第6話 女の子って大変

 ―――なんじゃこりゃ!


 朝起きて鏡を見てみると、盛大に寝癖がついて髪の毛が爆発していた。理人の時は短髪だったので、クシなんて気の利いたものはこの部屋に存在しない。

 しばし呆然と立ちすくんでいたが、どうすることもできないので、お腹もすいていたこともありひとまず朝ごはんを食べることにした。


 昨日お風呂入った後、そのまま寝たのがまずかったのかな?そんなことを思いながら、パンを口の中に運び、牛乳を飲む。

 神様は、昨日コンビニで買っていた豆大福をムシャムシャと食べている。


 パジャマを脱ぎ、「明日はこれを着ておいてね」と香澄に指定された服に着替え始めた。

 ちょうど着替え終わった時、チャイムが鳴った。約束の9時にはまだちょっと早いが、香澄がきたみたいだ。


「やっぱりね。そういうことだと思った。この部屋ドライヤーなかったから、髪タオルで拭いただけでしょ」


 持参したドライヤーを使って、寝癖を直してくれている香澄の言葉は図星だった。


「じゃ、昨日のうちに教えてくれよ」

「それじゃ、私のありがたみがなくなるでしょ。クシの通りも悪いし、シャンプーだけで、トリートメントやコンディショナー使ってないんでしょ」

「なんだそれは?」

「今日、一緒に買いに行こう。せっかくきれいな黒髪なのに、傷んだらもったいない」


 ようやく寝癖直しも終わり、買い物に行こうと立ち上がった時、またしても香澄から指摘が入った。ミニスカートについている共布のリボンの結び方が違うみたいだ。


「その結び方、リボン結びじゃなくて、蝶々結びになってる」

「リボン結びと蝶々結びって違うの?」

「全然違う。理央も女の子なんだから、覚えなさい」


 そう言いながら、香澄はスカートのリボンを結びなおしてくれた。女の子って、いろいろ覚えることが多すぎる!


 ◇ ◇ ◇


 買うものが多いので一か所で済みそうな、近所の総合スーパーへと向かった。土曜日ということもあり、店内は混雑していた。すれ違う人が一瞬自分の方を見ているような気がしてしまう。


「みんなから見られている気がするけど・・・」

「理央も理人だったころ、かわいい子がミニスカートだったら見てたでしょ」

 

 確かにそうであったがゆえに、反論はできない。大多数の男性は一瞬見るだけで何もしないことも、同じ男としてわかっているので少し安心は安心だが・・・


「ゆらゆら揺れるミニスカートは堪らんの」


 昨日までは横並びに歩いていた神様も、今日は真後ろについて理央のお尻を堪能しながらついてきている。このエロジジイは、一瞬どころかずっと見続けていて、うっとうしくもある。


「隠さなくても覗かないぞ」


 スーパーのエスカレーターを上がるときはお尻を抑えたことに、神様は不満のようだ。いや、絶対覗くだろ。


 ◇ ◇ ◇


 下着売り場に入ると色とりどりの下着が飾ってあり、ソワソワしてなんとなく落ち着かない気持ちになってしまう。

 理人の時は変な人と思われたくないので近寄ることすらできなかった下着売り場に、今日は買いに来たと思うとちょっと不思議な気持ちになる。


「すみません、この子のサイズを計ってください」


 下着売り場に着くなり、香澄は店員さんを呼び止めてサイズ測定をお願いした。


「妹さんですか?」

「そうなんですよ。この子ったら、ずっとスポブラでちゃんとしたブラ持ってないから、買いに来たんですよ」


 フィッティングルームに向かって歩きながら、店員さんは香澄と会話していた。いつの間にか妹という設定になっているみたいだ。


「う~ん、やっぱりピンクかな?」

「儂は水色もいいと思うぞ、あと紫も捨てがたいな」

「確かに紫だと大人っぽさが出て、可愛い理央の顔とのギャップがいいかも。でもだったら、いっそのこと黒もどうかな?理央の白い肌とあいそう」

「そうだな、やっぱり黒がいいな」


 フィッティングルームから出てくると、先に香澄はブラを選び始めていた。香澄が独り言のように話しているのに神様が返事をして、神様と二人で理央の下着を選びながら盛り上がっている。


「サイズは80のBだって。あと盛り上がっているところ悪いんだけど、シンプルに白でいいんだけど」

「白は意外と透けるの。いいから、姉さんに任せてなさい。80のBか、だったらこっちのほうがいいかな」


 そう言って理央の意見を完全に遮断して、下着を選びを続けた。


 数分後、ようやく決まったところで一度試着してみてと言われ、ピンクのブラを渡された。

 初めてブラジャーを至近距離でみてドキドキしてしまう。細かい刺繍やフリルがあってかわいいと思えてきた。いつまでも眺めているわけにもいかないので、受け取り試着室にむかった。


「なんで香澄も一緒に入るの?」

「なんでって、ブラの着け方わかるの?」

「着け方って、腕を通してホックを止めればいいだけでしょ」

「やっぱり分かってないね。ていうか、分かってたら怖いけど。正しい着け方教えてあげるから、早く脱いで」


 昨日の着替えはまだ下着をつけていたが、ブラジャーの試着のためには全部脱がないといけない。裸になることに抵抗があるので渋っていると、


「ほら、他にも買い物あるんだから早くして」


 香澄からせかされてしまった。覚悟を決めて上着を脱いだ。


「サイズは小ぶりだけど、形がいいね。やっぱり若いと張りがあっていいね」

「がん見しないでよ、恥ずかしい」


 香澄に教えてもらった通りに、前かがみの状態でホックを留め、カップ少し浮かせてから反対の手でバストの位置を調節した。


「どう、初めてのブラジャーは?」

「こんな苦しいの毎日しないとダメ?」

「ダメに決まってるでしょ。しないとバストの形が崩れるよ。すぐに慣れるから大丈夫だから安心して」


 目の前にいる香澄をはじめ世の中の女性は、こんな思いをしているのかと思うと頭が下がる思いになってしまう。


 ◇ ◇ ◇


 そのあともスーパーで、リンスやトリートメントを始め、化粧水や乳液などの基礎化粧品などいろいろ買い物を続けた。

 買い物がおわると両手いっぱいの荷物になっていた。


「今日一日でかなりお金を使ったよ。女の子ってお金かかるんだな」

「その分、頑張って稼ぎなよ」

「わかったよ。家に帰ったら、囲碁の勉強するよ」

「ああそうだった。今日理央の家に泊まるからね」

「えっ、なんで?」

「買ったはいいけど、化粧水の使い方とか分からないでしょ。一緒に泊まって教えてあげるから」


 香澄の足取りはなんだか楽しそうだった。


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