第27話 カサノバ
これはタイトル覚えてたよ。短いし。
おかげで調べてみたら、1976年の映画だとわかりました。監督はフェデリコ・フェリーニ。主演ドナルド・サザーランド。原作者はジャコモ・カサノヴァ。『我が生涯の物語』
これね。ストーリー性はほとんどありません。原作者を見ればわかるように、イタリアの実在した人の自伝をもとにしてるので。
このカサノヴァは調べると、山師と言うのがピッタリかな? 口先八丁と自身の魅力でまんまと貴族になり、人脈をひろげた作家らしい。生涯に千人以上の女性と関係したんだそうな。
今でも有名な色事師。
で、映画はそのカサノバの恋愛遍歴を彼の放浪の人生とともに描いている。ジャンルはコメディ/ロマンスと書かれてる。
作品として感動できる、とかではないんですよ。でも、これもまた忘れられないインパクトの映画。
なんと言っても映像美ですよね。カサノヴァが18世紀ヨーロッパの人なので、舞台背景、服装など、それなわけです。ベルサイユのバラ的な。どの画面も華麗な装飾で、とにかく豪華だった。
で、その美しい画面のなか、美男美女が織りなす恋愛劇——かと言えば、そうじゃない。当時の映画評論かなんかに書いてあったけど、カサノヴァってそれまでにも何度か映画化されてて、そこではすこぶる美男として描かれてた。しかるに、この『カサノバ』では、登場人物たちはみんな、ちょっと変な人として表されてるんですね。
そうなんだよ。主役からして、イケメンなのに妙にオデコひろすぎる。オデコ……デコさえ普通ならイケメンなのに。あとちょい後退してたら、ハゲてますねぇとイジられかねない。その微妙なライン。
女の人たちも美人なんだけど、みんなどっか変。完全に色情狂とか。美少女なのに青白い顔ですぐに失神する女の子とか。ひとことで言えば、奇人博物館。
幽鬼のような顔色だったけど、「彼女に足りてないのは血でも栄養でもない。私はそれが何か知っている」とか言って、失神してる彼女をやっちゃうとか、今だとコンプライアンス的にどうなんだ? でも、それで貧血から治るっていう。女の子も嬉しそうにカサノバの髪をなでてたし。
カサノバはヨーロッパ各地を放浪しながら、その土地の権力者の庇護を受けて生活してるわけで、権力者のなかには変なやつもいるわけですよ。
役者やお芝居に入れあげて、自作の劇を自宅で上演しちゃう伯爵(だかなんだか、とにかく貴族)とかね。あきらかにオネエとして描かれてた。舞台衣装を全部、伯爵本人の手で刺繍したんだそうだ、とか言われてたなぁ。
舞台には金粉をぬりたくった腰布一つの美青年と伯爵本人が出てきて、愛の詩を歌うっていうシュールさ。カマキリかなんかに例えてたかなぁ? 「愛は奪うもの。メスは待ってる。奪われるのを」みたいなこと。
伯爵のとりまきが客に呼ばれてるわけで、みんなお世辞言って、「素晴らしい歌声だ」「役者も美青年だし」とか言ってたなぁ。
ちなみに美青年が女役。女形ですね。この時代はまだお芝居は男が女を演じてたころかな? シェイクスピアのころそうだったらしいですよね。シェイクスピアの詩(ソネット)が当時の少年俳優にむけて捧げられたんじゃないかとかなんとか。
このときは、その恋愛観で伯爵とケンカになったんだったかな?
ケンカと言えば、酒場だったか、別の貴族邸だったか。なんかの集まりのなかで、「おれなら一晩で十回やれるね!」と豪語する男がいて、色自慢のカサノバはこれに反発。
「十回は不可能だ(ほんとの回数は忘れました。七回とか八回だったかもしれない)。一歩ゆずって八回は可能だとしても、十回なんてできない。私だって八回が限度だよ。それ以上やるには体力だけじゃない。そうとうの気力と細やかな技巧が必要になってくる」とかなんとか。
「じゃあ、どっちが上か競争しようぜ!」
「いいとも。受けてたとう」
なんて対決もあった。時間を夜明けの何時までに両者が何回できるか。より多くやったほうが勝ち。やった数はまあ、出した数ですね。お相手の女の人の申告です。出されたら手をあげる。
生卵をたくさん飲んで準備するカサノバ。相手はそのへんにいた女の人をてきとうに。酌婦かも? すんなり受け入れる酌婦の度量の大きさよ。
熾烈なデッドヒートのすえ、両者ヨレヨレになりつつ、対戦者は失神。一、二回差でカサノバの勝利。しかし、ヨレヨレ。
こういう騒動を各地でくりかえしながら、荷物を持って馬車で旅。豪華な衣装をつめたカバン二つ。
なんか印象に残ってるのは、お金がなくなったんだかなんだかで、御者に馬車から追いだされる場面。
「何をする。乱暴な」とか言うんだけど、けりだされた上、次々、カバンをなげすてられて、哀れ路上放置プレイ……。
このあと、どうなったんだったかなぁ? このときすでにちょっと年とりかけてたんだよな。知りあいの貴婦人に出会って滞在させてもらったんだったかも。
最後は老人になっていて、あいかわらず女好き。酒場で若いキレイな女の子をくどくんだけど、まったく相手にされない。女の子が惹かれてる男に頼んで、女の子を誘ってもらい、暗闇のなかでじっさいに待ってるのはカサノバ。で、やることだけやったあと、明かりをつける。女の子は好きな男だと思ってたので泣きだす。
「あなたなんて、ただの口の臭いおじいさんよ!」とか罵られて。
そのあと、ある貴族の屋敷で食客になってるんだけど、みんなの前で詩をひろうしても、誰にも相手にされない。どころか、クスクス笑われる。
「あれでも昔はすごいモテたらしいぜ」
「ウソでしょ」
「古くさいよ。今どき流行らない大仰な詩だな」
とか笑いものにされ、すごすごとしりぞく。
たぶん、カサノバのモノローグが入ってfin。
これが私の生涯だ、みたいな。
最後のほうは零落して物悲しいですね。
いやいや、だまされて奪われた酒場の女の子かわいそう。
後味がいいか悪いかは置いといて、ヨーロッパ特有の貞操感の薄さ。デカダンス。華麗な映像。何より、奇人博物館。いろんな意味でインパクトのある映画です。
今現在、貴婦人のあいだを転々とするジゴロの話を書いてるわけだし、この映画が僕の肥やしになってるのは疑いようもない。
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