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 冬原雪が学園に入学して、しばらくの時間が立ち。

 

 春風、佐一、椎咲の三人は開発を行っていた魔法陣の試行作業を行うべく、魔研部の顧問で春風達の担任にでもある教師の名前で借りた第一演習場にいた。椎咲は地面に持ってきた棒で魔法陣を書き、その魔法陣を書いた方向の反対側に立つ。


「ではこれより試作陣ver.3.02の試行を始めよう。春風君は私が書いた試作陣で魔法を発動。佐一は魔眼で魔力の流れを見て、問題があり春風君に危険が及ぶようであれば即救出するように」

「おう、任せろ」

「んじゃ、初めていいですか?」

「あぁ、お願いするよ」


 春風は深呼吸をして心を落ち着かせると、椎咲が地面に書いた魔法陣の上に両手をかざす。すると魔法陣がほのかに光を放ち始め、だんだんと魔法陣から赤と水色の光の粒が辺りを漂い、光の粒子は春風の両手に集まり赤と水色の光が入り乱れた一つの球体を形作り始めた。それを見た春風は今度は下に向けていた両手の手首をあげる。春風の手の動きに連動して浮遊した球体の正面には椎咲が立っている。


「佐一、魔力の流れに異常は?」

「今ん所問題なさそうだ。志那!準備大丈夫か!」

「私を誰だと思っているんだい?いいから早く撃ちたまえ!」

「ってことらしいから、撃っていいぞ!」

「あい、よ」


 球体が震え形を変え始める。水色の光は冷気を帯びた鋭く尖った氷の塊となり、赤の光は熱を感じさせる赤い炎へと。

 本来であれば相反するそれらは互いを打ち消しあうことなく、炎を纏った氷の矢がそこに出来上がった。

 春風がぐっ、と力を込める仕草を見せた瞬間その矢は椎咲の方へと飛んでいき、赤い炎の機動を残しながら椎咲へと向かう。椎咲に直撃する瞬間椎咲が右足で地面をトン、と叩いた。

 次には椎咲の右足を中心に魔法陣が地面に描かれ、薄く青色に光る壁が椎咲の前に現れた。春風が放った魔法はその壁に直撃すると甲高い音を立てて砕け散り、同時に炎の爆発が起きる。爆風で立つ土煙に二人が顔を顰める中、椎咲が再び右足で地面を叩く。先程まで描かれていた魔法陣が消えて別の魔法陣が瞬時に浮かび上がり、大きな突風が土煙を巻き込みながら上昇気流となって空へと消えていった。


「ふむ。完成度的には申し分ないくらいのものにはできたね。春風君並みの、平均的な実力を持った魔法使いでも安定して発動できるくらいのものにはできたようでよかったよ」

「それでも相当の集中力はいりますけどね……」

「疲労困憊、といった感じだねぇ」

「魔力的にはそこまで食われなかったんすけど、相当制御するのに神経使ったんで……」

「ハル、流石にお前の魔力量基準の"そこまで"は参考にならないと思うぞ」

「それもそうだねぇ。まぁあとはデータを取りまくるだけだし、気長にやっていこうじゃないか」

「データ取りっつっても、そもそも俺ら魔研部の事手伝ってくれる人自体そんなにいないけどな」

「それはまぁ、数少ない人脈を頼ってだねぇ……」

「……そもそもその数少ない人脈すらいないから一人で細々とやってたんじゃないのか志那って」

「おおっと言ってはいけないことを言ってしまったねぇ佐一ぃ!?」

「おわっ、お前急に飛びついてくんなって、痛っ、いてぇ!やめろ!関節決めてくんなっ、痛い痛い痛い!」

「私に友達いないって言ったのはどこの誰かなぁ!?」

「そこまでは言ってねぇよ!?つかお前その格好で松葉固めは下着見えそうだからやめろって!」

「安心したまえ下はスパッツだ!それに美少女幼馴染のおみ足に挟まれるのは年頃の健全な男子高校生としてはご褒美だろう!」

「1ミリも嬉しくねぇわこんなの!」


 じゃれ合う二人を尻目にスマホを取り出しトークアプリを開く春風。誰か呼べる相手はいないかと思い開いたタイミングでピコン、と通知音がなり、見てみればつい先日連絡先を交換した同級生である冬原雪からのメッセージであった。


