第25話 ベルセルク



 もう、ここまで鬱作品続いてるから、いいよね。デビルマン書いたなら、これ書かないわけにはいかない。こっちは比較的最近にテレビ放映されたりもしたので、知ってる人が多い作品なんですが。

 マニアックと言えばマニアック。王道ではない。どちらかと言えば、邪道なストーリー展開。邪道なところが斬新だったんですよね。当時。


 それまでのヒロイックファンタジーでは、主役や主役のまわりのメインキャラが、拷問にあって〇〇になる……なんて展開はゆるされなかったですから。


 映画の三部作は作者が亡くなられたあと、去年、地上波で放送されたようです。僕がここで書いてるのも、この三部作。


 ベルセルクじたいはもっと長い話なんですが、映画はその4〜13巻までの部分を三部にわけて作られてます。いわゆる黄金時代編。


 主役はガッツ。黒髪の大男。死せる母の遺体から生まれたという鬼太郎的な誕生逸話を持つ。そのため、生まれつき孤児なので、傭兵のガンビーノ(とその恋人シス)にひろわれ、戦場で育てられるんですが、ガンビーノがひどいやつでね。まあ、虐待されて少年になった。シスはわりと幼いころに疫病にかかって死んじゃうし。あれは天然痘ですね。けっきょく、ガンビーノを殺して逃げだすことに。


 一人で放浪してるときに、出会ったのが、グリフィス率いる鷹の団です。グリフィスは銀髪をなびかせる超絶美青年。物語のなかの人のようとか、女性のごとき美貌とか作中でも言われてる。そのカリスマ性で仲間から厚い信頼というか、むしろ崇拝されている。


 とくに、かつてグリフィスに救われた女兵士(鷹の団紅一点)キャスカはグリフィスに恋愛を超えた憧憬をいだいている。


 さて、ガッツはグリフィスとの決闘に負け、鷹の団に入ることになった。キャスカやほかのメンバーと反目しあいながら、じょじょに打ちとけていく。数々の戦場を撃破していく鷹の団。グリフィスはミッドランドという古い格式を持つ王国の傭兵として、次々と功績をあげていく。もちろん、その陰にはガッツの超人的な働きもあった。


 ここらへん、ガッツとグリフィスの友情が深まり、破綻していくまでが描かれています。ベルセルクじたいが、この二人の友情を軸にしたブロマンスと言える。そこにエロとグロがたっぷりなげこまれたダークファンタジー。


 ベルセルクって、じつはクトゥルフ神話だと思うんですよね。冥界の最奥にいる神って、あきらかにアザトースですよね? 使徒の姿もほぼクトゥルフの邪神だし。あのえげつない造形は素晴らしい。あんなデザイン、よくできるなぁ。


 ストーリーのほうは、いよいよ将軍の位を目前にするまで昇りつめるグリフィス。でも一方で、仄暗い宮廷の陰謀にまきこまれ、グリフィスの暗殺者としても暗躍していたガッツは、鷹の団を去る決意をします。


 このちょっと前に、プロムナーズ館の夜会というのがあって、このときに、グリフィスがミッドランド王家の一粒種シャルロット姫に、自分の夢に対しての考えを述べる場面があるんですが、このときのセリフが、まずそれを聞いていたガッツとキャスカの足枷になり、のちにはグリフィス自身の枷になる。


 ガッツはグリフィスのとなりに立つにふさわしい男になるために、自分の夢を探したいと思う。なので、出ていく決心をする。


 ある寒い雪の日の朝。ガッツがそっと宿舎を出ていく。が、仲間に見つかって、いろいろひきとめられ、聞きつけたグリフィスがやってくる。二人は決闘をする流れに。ガッツが勝てば除隊を認めるという。結果的に、グリフィスは人生で初めての負けを喫する。


 ここ、すれ違いなんですよね。二人のあいだにはコミュニケーションが不足していた。

 グリフィスは自分と対等な存在が唯一ガッツだけだと思ってる。強く賢く美しい人なので、まわりの人たちは自分の夢を叶えるための駒でしかない。そのなかでガッツだけが肩をならべられる存在だった。

 ガッツはこのころ、グリフィスのとなりにふさわしい男になると何度も言ってるくらいだし、例のプロムナーズ館で、自分を対等だと思われてないと感じて衝撃を受けてますので。

