第17話 買い物
朝晩に冷え込みが感じる季節になってきた。そろそろ秋冬物を買いに行こうかなと、学校に着ていく服を選びながら思った。
理人の時は服なんて気にしたことはなかったが、理央になってからは待ちゆく人の服を見て、自分もあんな感じの服が欲しいと思うようになってきた。
「香澄、土曜日空いている?服買いに行きたいんだけど、一緒についてきてくれない?」
「いいよ。服を欲しがるなんて、理央も女の子の楽しみが分かってきたね。最初の時はミニスカート嫌がっていたのに、今じゃ毎日ミニスカートだもんね」
胸は発展途上で仕方ないが、足には自信がある。自分の魅力を最大限引き出そうと思ったら、自然とミニスカートを選んでしまうことが多い。
それに芝田君が脚フェチとの噂を聞いたので、その噂が本当かどうか確かめていないが、パンツスタイルで芝田君に会う気になれない。
◇ ◇ ◇
「理央、日曜日って空いてる?」
昼休み、一緒に学食でお昼ご飯を食べている由香が聞いてきた。日曜日は、指導碁のバイトも入っていないので、来週の手合いに備えて対戦相手の棋譜でもみて研究しようと思っていたところだった。
「予定あると言えばあるけど、ないと言えばないけど…」
「みんなでカラオケに行くけど、理央もどうかな?」
遊びに行くのも魅力的だが、手合いも控えてるし、どうしよう。
「芝田君も来るよ」
その言い方から、由香は理央の気持ちに気づいているようだ。やはり、女の勘はするどい。バレてしまっているなら隠す必要もないので、囲碁の勉強は今晩やることにして、一緒に遊びに行くことにした。
行くことを伝えると、由香はニンマリとした微笑みを見せた。
◇ ◇ ◇
香澄と一緒に買い物に行くと、ちょうど出始めたころで秋冬物が並んでいて種類も色も豊富で、見ているだけでも楽しい気分になってくる。
一人で買いに来てもよかったが、まだ女性のファッションで知らないことも多いので、アドバイスをもらえる香澄と一緒の方が心強い。
「理央は、どんな服が欲しいの?」
「どんなって言われても、秋冬に着れて流行も抑えつつ、着回しが効きそうな服がいい」
「そんな漠然としたイメージだと、結局買っても着なくなるから、買い物始める前にきちんとイメージ持たないと。きれい目がいいのか、可愛い系がいいのかとか決めておかないと、見に行くお店も決まらないでしょ」
香澄から窘められるように言われて、慌ててどんな服が欲しいかを考える。いつもの服は可愛い系が多いので、明日みんなで遊びに行くときはいつもと違う感じを出したい。色もボルドーで大人っぽくしたい。
「きれい目な感じで、上品なニットとボルドーのスカートが欲しいかな。大人っぽくなりたい」
「よし、じゃ、こっちのお店行ってみよ」
駅ビルの中を迷うことなく進んでいく香澄の後を追っていく。
「理央、予算はどれくらい?」
歩きながら香澄が聞いてきたので、予算の額を伝えた。
「割と持ってるね」
「最近手合いで勝ってるし、指導碁のバイトも順調に増えてるからね」
指導碁に行くと「また今度もお願い」とご指名がかかることが多い。手合いに影響がでないように、ほどほどに抑えるようにしているほど依頼は多い。
理人の時には考えられなかったで、かつかつの生活をしていたのが嘘みたいだ。
香澄の案内でお店につくと、イメージした通り大人っぽい感じの服が揃っていた。
「スカートをボルドーにするなら、トップスは黒かな?ベージュかな?グレーでこなれ感をだしてもいいな」
「ネイビーもかっこよくない?」
以前は香澄の言われるがままに服を選んでいたが、色の組み合わせなど少しずつファッションのこともわかり始めてきた。
香澄も理央と話しながら服を選ぶのを、楽しんでいるようで表情がにこやかだ。
「これなんかどうかな?で、スカートはこっち。一回、試着してみて」
香澄はアイボリーのニットと、ボルドーカラーのサーキュラースカートを選んで理央に手渡してきた。
試着室で着替えてみると、さすがに香澄が選んだだけあって希望通りに大人っぽくまとまっている。
スカート丈もいつものミニ丈ではなく、膝丈なので、脚フェチの芝田君の希望にも応えつつ、いつもと違う感じが出せている。
「いい感じと思うけど、香澄どうかな?大人っぽく見える?」
試着室のカーテンを開け、香澄にも感想を聞いてみる。
「いいんじゃない。ちょっと背伸びした感じが出てていいね」
「そう、良かった。じゃ、これ買おうかな」
会計をすませて時計を見ると、思いのほか時間が経っておりお昼を過ぎていた。お昼ご飯を食べるために、駅ビルの飲食店フロアにあるパスタ屋に入った。
香澄はカルボナーラ、理央はナポリタンを注文した。
「理央、好きな男子いるの?」
料理を待っている間、香澄が唐突に聞いてきた。普段、男性を毛嫌いしている香澄に、芝田君のことを言うと悪く言われそうなので黙っていた。
「やっぱり、図星だった?」
どう言おうか迷っているのを見て、香澄が言った。やっぱり女性の勘は鋭い。
「なんでわかったの?」
「試着した時に、どう見えるか聞いてきたでしょ。あの時、理央はこの服を見せたい人が、いるんだなと思った」
「ごめん、なかなか言い出せなくて」
理央として男子を好きになるのは自然なことだが、香澄と一緒に暮らしていると罪悪感がある。
「いいのよ、別に男子を好きになっても。でも何回も言ってるけど、男なんて体が目的なんだから気を付けてね。体が目的じゃなくて、理央の事をちゃんと大事にしてくれる人だったら、私も文句は言わない」
香澄はそこまで言い終わると、ちょうど届いたカルボナーラを食べ始めた。理央もナポリタンを食べながら、芝田君のことを考えてみる。
重い物持ってくれたり、優しく声をかけてくれたりしてるし、多分体だけが目的じゃないと思う。男子高校生なんだから、少し位体には興味あるかもしれないけど、それだけが目的じゃないと思う。というか思いたい。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます