第20話 裏切りの女吸血鬼



 これもタイトルがわかりません。深夜に一回だけ見た。吸血鬼映画を検索しても、いっこうに出てこない。ラストまで見ないと、真の価値がわからないタイプの大どんでん返しをやらかしてくれる映画。

 まあ、B級吸血鬼物だよねと油断して見てたので、できればもう一回、見てみたい……でも、見つからない。


 素直にヴァンパイアとか吸血鬼とかのついたタイトルじゃなかったんだよなぁ。なんとかの伝説とか、ラストなんとかとか、なんとかハンターとか、うーん……。


 主役は女性吸血鬼。ただし、彼女は人間と吸血鬼のハーフだったかもしれない。それか、完全な吸血鬼だけど、一族を裏切ったか。


 たしか黒髪ロングで長めの黒い革ジャンとかを着てた気がする。ちょっと濃いめの化粧。長身で、大きな剣を持って戦ってた……気がする。


 彼女はその昔、一族の始祖というか、リーダー? の伯爵? と恋人同士だった。でも別れて、人間の男とつきあっていた。回想シーンにいきなりバックスタイルのエッチシーンが入るなど、正統派のヴァンパイア物というより、色物の感じが、ここらでただよう。


 冒頭はヒロイン吸血鬼のモノローグで始まる。


 恋愛において刺激は大切だ。どんなに焦がれた大恋愛でも同じことのくりかえしだと飽き飽きする。

 そのころ、わたしは〇〇(恋人)と大恋愛の真っ最中だった。〇〇は人間。わたしは吸血鬼。でも、そんなこと関係ない。刺激的が重要——とかなんとか。


 ところが、その人間の恋人を例の伯爵に殺されてしまう。悲しみに沈み、怒り狂った彼女は復讐のため、ヴァンパイアハンターになる。次々に仲間を殺していき、伯爵の居場所をつきとめようとしていた。


 映画の時系列はここから始まる。恋人が殺されたのは数年前。この恋人との日々はその後も回想シーンとして、ちょこちょこ出てくる。


 伯爵を知ってそうな吸血鬼を殺していくヒロインだけど、だからと言って、人間の味方ってわけじゃないんですよね。吸血鬼なので、人間の血は吸う。

 そして、この女吸血鬼。血の味にウルサイ。飲んだ血に必ず採点をつけてた。上中下にさらに上中下をつける九段階判定。冒頭のほうで薬中の男に因縁つけられて殺して血を吸ったときは「下の下ね。薬の味しかしない。最悪」みたいなこと言ってたかな?

 女の人の血に「中の上ってとこかしら。くさみもなくて美味しいけど、ちょっと塩からい」とか。

 で、モノローグ入って、「わたしの知る最上の血の持ちぬしは、〇〇伯爵(敵のこと)だ。彼ほど素晴らしい血の持ちぬしはいなかった。芳醇にして濃厚。香り高いワインのように極上の美味だ。もちろん、上の上。特上よ」とかなんとか。


 飲むたびに言うんで、しかも映画のなかでかなりの回数飲むので、「へえ。なるほどねぇ。血の味ってみんな同じじゃないのかぁ」と妙なところにリアリスティックを感じた。


 まあ、そんなふうに全体にダークでドライに進んでいく。人も吸血鬼もバンバン死ぬ。

 伯爵のさしがねとおぼしき吸血鬼を倒し、ようやく、宿敵の居場所をつきとめたヒロイン。伯爵がひそむという洋館へおもむく。

 そこからしばらく、伯爵との死闘が続く。やるか、やられるか。どちらが死んで、どちらが生きるか。そこそこ派手なアクション。

 しかし、伯爵はさすがにこれまでの刺客とは違う。追いつめられるヒロイン。これまでか——


 こんなところで死ねない。だって、それじゃ、殺されてしまった〇〇に申しわけないわ。


 と、そこで……ここまではB級ながらに一貫性のあるストーリーで、そこそこまとまってたんです。それなりに面白いと思って見てました。問題はここから。


「はあっ? なんじゃソリャー!」となるラストが待ちかまえている。


 あわや、ヒロイン、もうおしまいか、というそのとき、なぜかとつぜん、攻撃を寸止めする伯爵。そして、それを見つめるヒロイン。長い。けっこう長いこと見つめあっていた。

 じょじょに距離が密接になっていき、抱きあうと、激しく口づけ、たがいの血を飲みあう二人。


「???」


 テレビの前の視聴者を起きざりにして、急に笑いだす二人。


「ああっ、やっぱり、あなたの血は最高ね。スペシャル級の特上よ」

「君の血も素晴らしい。どうだった? 今回の趣向は?」

「最高。楽しかったわ! あんまり真に迫ってたから、ほんとに殺されるんじゃないかと思った」

「それくらいしないと本気で楽しめないじゃないか。君のほうこそ、〇〇(人間の恋人)にずいぶんご執心だったね? ほんとに愛してしまったのかと心配だった」

「そんなはずないじゃない! 〇〇も可愛かったけど、彼はほんのつまみ食いよ。愛してるのはあなただけ」


 ……は?


 で、ここで冒頭と同じく、ヒロインのモノローグが入る。


「人生において退屈は一番の敵。愛には刺激が必要よ。だから、わたしたちはこうやって、飽きるころにおたがいを殺しあうゲームを楽しむのよ。すべては愛が長続きするため。彼ってほんとに最高だわ」


 腕を組んで密着した二人が夜道を歩いていき……FIN。


 マジか……なんだこりゃ?

 じゃあ、あんたらにまきこまれて死んだ人(吸血鬼)たちは? 人間の恋人は? ヒデェー。


 という衝撃を受けた作品でした。

 いやぁ、ダークというか、デカダンス。人間の命なんか化け物の前ではゲームの駒でしかないんだよ。わたしたちの愛のために死ね……。


 善人の僕は最初、腹が立ったんですが、あまりにも衝撃的すぎて、じゃあいっそ、こんな話を書いてみたい、いや、書いてみよう。


 というわけで、書いたのがエンデュミオンの話でした。

 主役は魔王の第九王子のエンデュミオン。魔王には十人の王子がいる。王女も数知れず。魔力が乏しくて王子王女と認められない子どもも多数。強い者だけが認められる魔界ルール。

 あるとき魔王が何者かに殺された。十人の王子たちのなかから誰か一人が次の魔王になることに。いちおうルールとしては、魔王がどこかに隠した魔力を見つけだすこと。で、だましあい、闇討ちなどで凄惨な殺しあいが始まる。エンデュミオンは一人だけ母が人間なんですよね。つまり、王子たちのなかでもっとも身分や立場が弱い。果たして魔王になれるのか?


 という、エロBLデスゲームでした。原稿用紙八百枚を二十日くらいで書いた。

 ラストはアレです。今回の映画のソレをそのままいただきましたので、もうご想像はつくかなと。

 なんだ、コイツら、ヒデェーとリア友に憤慨されました。


 こういう映画も確実に肥やしになっている。

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