第4話 神様の好きなもの

 ―――キンコーン、カンコーン


 チャイムが鳴り、昼休みになったことを知らせた。

 朝学校にくるときにコンビニに寄って昼ごはんを買う時間はなかったので、学食に行くことにした。朝はいろいろあって朝ごはんを食べる暇がなかったので、お腹がペコペコだ。


「理央も学食?いつも昼休みはバナナ食べながら、囲碁の本読んでるのに珍しいね。学食行くなら、一緒に行こう」


 また余計な設定を盛り込んでいる神様の方を向いて、抗議の意味も込めて睨みつけたが、当の神様は素知らぬ顔をしておりそれが余計に腹ただしく感じた。


 学食の入口にある食券機の前で、何にしようか悩む。カツ丼が美味しそうだけど、女の子がそんなガッツリしたもの食べると変に思われるかなと心配して、控えめなところできつねうどんにして選んだ。


 麺コーナーで食券を出してきつねうどんを受け取り、周りを見てみると先に席をとっていた由香が手招きしていた。

 由香のトレイにはカツ丼とプリンがのっていた。


「由香、カツ丼にプリンも食べるの?」

「プリンなんて飲み物みたいなものだし、甘いものは別腹だよ。午後からは体育もあるからしっかり食べておかないとね」


 カツ丼を美味しそうにほおばる由香を見ながら、自分もカツ丼にしとけばよかったと後悔しながらきつねうどんをすすった。

 ふと横をみると神様が羨ましそうな顔で二人の食事風景をみていた。神様もお腹がすくのかな?何食べるのかな?霞かな?

 そんなことを考えているうちにあっという間にうどんを食べ終わった。


 ◇ ◇ ◇


 昼休み明けの4時間目は体育のため、由香と一緒に体育館にある更衣室へと向かった。更衣室に入ると、由香はためらいもなく上着を脱ぎ始めた。

 見てはいけないと視線を外すが、外した先でも別の女子が着替えていた。


 ―――目のやり場に困る!


  男の理人の時は見たくてしょうがなかった女性の着替えシーンだが、いざその中に放り込まれてしまうと逆に恥ずかしさでいたたまれない気持ちになってしまう。


 体育の時間も迫っているため恥ずかしがってばかりはいられないので、自分も着替えることにした。


「理央、いつも隙あらばみんなの胸を触りまくってるのに、今日はおとなしいね」


 また一つ、余計な設定が明らかになった。


「昨日、対局だったからちょっと疲れてるの」


 適当にごまかし、変な設定をぶち込んでいる神様の方を睨んだ。


「ほら、みんなからそんなキャラと思われているなら、遠慮せずに触ったらどうだ?」


 女子の胸を触って許されるなら触りたい気持ちもあるが、罪悪感や羞恥心が先に立ち実行できない。

 神様は他の女子の着替えを鼻の下を伸ばしながら堪能していた。エロジジイと心の中で毒づきながら、更衣室を出た。


 体育の授業はバスケットボールで、走ったり、跳んだりするたびに揺れる女子生徒の胸を食い入るように神様が見ていた。

 欲望丸出しの姿をみると、神様への尊敬の念が薄れていった。



 ◇ ◇ ◇


「お腹がすいたの~」


 学校からの帰り道、神様が理央にも聞こえるような独り言を言った。周りにあまり人がいないのを確認して、小声で話しかけることにした。


「神様って、何食べるの?リンゴとか、霞とか?」

「リンゴは死神だし、霞は仙人じゃ。こんないい天気の日は、昼からぬる燗のお神酒をきゅっと一杯やりたいところじゃ」

「理央はまだ高校生だから、お酒は買えないぞ」


 神様はしまったという表情になって、腕を組んで何やら考え始めた。


「まあ、お神酒はどうにかするとして、甘いものも好きだから、そこのコンビニで『期間限定!とろけるクリームたっぷりのシュークリーム』でも買ってくれ」

「やけに世俗のことに詳しすぎないか?それに買わなきゃだめか?」

「お主に与えた才能を、いつでも取り消そうと思えば取り消せるぞ。それでも良いか?」


 半ば恫喝のような脅し文句には逆らえず、コンビニに入ることになった。


「シュークリームとそこのエクレアも美味そうじゃな。あとしょっぱいのも欲しいから、ポテチも買っておくれ」


 コンビニに入ると神様は無邪気に喜びながら物色を始めた。どんだけ食べるんだとあきれながらも、言われた通りの商品をかごに入れレジに向かった。


「あっ、レジ横にある大福も欲しい」

「すみません、これもお願いします」


 会計中の店員にレジ横に置いてあった豆大福を渡した。女子高生一人が買うにしては不自然な量になってしまった。


 ◇ ◇ ◇


 家に戻ると早速シュークリームを食べ始めた神様を横目に、碁盤の前に座り囲碁の勉強を始めることにした。

 まずは棋譜ならべから始めることにした。手順が記録された棋譜を見ながら、黒石、白石を交互に並べていく。

 この手にはどんな意味があるのかを探り、もし自分だったらどこに打つか、打った後はどんな変化になるかについて考えながら並べていく。


 様々な変化図が頭の中に浮かんでくる。今までよりも深く考えられるようになってきていることが実感できた。


 神様がくれた才能は嘘ではなかったことを改めて実感した時、スマホからメッセージの着信音がなった。

 香澄からのメッセージで、「今から家にいってもいい?」と書かれてあった。


「珍しいな」


 独り言をつぶやきながら、「OK」の返信をした。

 以前は香澄とは何回かこの部屋で一緒に練習対局をしたこともあったが、理人が香澄への思いを告白してからは、香澄がこの部屋を訪れることはなくなっていた。


「あ~、儂が呼んだ。エクレアも美味しいの~」


 エクレアをほおばりながら、神様が理央の独り言に反応した。


「神様って、人の行動も操れるのか?」


 その質問をしたときに、香澄からの返事が返ってきた。


「雑誌の取材で院生時代の棋譜が必要なの。理人なら、もってるでしょ」


 確かに院生時代からの棋譜はとってあり、香澄とも何回か対局してあり、棋譜も探せばあるはずだ。

 香澄はプロ入り後も順調に勝ち星を伸ばし、若手のホープとして注目を浴びつつあり、囲碁雑誌の取材も何回か受けている。


「人の行動を完全に操ることはできないが、きっかけは作ることができるぞ。例えば、ふらっとコンビニに立ち寄らせることができたり、ラーメンが食べたいと思わせたりするぐらいのことはできる。今は棋譜が必要な時に、お主のことを思い出させたというわけじゃ」


 神様はポテチを食べながら、解説してくれた。でも、今の香澄のメッセージ何かおかしくないか?

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