第32話 イザベル・アジャーニ三連発
『王妃マルゴ』
これは当時わりと評判になったので、知ってるかたも多いんじゃないかと。
フランスお得意の歴史に題材をとった映画です。これも映像美。画面がとても美しい。豪華です。
細かい具体的なことは忘れてるんで、ネットでちょっと調べると、16世紀の宗教戦争時代が舞台なんだそう。
主演はイザベル・アジャーニ。この女優さん、ご存じでしょうか? ものすごい美人なんですよね。美人の女優さんはたくさんいるけど、なんか独特の儚げで壊れそうなふんいきがある。たぶん瞳の色のせいかな? 透きとおる白い肌に黒髪、淡いグリーンの瞳。もうそのまんま白雪姫です。この人が出てるだけで、映画にふんいきが出ますから。歴史的な衣装、似合いますよねぇ。
監督はパトリス・シェロー。音楽ゴラン・ブレゴヴィッチ。衣装デザイン、モイデル・ビッケル。衣装デザインもアカデミー賞とってるらしいですよ。たしかに、すごく豪奢で美しい衣装だった。
原作はアレクサンドル・デュマ・ペール。文豪ですね。
ただストーリー的には奔放に愛に生きる王妃マルゴの悲しい人生ってだけで、さほど複雑なプロットがあるわけじゃなく、なるほどフランス映画っていうデカダンス。
政略結婚をして、夫を愛してないマルゴが真実の愛を求めてさまよう。男前の伯爵に出会って、激しく求めあう。夜、どっかのトンネルのなかで逢引きして、立ったまま愛しあったり。
この恋が周囲にバレて二人は引き離され、伯爵は罪人(たぶん無実の罪に陥れられた)で投獄される。彼がギロチンにかけられる前日にマルゴが牢屋にたずねてきて、泣きながら語ってたかなぁ?
最後、斬首された伯爵の首を持って、獄卒かなんかに頼むんですよ。
「これは王家に伝わる秘薬です。これを使って(生首の)美しさを保って」
つまり防腐処理をさせる。その首を持って馬車に乗りいずこへか旅立つ……みたいな終わりかただった。
マルゴはかわいそうな女なんですよ。なぜ、真実の愛を求めたのか?
途中で夫が死んだのか、離婚したのか忘れたけど、とにかく実家に帰る機会があるんですけどね。ひどい家族なんですよ。なんか画面が暗くて変なふんいきだなぁと思ってたんですけどね。四、五人の兄弟が勢ぞろいしてて。弟が一人。
「伯爵なんかとは別れろ。家の恥だ」
「わたしたちは愛しあってるのよ。誰にも引き裂けないわ」
「おまえはおれたちの言うとおりに従ってればいいんだよ!」
で、急に兄たち全員でマルゴを追いかけだして、ん? これは? 逃げだそうとするマルゴを押さえつけてドレスをぬがせる。まだ十五かそこらの弟なんか笑いながら服をぬぎすて、「姉さんが石女でよかった!」兄弟全員で襲いかかる。
この場面、ほぼ狩り状態ですよ。無力な小狐を一方的に追いまわし、笑いながら殺す。
いやいや。石女だったんじゃないだろ? おまえらが石女にしたんだろ? たぶん、度重なる中絶で産めなくなったんだ……。
今だともしかしたら、石女って差別用語かもしれないけど、映画でほんとに言ってたんですよ。ふんいきをありのまま伝えるために使ってます。
マルゴは結婚前のまだ少女のころから、ずっと兄弟たちの性暴力を受けていたらしい。
だから、ほかのすべてをすて、伯爵との愛にだけ生きた、と。
フランス映画らしい悲恋物。
ところで、これ(監督名とか)を調べてるとき、「アデルの恋の物語のイザベル・アジャーニが主演」と何度も見かけたので、気になって、アデルの恋の物語も調べてみました。そしたら、それも見たやつでしたね。イザベル・アジャーニ美しいので、この人が出てるととりあえず見るようにしてたので。
アデルの恋の物語……こちらは原作アデル・ユゴー。要するに自伝というか、日記をもとに作られてる。伝記恋愛映画って書いてあった。実話です。
アデルはヴィクトル・ユゴーの娘です。イザベル・アジャーニの出世作となった映画。こっちは1976年製作。かなり古い。
映画のレビューを見ると、胸がしめつけられるほど切ないです、とか何件か見かけるんだけど……え? そう?
これ見たとき、正直、怖かったよ?
純愛っちゃ純愛なのかねぇ?
僕は端的に表すには、あるストーカーの物語って言えばわかりやすいと思う。
もしかして、あれ? この前、『グッド・ウィル・ハンティング』をつまらないと言ってる人は共感性に乏しい人って書いたようなもん?
