第21話 動物って、けなげ
また、ただれたような映画が続きそうになったので、たまには心洗われるやつを。
みなさん、動物が出てくる映画、好きですよね。動物と子どもとラーメン出しとけば、あるていどの視聴率はとれるって昔からテレビ業界では言うらしいですね。
ただね。またタイトルわかりません。そんなに古い映画じゃないはずなんですが、たぶん、めちゃくちゃマニアックなんでしょうね。
去年か一昨年……まあ、ここ三年以内に見た新春映画です。外国のアニメでした。45分くらいの短いやつ。
これもヨーロッパの映画だったと思います。基本的に心に残る映画って、僕の場合、洋画なんですよね。
邦画にも面白いのは数々あります。ありますが「ああっ、面白かったー! 満足」で終わってしまう。放送すれば何度でも見るけど、でもだからといって、心のひだにずっと、しこりのように澱むことはない。邦画のアニメ映画で心にグッサリ来たのは、ベルセルク、ルパンVS複製人間、銀河鉄道999。この三つだけ。
ま、それはともかく、本作の主役はワンちゃんです。ある一匹のワンコが生まれて死ぬところまでを描いた作品になります。
絵柄は影絵のようなというか、切り絵のようなというか、そんな感じのちょっとシュールな絵本チックな絵。ワンコの気分で背景が変わるので、つねに装飾的で可愛い。セリフはほとんどなく、たまにワンコのモノローグが入る。
〇〇(ワンコの名前)の幸せ、または、〇〇の幸せな生涯、みたいなタイトルだったかなぁ?
ただ、これ、生涯がしっかり描かれるので、決して明るい話ではありません。わりと不幸なワンコでした。でも、本人(本犬)は幸せだったと言うんですよねぇ。そこが切ない。
映画冒頭で、いきなり交通事故の場面から始まります。ワンコが車道で車にひかれてしまう。道路によこたわるワンコ。そこにかけてくる女の子。
「〇〇! 〇〇! しっかりして。〇〇(いいかげん、主役の名前くらい覚えとこうよ)ー!」
ワンコのモノローグ。
キャロ(だかなんだか、女の子の名前)? キャロなの? そんなに泣かなくてもいいよ。大丈夫。もう痛みもなくなってきたから。それに、わたし、今まで、とっても幸せだったんだから。それはたまに悲しい別れもあったけど、わたしのなかで、みんなの思い出はずっと残ってる。それを思いだすだけで幸せ。わたしの最初の思い出はね。とにかくたくさんの兄妹たちと、ころがりあってたこと。ぬくぬくして、クンクンして、すごく心地よい記憶から始まるの……。
そんなことを言いつつ、モノローグから回想に入ります。生まれた家はお金持ち。
あっ、まずはお父さんとお母さんの出会いから描かれてたな。お金持ちのペットであるお高い純血種のお母さんと、あきらかに犬種の違うご近所のお父さん。いつもお父さんの散歩中に、門の格子の前で飼い主さん同士が長話。そのあいだにできちゃった子どもたちでした。
で、お金持ちの飼い主はミックスを認めない人だった。もしかしたらブリーダー? いや、それにしては雑な管理だったもんな。とにかく、五、六匹も生まれた子犬のあつかいに困った。そのうち一番可愛い子だけ家に残して、ほかの子たちは里子に出したんだけど、一匹、また一匹と貰われていくなか、最後まで残った主役犬。ダンボールに入れられ、野原にすてられた。野原を冒険するうち、女の子に出会う。これが冒頭にワンコを呼んでた女の子。最初の大切な人だ。
この女の子がつけてくれた名前がワンコ的には自分の本名。ずっと自分はそれだと思ってる。
女の子のうちは、おじいちゃん、おばあちゃんがいて、家も貧乏。最初はお母さんが飼うことをゆるしてくれなかったけど、なんとかかんとか飼ってもらえる運びになりました。ワンコは生涯で三人の飼い主と出会うんだけど、そのなかで一番、愛してくれた飼い主でした。楽しくて楽しくてしかたなかった毎日。でも、小学生くらいだった女の子が中学生、高校生となると、だんだんワンコと遊んでくれなくなったのです。ある日、散歩につれてくとお母さんに嘘をついてワンコをつれだしたものの、ほんとはボーイフレンドとこっそり会うつもりでした。女の子は公園か野原の木にワンコをつないで行ってしまいます。
「待って。待って。キャロ。どこ行くの? 置いてかないで」
女の子を追いかけたワンコは迷子になってしまいました。そのあと、女の子は残されたリードだけを見て泣いてましたが。
そのあと、夜の街をさまようワンコ。野犬もいるし、乱暴な人間もいるし、危険がいっぱい。お腹もすいてくるし。そんなときに出会ったのが、二人めの飼い主。軟体曲芸師のマルコ(だかなんだか。若い男。イケメンなんだけど、軟体を表現するために、しばしば手足がタコみたいに巻いたり、体がグニャグニャする)すごく犬好きで、最初は可愛がってもらってたものの、彼には曲芸で成功したいという夢があった。遠くの大きなサーカスからスカウトされるが、そこでは犬は飼えないという。マルコはワンコを手放すなんて絶対ありえないと話を断る。が、犬のせいで夢をあきらめたという思いがわだかまりになり、態度が冷たくなる。ワンコは「もうダメだ。ここにはもういられない。悲しい匂いがしみついてる」と言って、自らマルコのもとをとびだします。
そのあと、またさまよってるうちに、ゴミ捨て場に迷いこみます。そこでゴミ処理をしてる作業員がこっそりめんどうを見てくれるんだけど、彼には交際中の女がいた。美人なんだけど、生き物が嫌い。それで、最初はゴミ捨て場で、そのうち自宅で彼女に隠しながら飼う。いよいよ結婚する前にワンコとひきあわせる。「あなたがお世話するなら飼っていいわ」と言うものの、ワンコはこのときすでに、女の人が犬嫌いだってことを見ぬいてる。
結婚式当初はワンコの存在を我慢したり、なんとか慣れようとする彼女。でも、けっきょく大事件が起きた。(たしか、見栄っ張りな彼女だったので、どうせならもっと自慢できる高級犬がいいみたいなこと言って新しい子を買ってきて、その犬とケンカになった)彼女は「あたしをとるか犬をとるか」みたいな主張で、ワンコを追いだすようにつめよる。男はしかたなく、離れて暮らす老母のもとへワンコを預ける。が、この母親も犬が好きなわけではない。しかも認知症。ここでも騒動を起こし、ワンコは逃げだす。
で、走って走って、泣きながら走ってる最中に、知ってる匂いをかいだ。それが、最初の飼い主のキャロだ。
「キャロだ! キャロがいる!」
必死に姿を探すワンコ。車のあいだを走りまわる。ようやく見つけたキャロは車に乗っていた。走る車を追いかけるワンコ。バスに乗ってたんだったかなぁ? キャロもようやくワンコに気づくんだけど、通りをよこぎろうとしたワンコはやってきた車にひかれて……。
ここで冒頭に戻るわけです。
「いいんだよ。キャロ。泣かないで。わたしは幸せだったから。最後にキャロに会えて嬉しかった。わたしのこと、覚えててくれたんだね。ありがとう。でも、眠いよ。すごく眠くなっちゃった。さよならなんだね……」
俯瞰で遠ざかり、よこたわるワンコが小さくなっていく。
これまでの飼い主たちとの楽しかった日々がパレードのように画面を通りすぎる。走馬灯。
「ああ、幸せな一生だったな」
終わり。
こんな感じのお話でした。
動物って悲しいまでにけなげですよね。それがとてもよく表されてました。映像もキレイだったし、犬好きさんにはぜひ見てもらいたいです。ハンカチを用意して。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます