第38話 深い森の奥で
ヨーロッパのデカダンス、まだまだあるよ〜
と言いたいとこだけど、誰もが知ってる有名作品は別に僕が書く意味ないんですよね。よかった、おもしろかった、感動したって話はほかにもいっぱいありますよ。
『ハドソン川の奇跡』とかね。『羊たちの沈黙』『パニック・ルーム』『ストレンジャー・コール』『マレフィセント』もよかったよね。美しいファンタジー。
ディズニーじゃないヨーロッパ映画の実写『美女と野獣』も見たなぁ。
同じくヨーロッパの白雪姫の実写映画。ダークファンタジーのノリで義理のお母さんとラスト白雪姫が戦ってた。白雪姫と赤ずきんを足したような話だったかな? 義理のお母さんが狼女なんだよな。たしか。あ、違う。あれはあれで別の話だっけ? 赤ずきんをダークファンタジー風にアレンジしたやつもあったような?
西洋は童話を主題にした文学性の高い実写映画って、けっこうよく作りますよね。カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『ロバの皮』美しいらしいけど、これは見たことない。見たい……。
ディズニーの実写で、アニメのお姫様が現代社会に出てきてしまうセルフパロディありましたよね。あれもよかった。
あれこれあるけど、みんなが知ってるのは、いいや。
というわけで、たぶん、今回が最終回です。
最後にご紹介するのは、フランスの女性監督の作品。ソフィア・コッポラかと思ってたけど、どうも違うみたいだ。タイトルも思いだせないので、今回も検索しようがない。申しわけない。
フランス映画だったのは確実。なにせ、監督がフランスの人だから。そこだけは覚えてる。
映画は二本立て。長めの一本めと、オマケのような15分ていどの二本め。オムニバスですね。一本めがサスペンスで、二本めが恋愛物。同じ監督の作品です。両方ちょっと短いんで、放送枠として二本放送したようだ。
一本め。
フォンテーヌブローの森かな? 場所はくわしく覚えてないけど。昔は貴族が狩りをしてた森。今は相手を見つけたい男女のハントの場になっている。
この森の近くの一軒家に住む人妻。三十代かなぁ。黒髪の美人。夫が船乗りだかなんだかで、長いあいだ留守にしている。妊娠してたんだったかなぁ? 赤ちゃんが生まれてたかも。
映画の出だしは明るい日差しのあたるキッチンで、椅子を使って自分をなぐさめる人妻。椅子のでっぱり部分をあてて、カッタン、カッタンとゆらす。なんか、けだるい。この行為は今後も作品のなかでしょっちゅう出てくる。一人でさみしい暮らしの象徴か。
そんなある日、家に若い娘(あんまり美人じゃない。がっしりタイプ)バックパッカーがやってくる。道に迷って困ってるんで、今夜一晩だけ泊めてほしいとか、そんなだったか?
なんやかんやでこの娘としばらく同居することになる。共通の知りあいがいるとわかったんだったか? もしかしたら、旦那の友達で泊めてあげてくれって手紙を持ってきたんだったか? 最初は明るくてすごくいい子に見えたので、すんなり同居をゆるす妻。
だが、しだいにこの娘の変なとこが見え始める。いい人のふりしながら、奥さんの歯ブラシを便器の水のなかにつっこんだり。寝室に飾ってある旦那の写真を見て引き裂いたり? 何よりも赤ちゃんを抱いたとき「あなたのママでちゅよー」とか言ったかどうかは覚えてないけど、不穏な空気をそこはかとなくかもしだす。
この女、犯罪者か? 絶対、おかしい。
それに気づいて「あなたとはもういっしょにいられない。出てって」と迫ると、娘は豹変。スプーンだかフォークだかふりかざして襲ってきた……ような気がする。
じつはこの女は旦那の浮気相手で、妊娠したものの流産したせいでふられたのだ。それを逆恨みして赤ちゃんを奪いに来たんだったと思う。
そのあと二人でもみあいになり、たぶんだけど、ウッカリ、果物ナイフかなんかで妻が娘を殺してしまう?
