのだと思います」


「友人……」


「はい。自分の目が原因で追いだされたというあなたに私はシンパシーを感じてしまったのだと思います。それで、あなたなら私のことを分かってくれるかもしれないと。申し訳ありません。あなたを助けていたのは善意というより、私の身勝手な打算に基づいたものなのです」


 フレアはうつむく。


「どうして謝るんだ?」


「えっ?」


「別に、完全な善意以外の理由で人を助けることが悪いことだとは思わないな」


「ですが、あなたにこのことを隠してしまったのは罪悪感が……」


「気にするな。僕だって隠し事をすることくらいあるよ」


「そうですか。では、あなたはこれからも私の友人になってくれるのですか?」


 フレアは不安そうな瞳をこちらに向ける。僕はそんな彼女を力強く見つめた。


「いや、僕はもう友人にはならない」


「……分かりました」


「僕は友人だなんて、そんな薄っぺらい関係を維持したくはないからね」


「はい?」

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