第9話 女子高生は楽しい

 金曜日の朝、昨日の対局の疲れもなく気持ちい目覚めだった。さすが女子高生、一晩寝れば体力ゲージが満タンに回復してる。


 朝ごはんを済ませた後、クローゼットをあけ今日着ていく服を選ぶ。制服もいいけど、私服で行く楽しみもわかってきた。

 今日は初夏の陽気で気温も高そうなので、さわやかな水色のトップスに、黒のミニスカートを合わせることにした。

 慣れてくると、その日の気分や天候に合わせてコーデを考えるのも楽しい。


「お主も、女の子の楽しみが分かってきたようじゃの」

「だからって、ジジイお尻を触るんじゃない!」

「いいじゃないか、減るもんじゃないし」


 ―――パッシ


「神様に対する態度か?」


 神様がはたかれた頭を大げさにさすりながら言った。


「だったら、神様らしくしとけ!」


 ◇ ◇ ◇


 ―――キャ、キャ


 体育の授業も終わりの女子更衣室は、にぎやかな声があふれかえっている。


「バスケって、走り回るから疲れる~」

「そろそろ体育館って蒸し暑くなってきたね」


 由香と授業の感想を言いながら着替え始めた。由香が体操服を脱ぎ始めた時、由香の胸が視界に入る。

 香澄も女の子同士触るの当たり前だと言っていたし、理央もセクハラキャラみたいだし、許されると信じて由香の胸を軽くではあるが勇気をもって触ってみた。


「やったな」


 触られた由香がお返しとばかりに、理央の胸を触り始めた。

 やっぱり女の子同士、触りあうのは普通なんだなと思う半面、香澄のとはなにか違う気もした。

 由香はじゃれ合って遊んでいる感じだが、香澄のは本気というか、なんというか違う気がする。


「いや~、やっぱり体育の授業はいいの~。週に3回しかないのが、残念じゃ。毎日あればいいのに」


 女子高生の着替えを堪能した神様が、満足そうな笑みを浮かべていた。神様の頭をはたいた。


「神様なんだから、もう少し丁重に扱え」


 みんながいる前なので神様に返事はせずに、女子更衣室を出ることにした。


 ◇ ◇ ◇


「藤沢さん、机は俺が運ぶから、箒で掃いててもらっていい?」


 掃除の時間、教室の机を移動しようと思ったら、芝田君が変わってくれた。芝田君に限らず、クラスの男子はみんな優しくしてくれる。かわいいって、お得だと思う。

 教室を箒で掃いていると、由香が話しかけてきた。


「理央、明日みんなで遊びに行くけど、一緒に来ない?」

「みんなって誰?」


 由香は、クラスの女子数名の名前と男子数名の名前を挙げた。


「あっ、あと芝田君も来るよ」


  由香は思わせぶりに芝田君の名を最後に言った。その名前を聞いて、一瞬胸が痛くなった。

 明日は香澄と会うことになっていたが、他の日にずらせばいいだろう。


「わかった、行くことにする」

「よかった。みんな理央と遊びたいって言ってたから喜ぶよ。じゃ、明日1時に駅前のボウリング場の前に集合ね」


 囲碁の勉強も大事だが、クラスの友達との交流も大事。うん。きっとそうだ。囲碁の勉強は夜にしよう。

 由香が今度は芝田君の方に行って、何やら話し始めた。教室がにぎやかなのと距離が少しあって何を話しているか分からないが、芝田君が笑っているのが見えた。芝田君の笑顔をみて、また一瞬胸が痛くなった。


 ◇ ◇ ◇


「―――そんなわけで、土曜日の約束、日曜日にしてもらってもいい?」


 帰宅後、香澄に約束の変更をメッセージでお願いしたら、電話がかかってきてその理由を聞かれた。


「日曜日は私は指導碁のバイトがあるし、来週手合いがあるから実践対局がしたいから、土曜の夜でもいい?」

「いいけど」

「じゃ、遊んだ後夕ご飯作るのも面倒でしょ。私が作っておくから、カギは郵便ポストに入れておいて。6時までには帰ってくるのよ」

「6時までって、お母さんかよ!」


 まだ香澄は何か話したさそうだったが、そこまで言って通話を切った。


 ◇ ◇ ◇


 初めてのボウリングは難しく、ガーターを連発して、ガーターじゃなくても数本しか倒せないのが続いていた。

 みんなストライクやスペアを連発して、上手だなと思う。

 理人の中高時代は囲碁漬けの日々だったので、みんなでこんな風に遊びに来たことがなかったので、ボウリングが下手でも一緒にいるだけでも楽しい。


「よっしゃー」


 ストライクを取った芝田君が、ハイタッチを求めてこっちにやってきた。ハイタッチをした瞬間、また胸が痛くなった。


「芝田君、上手だね」

「そうでもないよ」


 投げ終わった後隣に座ってきた芝田君と話すと、胸の鼓動が速くなるのが自分でもわかる。なんなんだ、この感覚は。ひょっとして、芝田君の事好きなのかな?

 体は理央になったとはいえ心は理人のままだから、男子を好きになるとは思ってもいなかった。

 でも、芝田君ならいいかも。ちょっとそう思っている自分がいる。


  ◇ ◇ ◇


 ボウリングが終わった後、カラオケに行くというみんなとは別れて、6時に家につくように帰ることにした。


 まだみんなと一緒にいたかったし、芝田君ともう少し話したかったが、香澄と約束しているので、名残惜しい気持ちを抱えながら帰ってきた。

 家のドアを開けると、いい匂いがしていた。

 そういえば、誰かが待っている部屋に帰ってくるのは久しぶりであることに気づく。


「おかえり、もう少しでできるから、手洗っておいで」

「わかったよ。夕ご飯何?」

「ビーフシチューとグラタンだよ」


 美味しそうな夕ご飯に期待しながら、手を洗ってリビングに戻るとテーブルの上にはビーフシチューの皿が並んでいた。


「グラタンは今からオーブンで温めるから、先にシチュー食べよ」

「いただきます」


 ビーフシチューを口に運んだ。美味しい。


「香澄って料理上手なんだね」

「理央も料理覚えないとね。そういえば、今日遊びに行った中に男子はいたの?」

「いたよ。男女3人ずつでボウリングしてきた」

「理央はかわいいんだから、気を付けなさいよ。男子って優しくしても、結局は体だけが目的なんだから」


 香澄の言葉で芝田君のことが頭に浮かんだ。芝田君は誠実だし、体が目的ではないと思う。芝田君のことは香澄には話したくない。


「ところで、理央この部屋をでて一緒に暮らさない?」

「一緒に暮らすって、香澄の部屋に?」

「そう。研究会用に一人暮らしだけど2LDK借りてるから、一部屋空いてるよ。研究会用には別の部屋借りればいいし」


 若手のホープとして売り出し中の香澄らしい意見だった。相当、稼いでいるみたいだ。


「別に引っ越さなくてもいいじゃない?」

「ほらこのマンション、オートロックなくて不用心だからどうかなと思って」


 理人の時は気にならなかったが、女子高生の理央になって帰り道が心細い時もある。それに、香澄と暮らせば練習相手にも困らずにすむ。

 香澄の提案を受け入れることにした。

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