よく覚えてないので、考えられるもう一パターンとしては、あっけなく娘に殺される……だけど、そこまで後味悪くはなかった気がするんだよねぇ。
あれ? まさかの都合よく旦那が帰ってきて助けてくれるパターンだったかな? その前に電話で娘のことを話してて、浮気相手だと気づいた旦那があわてて帰ってくるパターン。ああ、これだったような気も。
そのあとのオマケ掌編のほうが記憶に鮮明。
ここでさっきの森が生きてくる。主役はパリかどっかの大学生の青年。森の近くに別荘を持つ(もちろん親の別荘。本人は同じ大学生)ゲイの友達と夏休み、泊まりに来ている。本人はゲイではないと言いはるが、別荘に寝泊まりするかわりにやらせろという友人の言いぶんをあっさり受け入れてる。
映画の冒頭はこの別荘の玄関あたりでゲイの友人とディープキスで始まる。
「ここじゃダメだよ。またむかいの親父にのぞき見される」
「あんなのほっとけばいいよ。自分が相手いないから欲求不満なだけだろ。見られたら興奮するじゃん」
「でも今日は港のバイトに行かないと」
だかなんだか、忘れたけど、外に用事があって、自転車で出かける主役。
森のそばに砂浜もあるんだけど、そこで観光客の魅力的な娘に出会う。長い黒髪。彼女も大学生で夏休みだから各地を旅してまわってるとかだったかな。船で来てて、明日出港の帰りのチケットをもう買ってある。
しばらく話して意気投合。このとき、ゲイの友達と別荘に来てる話とかが出る。
「ゲイなの?」
「おれは違うよ」
「でも好きなんでしょ?」
「好きじゃないよ。むこうがしつこく迫るから、やらせてやってるだけ」
「女の子とはやったことないの?」
「あるよ。なんなら、今やる?」
二人はその場で女の子が着てたワンピースを敷物がわりにして、そういう仲に。
事後、木の根本に置いといた男の服が一式なくなってる。森にいる他の連中に盗まれたらしい。
「どうしよう。真っ裸で街なか通れない」
「このワンピースをあげるわ。あたしはバックパックに着替えがあるから」
大きな花柄のワンピース。白地に赤や青の模様。わりとミニ丈。
「スカートなんか、はけないよ」
「裸よりマシでしょ?」
「じゃあ、借りるけど、明日、港に返しに行くよ。必ず」
「うん。待ってる」
全裸の上からワンピース一枚を着て帰る青年。髪短いんで、正直、似合ってはないんだけど。自転車乗ると、なかが見えかねん。すれ違いにヒューヒューとか口笛吹かれてたっけ。
別荘に帰ると、ゲイの友人がお出迎え。
「何、そのかっこ」
「君が喜ぶかと思ってさ」
女の子のことは隠す。
友人は大喜びで、玄関さきのシューズボックスに主役をすわらせ、ワンピース着たまま、やる。のぞくむかいの家の親父。
ゲイじゃないと言うけど、主役自身ノリノリ。チュバチュバ、キスしつつ「好きだ。好きだ」とか言ってた気がするんだけど。場面がベッドに移ったときには全裸になってる。
「ほつれちゃった。君が乱暴にやるからさ」
「おれを喜ばせるためだったんだろ?」
「気に入らなかった?」
「よかったよ」
チクチクほつれを縫いなおしながら、そんな話を。
翌日。約束の時間に港へ行き、女の子にワンピースを返す主役。
「ありがとう」
「これくらい、あげたのに」
「……また会える?」
「わからないわ」
ほんとはもっと別の話をしたいふんいきの二人。でも、言えない。ちょっと涙ぐみながら船と港。見つめあい、船は出る。fin。
ティーンエイジャーのうつろいやすいジェンダーを表した短編映画らしいです。
短い映画だったし、とくに感動とか、この映画好きだーとかいうわけじゃない。ないんだけど、こういうのがなぜか、ずっと小さなカケラになって心の奥底に刺さってるんですよね。
だから何?
ってやつのほうが、ずっと残るのかも?
で、そういう一つずつは小さい破片のようなものがザラザラと暗闇に埋まっていて、鏡みたいにキラキラしたり、チカチカ、チクチクしたりする。ときには合体して大きな鏡像を映す。
そういうのをかきあつめて小説を作る。
内部にとりこまれた、もとの形はわからない記憶のカケラたちが、無数の作品として生まれ変わる。
創作って、きっと、そんなもの。
了
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