第31話 皇太子と太陽



 ん? タイトルだけ見たら、なんか美しい恋愛映画みたいですよね?

 違うんですよ。またまた、ただれたヨーロッパ映画です。フランスではなかった気がする。ポーランドとかベルギーとかハンガリーとか、なんかそんなあたり。オーストリア?


 ちょっと調べてみたけど、出てこないなぁ。タイトル覚えてない。決して名作とは言えないB級っぽい映画だった。

 けっきょく名作は出てくるけど、B級は古いとひっかからなくなるってことか?


 これも見たのが前述の『アンゲロス』とかのころなので、たぶん1990年代の映画じゃないかと思う。

 このころはほんと変な洋画をたくさん見てた。今みたいにネット配信ないから、深夜映画いっぱいしてたしなぁ。


 さて、この映画に出てくるのは、ヨーロッパのどこかにある小国の皇太子と、その幼なじみで従姉妹? だったかな? それがヒロイン。ダブル主役っぽい作りだった。どちらの視点からも描かれて。

 この二人がひっつくまでのドタバタラブコメなんだけど……。


 今流行りの悪役令嬢とか聖女とか、婚約破棄物とかじゃないです。実写です。

 時代は今よりちょっと前の感じだったなぁ。

 ポアロとか、ホームズとか、あのくらいのふんいき?


 これもゲテモノで変な映画でした。皇太子はモテ役なのに、なぜかちょっと髪薄かったし。なんかイケメンに見えないんだよなぁ。

 ヒロインは美女でした。赤毛? 栗毛だったかな?


 ただし、この二人。両方ヤバイ性癖の持ちぬしなんです。と言っても、皇太子はゲイなだけなんだけど。男にしか興味ない。歴代の恋人はみんな男。なぜヤバイのかは、のちのち明らかに。


 もっとヤバイのはヒロイン。じつは、このヒロイン、複数の男に同時にやられないと感じないという性癖の持ちぬし。なので、いつも数人の男友達とやりまくる、させ子。まぶしい光がなぜか苦手。


 でも、皇太子と仲はいい。子どものころはよくいっしょに遊んでた。大人になってからは会ってない。


 ところで、皇太子はぼちぼち結婚しなさいと両親から口をすっぱくして言われてた。じゃないと皇太子を廃嫡しますよ、などと。

 しょうがなく、形式だけの結婚相手を決めるためのパーティーがしょっちゅうひらかれる。


 ヒロインも従姉妹ってことは親戚なので、じつはいいとこの令嬢。パーティーにも招かれる。


 豪華な宮殿みたいなとこに、集まる親戚一同や貴族。花嫁候補の若い娘とダンスする皇太子。


 それを無関心に見るヒロイン。


「あなたは行かないの? マドレーン(例のごとく今、勝手に決めた名前)。皇太子と仲よかったじゃない?」


 と話しかけてくるこの女。ようわからんけど、従姉妹かなんからしい。

 年齢的にはどう見ても、ヒロインよりだいぶ上なんだけど。皇太子よりも上? ぱっと見、親戚のおばちゃんかと思った。けど、まだ独身で、皇太子が子どものころから花嫁の座を狙ってる。


「アダン(皇太子の名前も忘れたんで、てきとう)は女に関心がないのよ。でも、そうね。なつかしいわ。ちょっと話すくらいはしてみたい」


 皇太子のもとへ行こうとするけど、従姉妹のおばさんAがコンパクトミラーをとりだし、まぶしい光でヒロインの気分を悪くさせる。体調をくずしたヒロインは皇太子と再会はせずに帰る。


「あら、大丈夫。マドレーン?」

「その鏡、やめて。頭が痛くなる」

「あら、ごめんなさい。そう言えば、あなた苦手だったわよね」

「なぜ嫌いかは覚えてないの。医者は強い光に精神的な苦痛を感じるからだと言ってるわ」


 つまり、このおばさんA、ヒロインがまぶしい光に弱いと知ってる。ここ、大事です。のちに明かされる事件の犯人はこのおばちゃんね。皇太子とヒロインが仲いいんで妬いてたらしい。二人を引き裂くために。だからって、あんた、それヒドすぎるよって事件を起こすんだけど、この映画はなぜか、それがシリアスでなく、コメディ調に表現されてるんですよねぇ。


 その後、細かいことは忘れました。あいかわらず、皇太子は男を追っかけてて、最近にふられた恋人とヨリを戻そうとしてたんだったか、お気に入りの若い子をものにしようとしてたんだったか。髪薄いのに……。


