第26話 か香澄と芝田君
香澄の対局が気になって、昼休みスマホでネット中継を見ることにした。理央は今日手合いはないが、香澄は手合いがあり結果が気になってしまう。
本当は棋院に行ってみんなと検討しながらみたいところだが、手合い日でもないのに学校を休むのには抵抗があり学校に来たが、授業中もあまり集中できずにいる。やっぱり、棋院に行けばよかったかな。
「何、見てるの?」
芝田君が話しかけてきた。香澄のことが気になって観ていると言ってもいいが、芝田君の前で香澄の名前は出せない。どちらとも付き合ってもいないのに、なぜか浮気した気持ちになってしまう。
「ところで芝田君、数学得意だったよね。今度期末テストがあるから、教えてもらってもいい?」
「いいよ、いつにする?」
芝田君と話しながらも、香澄の対局が気になってしまう。さっき観たときは、香澄が少し打ちやすい形だったが、まだ先は長そうな展開だった。
◇ ◇ ◇
学校が終わるとすぐに家に帰り、香澄のネット中継を見ながら碁盤の上に碁石を並べていく。地合いは盤面勝負でコミがでないとみた相手の猛攻を、白番の香澄がうまくかわしつつ終局に向けて局面をまとめていっている。
碁石を並べながら、思わず「頑張れ」「落ち着いて」など香澄にエールを送ってしまう。
地合いで足りず逆転できないと判断した相手の投了で、香澄の勝ちが決まった。これで香澄も女流名人戦決勝進出。お互い初めてのタイトル戦挑戦をかけて、理央と戦うことが決まった。
香澄とは練習では何局も打っているが、公式戦で当たるのは理央になってからは初めてだ。5年前、理人だった時に一度あたったことがあるが、やりにくかったのを覚えている。
同じ女流棋戦を戦っている以上、いつかは香澄との対局が組まれると思っていたが、タイトル挑戦をかけた大舞台で実現したことに複雑な気持ちになる。
◇ ◇ ◇
日曜日の朝、朝食を済ませると香澄は早々と部屋を出て行ってしまった。一人、部屋に取り残されると寂しい気持ちになってしまう。
理央との対戦が決まってから、香澄は囲碁の勉強を研究会用に借りている部屋でやっている。
別に囲碁の研究をしているところをみられて困るわけではないが、香澄の横で香澄の棋譜を並べるのはちょっと抵抗があったので、香澄が別の場所に行ってくれたのは助かる。向こうも同じ気持ちなのかもしれない。
せっかく晴れた日曜日だが、来週に迫った香澄との手合いにむけた準備と、今週末に迫った期末テストの勉強もしないといけない。
午前中は囲碁、午後は学校の勉強をすることにしていた。
早速碁盤の前に座り、香澄の最近の棋譜を片手に並べ始めた。昔の香澄は「とれる石は取る」とばかりに好戦的な棋風だったが、最近はじっくり構えて厚く攻める棋風に変わっていた。
そんな香澄にどうやって挑むのかを考えていたら、いつの間にか12時近くになっていた。
ひとまずお昼ご飯を食べようと、お湯を沸かしカップラーメンに注いだ。カップラーメンができるまで待っている間、ある考えが思いついたのでスマホでメッセージを送った。
◇ ◇ ◇
チャイムが鳴りインターホンに出ると、芝田君の声が聞こえてきた。今日午後から一緒にテスト勉強しようと誘ったら、急な誘いにも関わらず来てくれた。
「お邪魔します」
遠慮がちに玄関のドアを開け、芝田君が部屋に入ってきた。
「急に呼んで、ごめんね」
「気にしなくていいよ。俺もちょうど勉強しないといけないと思ってたところだったから」
リビングのローテーブルに二人並んで座って、テスト勉強を始めた。
「この問題どうするの?」
「どの問題?」
芝田君が理央のノートを見ようとすると、自然と肩が触れ合った。まじかで見る芝田君はやっぱりカッコいい。
と思った時、芝田君に押し倒された。まあ、部屋に呼んだ時から覚悟はできていたが、実際になると胸の鼓動が速くなってしまう。
男子高校生と女子と部屋で二人きりの状況だと、こうなるのは分かっていた。もちろん、芝田君のことは好きだし、理央の女の体で抱かれるのはどんな感じなのか興味もあった。
芝田君と唇が重なった。香澄とは違う、力強さを感じた。芝田君の手がスカートの中に入ってきたと思ったところで、芝田君の手が止まった。芝田君の体が離れていくのが名残惜しく感じる。
「ごめん、やっぱりこういうの良くないね」
芝田君が申し訳なさそうに言った。
「私の方こそ、ごめん。私の事好きじゃなかったの?」
「理央ちゃんのことは好きだから、大事にしたいから、やめておく。もっと大人になってからにしよう」
申し訳なさそうにしている芝田君を見ると、誘った自分が恥ずかしくなってきた。体を求めない芝田君の優しさに、ますます芝田君のことが好きになってしまった。
◇ ◇ ◇
香澄と一緒にベッドに入ると、待ちかねてたかのように香澄の手が伸びてきた。
「理央と一緒にいる時間が減ってさみしい。早く手合いの日がくればいいのにね」
香澄はそう言いながら、胸やお腹をなで回し始めた。比べて悪いとは思うが、どうしても芝田君のことを思い出してしまう。
芝田君の直線的に来る感じも好きだったけど、香澄のゆっくり少しずつ来る感じも好きだ。
「そうだね」
そう言って理央の方から、香澄の唇を求めた。
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