無能だからと実家を追いだされ底辺をさまよってる冒険者だったけど、ユニークスキル【魔眼】が覚醒したので無双してみる~え? 歓迎してやるから家に帰って来い? お断わりします~
第30話 案外細かい努力が報われたりすることは割とある
第30話 案外細かい努力が報われたりすることは割とある
「どうしたの二人とも変な顔して。夫婦喧嘩でもした?」
「してない!」ません!」
「その割には二人ともずいぶんとギクシャクしてるように見えるけど」
「ちょっと実験のことで話し合っていただけです」
「ふぅーん。怪しいけどまぁ良いや。それで、今日ここに来た目的はグリマスにラースの武器を作ってもらうためなんだよね?」
「そうだ。グリマスというのはラマテール公爵家お抱えの鍛冶師なんだよな? そんな人を僕なんかに紹介しても良いのか?」
「それは問題ないかな。正直、私としてはあなたに恩を売っておきたいし。後、グリマスはラマテール家お抱えだからといって別にラマテール家以外からの依頼を行わないわけじゃないよ。ただ、彼はこの家の工房に住んでいるから、彼に依頼できるのはラマテール家と近しい関係にある人だけだけど」
「なるほど」
「じゃあ早速グリマスのところに行こう!」
僕らはナタリアの後に付いていく。
「グリマスさんてどんな人なんだ?」
「気難しい職人ですね。自分のお眼鏡にかなう冒険者でないと依頼を受け付けてくれません」
「それはなんというか、少し緊張するな」
「もう、フレアは脅しすぎだって。ラースなら大丈夫なはず。多分……」
「いや、多分とか言われると余計不安になるぞ」
「あはははは!!!」
突然ナタリアが笑いだしたので僕は思わず困惑する。あれっ? また何か変なこと言っちゃいましたか?
「いやごめん。ラースってもっと大人しいのかなと思っていたけど、案外ツッコミを入れたりするんだね」
「そうですね。ラースは結構どのような相手にも素直な発言をしますから」
「さすがフレア。さりげなく自分が一番ラースのことを分かってるアピールするんだから」
「別にそういう意図があるわけではありません!」
「はいはい。さて、到着したよ。ここがグリマスの工房」
工房の中に入ると、途端に熱気が襲いかかってくる。おそらく金属を溶かすための炉が稼働してるんだろう。
奥の方に行くと、小さな男性が熱心にハンマーを作りかけの武器に振り下ろしていた。
「グリマスー。お客さんだよ」
声をかけられた小男は作業を止め、こちらを振り返る。彼は浅黒い肌に長い
いやまぁ、鍛冶師として働いているドワーフは珍しくないけれど。
「客だと。この儂にか」
「うん。この2人がグリマスに用があるって」
「フレアの嬢ちゃんは知っているが、そこの小僧は誰だ」
「初めまして。僕はラースだ。冒険者をしている」
「ふん。そんなことは身なりを見ればわかるわい。少し腕を触らせろ」
うん? 僕にその手の趣味はないぞ。
「おかしなことを考えているようだが、儂は冒険者としてしっかり鍛えているのか確かめたいのだ」
「ごめんなさい」
フレアと色々あったせいか、なんだか今日は僕もテンションがおかしくなってきているかもしれないな。
「とりあえず、魔力に頼りすぎず、しっかりと身体も鍛え上げているようだな。今度は腰に下げているショートソードを見せろ」
僕は素直にショートソードを手渡す。
「ふむ。安物ではあるものの、丁寧なメンテナンスがされておる。よし、良いぞ。お主には儂に装備を作らせる権利をやろう」
噂通り、気難しそうな人物だけど、どうやら僕は認められたらしい。
「ありがとう。助かる。今の武器防具も使い勝手は良いんだけど、今後より強い魔物を相手にするのには向いてないからな」
「お主の意図は分かったが、強敵を相手にする武器防具はそれなりに良い素材が必要になるぞ。ある程度はこちらが用意できるが、在庫のない素材も多い。だからメインとなる素材は自前で用意した方が良い」
「それならここに上等の素材がありますよ。これで彼の装備を整えてください」
フレアがマジックバッグから素材を次々に取りだしていく。
「こ、これは黒竜族の素材か!?」
「ええそうです。わけあってラースが手に入れたのですよ」
「はは。ふははははは!!! こんな貴重な素材を渡されたら職人の腕が鳴るというもの! 期待して待っておれ!」
「うんうん。私としてもグリマスがどんな武器を作るのか楽しみ」
「それで、武器はどんなものを作れば良い? やはりショートソードか?」
「ああ。ほかの武器だと使い慣れるのに時間がかかりそうだしな」
「了解じゃ。ヘルムやアーマーなんかの防具も基本的には黒竜族の素材で作ることを希望しているのだろう? 今の革装備よりも若干重くなるが良いかの?」
「構わない。多少重くなることよりも、防御力が上昇することの方がありがたいからな」
「承知したわい。一週間ほど待っておれ」
◆❖◇◇❖◆
「依頼を受けてくれてよかったですね」
「うん。今まで魔法をろくに使えなかったせいで身体を少しずつ鍛えたり、武器防具を念入りに手入れしていたわけだけど、そういった努力が報われたような感じで嬉しいよ」
帰り道、僕らは2人で並び歩いていた。
「ええ。比較的ベテランの冒険者でもそういった基本的なことをおろそかにする人は多いですからね。慢心は命取りになるというのに」
「そうだな。これからも身体の鍛錬や装備のメンテナンスは怠らないように気を付けるよ」
「そうしてください。あなたに何かあったら困りますから」
「きゅいきゅい!!!」
「どうしたシル?」
シルはフレアの店の方向を向きながら警戒心をあらわにする。
「来客でも来ているのかもしれないですね」
僕らが店の前に行くと、そこには4頭立ての馬車が置かれていた。貴族が使うような立派なものだ。
「これはもしかして……」
馬車に描かれた紋章を見て、フレアは驚いたような顔をした。どうやら訪問してきた人物に心当たりがあるようだな。
馬車の窓から僕たちが来たことに気が付いたのか、馬車の扉が開く。中からでてきたのは壮年の紳士的な執事だった。
「フレアお嬢様、お久しぶりです」
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