 ヒロインはヒロインで、こっちもあいもかわらず、男友達二人を呼んでトリプルプレイ。でも、ひさしぶりに見た皇太子のことがなんとなく気になって、乗り気になれない。


「もう充分でしょ。わたしもう帰るわ」

「まだいいじゃないか。マドレーン。楽しもうぜ?」

「しつこくしないでよ」

「きどるなよな。誰とでも寝る淫売のくせに!」


 男友達とケンカしてしまう。家に帰って泣きながら考えるヒロイン。


「わたしたち、あんなに仲がよかったのに。なんで離れたんだっけ? まぶしい……白い光……頭が痛い。いつもの頭痛が……何かを思いだしそう。悪いことを」


 まだアレコレあった気もするけど、ここらでヒロイン、思いだす。


 十年前くらい? 日本人から見て小六か中一くらいの少年少女だったから、西洋人からしてみれば、まだ十歳くらいだったのかもしれない。


 その日、ヒロインは家族や親戚たちをまじえて、大勢で浜辺に遊びに来ていた。白い砂浜に強い光が反射して、みんな水着を着ているので、バカンスか。あのおばちゃんAもいる。おばちゃん、このときすでに現在とあんまり見ため変わらない。少なくとも成人なので、やっぱりヒロインたちより十歳は年上なんだと思う。


 親戚の子どもなのか、クラスメイトなのかわかんないけど、同じ年ごろの男の子が十数人いる。

 このなかの一人に耳打ちして、何かそそのかすおばちゃんA。


 ヒロインは皇太子と二人で大人たちからちょっと離れて遊んでいる。浜辺の茂み。わらわらと少年たちがやってきて、おさげ髪、美少女のヒロインに話しかける。


「いっしょに遊ぼう」

「いいわよ。何して遊ぶ?」

「ごっこ遊びだよ。女の子はごっこ遊びが好きだろ?」

「何ごっこ?」

「夫婦ごっこさ」

「夫婦ごっこ? 何するの?」

「教えてあげる。水着をおぬぎよ」


 はい。何があったかわかりましたね。

 このときの経験のせいで、ヒロインは強すぎる光が苦手になりました。ショックのあまりだと思うけど、このときの記憶じたいはなくなってしまってて、ただなんとなく、強い光を受けるとイヤな気持ちがする。一方で、初体験がこれだったので、複数とやらないと感じない体になってしまってる。


 このとき、皇太子はというと、夫婦ごっこがどうのこうのと少年たちが言いだす前に、一人だけ別行動の少年に誘われて離される。


「僕らはこっちで」

「えっ? 何するの?」

「いいこと」


 皇太子は皇太子で、初めての相手が同性だったため男好きに。


 なぜか、これがコメディ調。うーん。そんなかんたんな問題なのか?


 まあいい。過去のトラウマを克服し、すべてを思いだしたヒロイン。


「そうだわ! わたしがほんとに好きなのはアダンよ!」


 じつは、皇太子はそのころ、女には興味ないので誰と結婚しても同じだと思い、おばちゃんAの逆プロポーズを受けていた。飛行機に乗り、国へ帰りしだい、国民に婚約のおひろめをすると決まっていた。


 皇太子を追って、急いで空港へむかうヒロイン。

 その間、なんでかよくわからないけど、いっしょに皇太子を追いかけてる男が二人くらいいて、どっちがさきに皇太子をつかまえるかっていう競争みたいなシチュエーション。


 このへんくらいまではシュールながらに、なかなかおもしろいし、なんならDVDあってもいいと思ってたんだけど、このあと、めちゃくちゃ汚いシーンがあって、いっきになえた。

 航空券を手に入れるためだったかなんだかで、窓口の事務員と問答になるシーン。この事務員の女の人、数日前から便秘に悩んでました。よし、今日こそはと下剤を飲んだ直後にヒロインや男たちがやってきて、「早くチケットを!」「早くしろ、早く!」責めたてられる。

「ああ、待って。ちょっとだけ待って。効いてきた。効いてきたわー!」

「早くしないと数分の遅れが一大事なんだ!」

「早く!」

「ああー!」


 このやりとり、せめて、音だけでやめといてくれたら、笑えるシーンですんでたと思うんだけど。

 なんと、事務員がおもらし(大)をしてしまう映像が出てくるんですよ。茶色いゆるめのやつが大量に……。

 汚い! 汚すぎる!

 これでいっきにB級どころか、C級、D級、いや、クソ級まで下落。汚い……。


 まあ、なんとかヒロインはまにあって、皇太子に真実を告げ、皇太子もかつての愛を思いだす。


「そうだった! ずっと君を好きだったんだ。なぜ忘れてたんだろう。もう離さない!」

「アダン!」

「マドレーン!」


 二人は抱きあい、幸せな結婚をしましたとさ。めでたし。めでたし。

 そういう話。


 それにしても、あれこれとツッコミどころの多すぎる話だった。

 誰もこんな映画、見たことないだろうなぁ……。

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