第7話 お泊り
荷物を抱えて部屋に戻ると、3時を過ぎていた。ちょっと疲れたので休みたいところだったが、香澄は碁盤の前に座って対局時計の設定を始めた。
「じゃ、1局打とうか。持ち時間1手30秒でいい?」
疲れてはいるが、まだ理央になって実践対局してなかったので試したい気持ちもあり、対局に応じることにする。
「私が年上だから、ニギるね」
年長者が白石を適当につかんで、それを奇数か偶数かあてる「ニギリ」で囲碁は先手を決める。黒は奇数と思えば黒石を1つ、偶数と思えば黒石を2つ碁盤の上に置く。
奇数と思い黒石を1つ置いたが、白石は10個。予想を外したので、先手は香澄となり対局が始まった。
静かな立ち上がりかと思ったところで、黒番の香澄が白の3間ビラキの間に打ち込んだところで戦いが始まった。相変わらず、碁盤の上ではけんかっ早い。
いつもなら戦いが起きると逃げる手を優先して考えるが、なぜか戦える自信があわいてきて、香澄の攻めに真っ向勝負を挑むことにした。
―――ハネでいけそう
黒のツケに対して、ハネかノビかで迷う局面だったが、脳裏に浮かぶひらめきがあった。ハネにキラれても大丈夫。そんな確信があった。
実践もハネに対して、香澄は切ってきたが、うまく効き筋を生かしながら切った石を取ることができた。
切った石がとられて白の陣地が確定したのを見て、香澄がアゲハマというとった黒石を碁盤に置いた。投了の合図だ。
「理央になってから変わったね。理人だと戦いが始まるとかわす手が多かったけど、今日は堂々と戦ってる」
香澄は碁石を片付けながら話しかけてきた。
「自分の打つ手に自信が持てるようになってきたって感じかな」
「あと対局中言おうかどうか迷ったけど、前のめりになった時に下着見えてるよ。」
そう言われて、今更遅いが咄嗟に胸を手で隠した。
「隠すってことは気づいてなかったのね。てっきり、買ったばかりの下着を見せたいかと思ってたよ。おかげで、私は楽しませてもらったけど、手合のときは、気をつけてね」
「儂も楽しませてもらったぞ。見えそうで見えないチラリズムっていうのも良いな」
神様は美味しそうにポテチをかじりながら、コーラを飲んでいた。
◇ ◇ ◇
夕ご飯は泊るお礼にということで、香澄が作ってくれた。食べ終わったあと、お風呂に入ろうとすると香澄もついてきた。
「お風呂一緒に入るの?」
「だって、トリートメントとかの使い方わからないでしょ」
「それはそうだけど、香澄は大丈夫なの?」
「今は女の子同士でしょ。気にしないから、大丈夫」
香澄に背中を押されて、お風呂場へと行くことになってしまった。一緒についてきた神様を脱衣所の外に追い出すと、香澄は恥ずかしげもなく服を脱ぎ始めた。
理人の時好きだった香澄の裸を見ても、女の体になっているためかエロい気持ちはわいてこない。
ジロジロ見るわけにはいかないので、一瞬だけ見たが香澄の胸って大きい。それに比べて自分の胸は小さいなと思っていたとき、香澄から胸を揉まれた。
「やっぱ、直に触った方が気持ちいい〜」
「やめてよ」
「女の子同士、胸揉み合うぐらい普通だよ。それに今、自分の胸小さいって思ったでしょ?揉んだら大きくなるって言うし、お姉さんが揉んであげるよ」
そうなの?女の子同士ってそんなことしてるの?単に香澄が胸揉み魔だけなのか?いろいろと疑問がわいてきたが、裸のまま脱衣所にいるのも寒いので、お風呂に入ろることにした。
体を洗って、シャンプーまでいつも通りしたところで、トリートメントの使い方を香澄に聞いた。
「こうやってトリートメントを付けてから、温めたタオルで巻くの。これで10分間ね。その間に私が体洗うね。」
香澄と交代で湯船に浸かった。一人が浸かるのが精いっぱいの小さな湯船だが、買い物でたくさん歩いたので温かい湯が気持ちいい。
「毎日、これやるの?」
湯船に浸かりながら、体を洗っている香澄に聞いた。
「毎日しなくてもいいよ。週に1~2回でいいよ。10分したら、洗い流して、今度はリンスね」
「女って、面倒だな」
「キレイは作られるものなの。理央も頑張りなさい」
一昨日までは同い年だったのに、いつの間にか香澄のことをお姉さんと思えてきた。
◇ ◇ ◇
お風呂から上がると、今日買ってきたドライヤーを取り出し、髪を乾かすことにした。
ドライヤーの電源をいれ温風を当てていると、香澄が遅れてお風呂から上がってきた。
「理央、髪の毛より先にスキンケアして」
「髪濡れたままだと、体冷えない?」
香澄はやれやれという表情になり、理央の頭にタオルを巻き始めた。
「こうしておけば、髪の毛の水分がたれないでしょ。ほら、今日買ってきたの持ってきて」
「化粧水と、美容液と、乳液があるけどどれ?」
「全部よ」
えっ、3つもするの?そのあと香澄に言われた通り、化粧水、美容液、乳液の順で塗っていった。
そのあとようやく髪を乾かすことになり、ドライヤーを手に取り温風を当て始めたところで、香澄のダメ出しが入った。
「そんなんじゃ乾かないよ。ったく、ドライヤーの使い方も分からないの?」
「当たり前だろ、使ったことないんだから」
「こうやって根元に温風当てないと乾かないよ」
香澄がドライヤーで髪を乾かしてくれる。なんだかちょっと気持ちいい。
「まるで姉妹みたいじゃの」
姉はいないけど、いたらこんな感じなのかもしれない。香澄も満足そうな笑みを浮かべて、髪を乾かし続けてくれた。
◇ ◇ ◇
自分は床に寝るから香澄はベッドに寝てと言ったが、女の子同士遠慮しなくて良いと香澄から強く言われ、狭いシングルベッドに二人くっついて寝ることになってしまった。
電気を消した時、そっと頬を撫でられる感触があった。
「何してるの?」
「プルプルで気持ちいい~。スキンシップよ。女の子同士だったら普通だから、理央も触っていいよ」
本当は憧れの香澄の体を触ってみたい気持ちもあるが、気おくれしてしまって触れない。
香澄の方は遠慮なく、頬やお腹を触ってきている。不思議と嫌な感じはせず、むしろ気持ちいい。その心地よさに体を任せていると、いつの間にか眠っていた。
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