『本日一緒に帰りませんか?』

『珍しいな。どうした?』

『いえ、初日以来春風さんと一緒に帰る、という事がありませんでしたので。せっかくのご近所なのですし良かったら、と思いまして』

『なるほど』

『駄目だったでしょうか』

『いや。ただ今部活中でな』

『魔法研究部、でしたか?』

『あぁ』

『でしたら活動のお邪魔になってしまいましたね。申し訳ございません』

『ん、ちょうど一段落ついた所だったから気にしないでくれ。校門前で待っててくれ』

『よろしいのですか?』

『今日できる事は全部終わったしな』

『分かりました。お待ちしておりますね』


 OKの文字を持つデフォルメされた犬のスタンプを送るとスマホをポケットに突っ込んでベンチに置いていたブレザーと鞄を手に取る。


「佐一、部長。自分帰るんで、後お願いしていいっすか」

「おや、珍しいねぇ。何か用事でもあるのかい?」

「んー、まぁそんな感じっす」

「何にしろ、気をつけて帰り給えよ。近頃はなんだか穏やかじゃない、物騒な噂を聞くからねぇ」

「物騒な噂?」

「あぁ。"吸血鬼"が出るそうだよ?」

「吸血鬼……?」

「そう、吸血鬼。ヴァンパイア、と言うやつだねぇ。ついこの前奇妙な死体が見つかったそうでね」

「奇妙な死体、というと?」

「全身の血を抜かれたような、からからの干からびた死体さ。死因は失血死と思われるのだけど、その死体の周りに血なんてないし死体に見える傷らしい傷は首筋の噛み跡のみ。まるでそこから血を抜かれたような、ね」

「だから吸血鬼が出るなんて噂されてる訳っすか」

「そういう事だ。まぁ流石に眉唾ものだとは思うのだがね。吸血鬼なんてファンタジーな存在、本の中だけで十分さ」

「そんな事言ったら魔法が一番ファンタジーだと思うんすけどね」

「そうは言っても魔法は存在しても魔物や悪魔、妖精なんてものは存在していないだろう?」

「それはそうっすけど」

「あくまで伝承上の、創作上の存在さ。魔法が存在するのだからそういった不思議な生き物を存在すると思った夢想者達による、ね」

「ほーん。ま、俺には関係ないんですけどね」

「それもそうだ。とはいえ、念の為気をつけてはおきなよ。大切な部員に何かあったら困るからねぇ」

「そりゃどーも」


 椎咲の言葉に後ろ手を振りながら春風は演習場から立ち去っていった。




「そろそろ俺に対する関節技外してくれてもいいんじゃねぇかなぁ!?」

「あぁ佐一、君は後15分はこのままだから」

「マジかよ……」




ーーー



「なるほど、魔法研究部ではそのような活動を行っているのですね」

「あぁ。ま、今日みたいなのは稀でいつもは部室でひたすら魔法式とにらめっこだよ」

「それはそれでよろしいではないですか。一つの目的のもと協力し合うというのは素晴らしい事ですよ」

「ん、それもそうだな」


 冬原と合流した春風は帰路を歩きながら魔法研究部の活動に関して興味を持った冬原に対して今日の部活での活動内容の事を話していた。和気藹々と雑談に花を咲かせる中で、ふと春風が歩みを止める。急に黙り込み立ち止まった春風に戸惑い冬原が振り返ると春風が真っ直ぐと冬原の目を見据えながら口を開く。


「なぁ冬原」

「何ですか?」

「お前さ、実は吸血鬼だったりしない?」

「何をおっしゃっているんですか」

「あぁいや、何でもない。忘れてくれ」

「もし吸血鬼だったとしたらとっくの昔に春風さんの事を襲っていますよ」

「……それもそうだよな」

「変な春風さんですね」

「変な、は余計だっつの」

「ふふっ」


 微笑みを浮かべる冬原にどこかバツが悪そうに頭を掻きながら再び春風は歩き出す。


「あー……そういや冬原」

「はい?」

「魔法研究部の活動に興味があるんだったら、お願いしたい事があってだな」

「なんでしょうか?」

「実はだな……」

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吸血鬼、学園に入学する。 如月二十一 @goodponzu2525

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