 どちらも相手を思うあまりのすれ違い。ブロマンス。

 作中でも二人は地をかける黒き狼(ガッツ)と空を翔ぶ白い鷹(グリフィス)として描かれてますし、対の存在なんですよね。


 グリフィスは『因果律で定められた御子』でもあるんですが、ガッツの存在じたいが、その因果律に組みこまれた特別な存在っぽい。


 かなりのちに、ガッツとキャスカが結ばれて、そのときの子どもができるんですが、このあとの大事件『蝕』の出来事によって、この子どもは生まれる前から呪われた魔物となります。その子どもが死ぬ寸前、グリフィスの器(現世での肉体)として利用されるので、ガッツとキャスカの子どもでありながら、魂はグリフィスっていうややこしい状態に、のちのちなるんですが……そもそも、グリフィスの出生って謎なので、じつは時空を超えて存在する二人の子どもだったと言っても不思議はない、と僕は思うんですよね。


 決闘、離別のあとの蝕にまつわる一連の事件を省いてるので、読者にはなんのことやらサッパリかもしれませんが。


 なんで省いてるかって?

 ベルセルクはその場面のために存在する作品だからです! そこだけは自分で読んで体感してほしい。壮絶です!


 とにかく、決闘の直後、ガッツを失ったグリフィスは激しい喪失感にとらわれたんでしょうね。ある失敗をしてしまって、投獄され、拷問を受けることに……そこから、運命が狂いだす。いや、むしろ、そこから運命が始まる。


 そう言えば、これを書く少し前に、最新刊って何巻だっけとネットで調べたんですよ。そのとき、グリフィスの蝕の行動について理解できない、あれで嫌いになったという書き込みを見つけたんですよね。

 純粋な人だなぁ。きっと家族やまわりから愛されて幸せに生きてきた人なんだろうなぁと。


 僕は痛いほど、グリフィスの気持ちわかるんですが……。


『路地裏の少年』からの蝕にいたる湖の場面が、ベルセルクのなかで一番好きです。何度、号泣したか知れない。夢なかばにして、すべてを失ったグリフィスの無念さ、悲痛さ、死にきれないみじめさ、からの、死体をつみあげて城へ至る道を築こうとする壮絶な執念。まさに渇望。それをゆいいつ、忘れさせたガッツに対する憎悪にも似た愛情ですよね。

 今、おまえに(中略)二度とおまえを……の『……』の部分、僕はどうしても『ゆるさない』にしか読めないんですよ。信頼や友情をすて、出ていったガッツの裏切り(グリフィス的には、たぶんそう)に対する憎悪。夢を忘れさせたことへの憤怒。それでも、まだどこかで大切な思い出を自分の手で粉々に壊す悲哀。なんかそういう、いろんな感情がまざりあってる。

 キャスカにアレなのは、ガッツへの復讐ですよね。自分の大切なものをすべて奪ったガッツに、今度はおまえの大事なものを全部奪ってやるっていう。


 夢追い人なら、グリフィスの気持ちはわかるはず。


 ん? ガッツが主役なのに、グリフィスのことしか書いてない? すいません。だから、グリフィス派なんですよ。


 ちなみにこの話、未完なんですが、作者さまはどういう構想だったんでしょうね?


 ふつうに考えれば、明らかに悪なのはグリフィスなので、ラストはガッツに倒される。または、相打ち。

 相打ちの可能性は高い気がするなぁ。対の存在なので。友情が復活して死ぬのかなぁ? それともゆるせない?


 あと、ガッツが持ってるベッツィ。あれ、たぶん、ほんとにパックのものなんだと思う。何度もそれについて言及してるので、あれは伏線ですね。

 今の状態で戦っても、ガッツ側が戦力不足と、以前、誰かが書いてたけど、軍隊としての戦力差はあんまり関係ないんじゃないかなぁと。大負けして、全滅寸前でパックが奇跡起こすんじゃないかなぁ。で、パック自身が使徒化するんじゃなく、ガッツが強化されて、グリフィスと相打ち。


 僕が書くとしたら、そんなふうに持っていく……。

 最後は一なる場所で安らか(?)に、となるか。

 もしかしたら、そこからさらにもう一戦あって、邪神(アザトース)との対戦になるかも? その場合は最後の最後で、二人、協力するかもね。


 現状で最終話になってるところ、わりと切りがいいんだけど、あのあとの展開としては、キャスカがグリフィスにさらわれるかな? 僕なら、そうする。(これ書いたあとに出た最新刊で、やっぱりさらわれた)そんで、ガッツが追う。最後の決戦にむけて物語は大きく動くのだった、みたいな。


 妄想が止まりません。

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