第22話 ドライ・クリーニング



 ほんでまた、ただれた話。

 これはタイトル覚えてるので、ネットで調べると出てくる。1997年のフランス、スペインの映画だそう。監督はアンヌ・フォンテーヌ。


 これも知ってる人は少ないんじゃないですかねぇ?

 深夜に一度だけ放映されたやつだから。

 当時、テレビガイドを買ってたので、映画はのきなみチェックしてたんですよ。ちょっと変なやつがやってたら、必ず見てた。


 さて、タイトルでわかるように、この作品の舞台はクリーニング店です。アラフォーくらいの夫婦が二人で経営しているドライクリーニング店。夫婦は恋愛結婚だったけど、今は毎日の生活を単調にくりかえすだけで、すっかり冷めてる。


 そんなとき、街で倒れてたとかなんとか、そんな感じだったかなぁ? 路頭に迷ってる美青年を見つけ、住みこみで店の手伝いをしてもらうことになります。というか、ほぼ保護してやってる状態。うろおぼえだけど、ケンカでもしたのかケガしてたような気がするんだよね。


 最初は心をひらかない美青年なんだけど、そのうちじょじょになついてくる。ノラネコ状態。過去に何があったのか語らないけど、不幸な家庭で育ったようで、これまで誰にも優しくしてもらったことがない。


 夫婦は自分たちに子どもがいないし、夫婦生活が冷めてるので、美青年がいることによって、日々の暮らしに刺激がわき、なんだか生き生きしてくる。


 夫のほうも美青年にクリーニングの仕事を教えながら、子どもみたいだなんて思ってた。最初はずっとは面倒見れないとか言ってたけど、このまま、こんな日が続くのもいい……なんて。


 ところが、三人って数はね。三角関係なんですよ。

 ある日、夫が仕事の配達から帰ると、妻と美青年がいない。なんとなく妙なものを感じとり、足音を忍ばせて家の奥へむかう。

 案の定、妻と美青年がやることをやっていた。


 ショックを受けるものの、何も言わず、その場を去る夫。

 ふつうなら、ここで「この恩知らずの間男めが!」となって美青年を追いだすんだろうけど、なぜか夫は追いださない。それどころか、気づかないふりをする。美青年に出ていってほしくないのだ。嫉妬は感じているものの、彼が出ていくくらいなら我慢したほうが……いや、でも……と葛藤する。


 この映画、いっさいモノローグがないんですよね。なので、心情はセリフや表情などから察していかないといけないんだけど。

 そういう心情を表すセリフも少ない。あと、この映画にかぎらずだけど、ヨーロッパの映画って、日本人とは思考法やら宗教やら習慣やら、アレコレ違ってるので、日本人の感覚では理解しきれないときがある。

 ただまあ、作品のテーマから言って、美青年に惹かれていたからなんでしょう。


 イライラしながら、悶々と暮らす夫。いちおう主役はこの夫らしいんで。それを忘れるためにひたすら働く。当然ながら、青年のことはさけるように。


 青年もちょっと変わってるなと思うのは、奥さんとそういう仲になってるなら、旦那を無視するとか、奥さんと逃げるとか、ほかにやりようはあるだろうに、なぜか、これまで同様、ふつうに親しげに夫に接してくる。夫のほうがぎこちなくさけると、さみしそうな顔さえする。翻弄されて、夫はますますイライラ。


 だが、ある日、ついに地下室(仕事の過程で使ってる)で、美青年と二人きりに。

 逃げだそうとすると、美青年が問いつめてきた。


「待てよ。なんで逃げるんだよ。このごろ、あんた、変だ」

「……」

「言いたいことあれば言えばいいだろ! アンナ(妻。てきとうに僕がつけた)か? 知ってるんだろ? おれとアンナのこと。だから、おれを無視するんだ。そうなんだろ! なんか言えよ」


 なぜか逆ギレする美青年。しかも泣きながら、

「おれ、初めてだったんだよ。こんなに優しくされるの。アンナも、あんたも、二人が大好きなんだ。二人がいてくれないとダメなんだ。お願いだから、おれを嫌いにならないでよ」


 なかなかのファム・ファタルぶり。男だけど。


 戸惑う旦那。どうしていいのかわからない。

 ああ、でも、

「たしかに、私たち夫婦は冷めきってた。でも、おまえと浮気してる彼女を見て、悔しかったんだ。やっぱり、妻を愛してるとわかった。もう一度二人でやりなおす。おまえはもう出ていけ!」

 とか言ったような気がするな。


 すると美青年は怒り狂って、

「違う。あんたが愛してるのはおれだ。アンナとおれの情事、ずっと前から気づいてたくせに、言いだせなかったのは、そのせいだろ? おれに出ていってほしくなかったんだ。悔しかったのは、おれに妬いたからじゃない。アンナに妬いたんだ。そうだろ?」


 そう言って、なんと、その場で夫のズボンをおろすと、ブスリとやりだした。こういう海外の同性愛物って、なぜか美青年がやられるほうじゃない。やるほう。ディカプリオが詩人のランボー役だった『太陽と月に背いて』でもそうだったな。


「やめろ……やめろ!」とか言いつつ、ほんとにイヤならさけられたと思うんだよねぇ。


 そして、このあと、とつぜんの急展開。

 やっとの思いで美青年をつきとばすと、打ちどころ悪く、あっけなく美青年は死んでしまった。


 呆然とする夫。

 しかし、そのあと妻を呼ぶと、二人で死体の処理をし、それまでどおり退屈で刺激のない毎日に戻るのだった……。


 フランス映画っぽいですよねぇ。


 こうやってみると、ほんと、僕って妖美というか、退廃的な話が好きなんだなぁ。それか、切なく悲しいやつ。かたよってる……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る