つまり、僕が恋愛作品って別にとくに好きなジャンルじゃないんで、よさがわからないのか?
恋愛作品を熟知してる人にとっては、ものすごい涙ドバドバ止まりませんーって作品なのかな?
うーん。とりあえず、ストーリー紹介。
ヴィクトル・ユゴーの次女アデルが33歳のとき、ある国へ上陸する。かつて一度だけ関係した初恋の男、イギリス軍中尉のピンソンを追ってきたのだ。アデルは今までにもこのピンソンの駐屯地へ転々とストーキングしてたみたい。
さて、やってきたアデルはピンソンへ毎日手紙を書く。会いたい、会いたい、会いたいわ。
しかし、ピンソンは本気じゃなく、ただの遊びだったので、最初は無視。あまりにもしつこくて無視しきれなくなると、やってきて「おまえとのことは終わったんだよ。もう手紙もよこすな。さっさと親父のもとへ帰れ」とつきはなす。
ちなみにお父さんのユゴーはこのピンソンを嫌ってて、アデルにも二人の結婚をゆるしてないらしい。
しかし、ふつうの人ならそうとうヘコむくらい激しく拒絶されたにもかかわらず、あいかわらず、アデルはずっとピンソンが好き。手紙を書き、つきまとう。
周囲にはピンソン夫人だと言いふらし、ピンソンが婚約したと聞けば、婚約者のもとへ行き、「わたしのお腹にはピンソンの子がいるのよ」などと、あることないこと言って婚約破棄させる。お父さんのユゴーにも結婚を認めてくれるよう説得し続け、なんとか承認を得ると、「わたしたち結婚しました」と嘘の報告したり。
怖い。怖い。完全にストーカーじゃん。
ただ、ピンソンの借金のために自分の有り金すべてをなげだして、自分は文無しになるので、献身的で一途な部分もある。思うに、最初に拒絶されずにすんなり結婚してたら、案外いい奥さんになるタイプだったのかもしれない。
いや、でも、ピンソンの借金ってのも、アデルのせいで軍を辞めさせられたからじゃなかったっけ?
その後、お金のないアデルは下宿を追いだされ、貧しい黒人さんたちの住むスラム街でボロボロの服を着てさまよってたらしい。
さすがに心配になったのか、たずねていくピンソン。ひどい様相の彼女に「アデル?」と話しかけるが、彼女は気づきもしない。完全に正気を失っていた。
このときも彼女の妄想のなかでは、自分はピンソン夫人なんだけど、愛する人に声かけられても気づかない。自分の殻に閉じこもって、自分の妄想を壊しそうなもの、まわりのすべてが目に入ってなかったんだろうか?
親切な黒人さんが彼女のお父さんが有名な作家だと知って、連絡してあげて、アデルはユゴーのもとにひきとられたらしいけど。その後、アデルは精神病院で残りの生涯をすごす……fin。
救いがない。誰得なのか?
アデル自身も狂気に埋没。ピンソンもアデルのせいで落ちぶれるし。
この映画のほうが王妃マルゴより評価高いのがわからない……。
ところで、アジャーニの出てる映画で、もう一つ忘れられないやつがある。アジャーニ三連発。個人的にはコレが一番好きかも。なぜなら、ホラーだから!
この映画、クトゥルフ神話物だったんだと思う。友達が知りあいから大量に(ホラーばっかり)ビデオテープをもらったので、見させてもらったんですよ。
タイトルは忘れてたんですが、アジャーニ出演作で検索したら、たぶん『ポゼッション』ってやつだと思う。長い単身赴任から帰ってきたマルクは妻のアンナのようすが妙に冷たいと思う。妻の浮気を疑うが……って出だしがピッタリなので。
マルクは妻のあとをつけたりして、浮気相手を問いつめる。でも「おれなんか遊びだよ。アンナが本気のやつは別にいる」とか言われて。
でも家の外で会ってるのは、その男だけ。じゃあ、外じゃないなら、なかで会ってるのか? なか? 家のどこかに間男が隠れてるのか?
ある日、出かけたふりして妻を見張ってると、妻は地下室へおりていく。つけていくと、なんと、そこにいた驚愕の浮気相手とは!
で、ここでクトゥルフ神話へなだれこむ。
奥さん、クトゥルフっぽい大ダコの触手と快楽をむさぼってました。
ラストどうなったんだったかなぁ?
旦那があっさりタコに食われたか、奥さんも変身して旦那を殺したか?
どっちみち、ハッピーエンドではなかった気がする。なぜか、これもマルゴより評価高い。笑っちゃいますね。
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