第19話 ロング・ウェイ・ノース 地球のてっぺん



 比較的最近に公開された作品なので、知ってるかたもいるかもしれません。僕はたまたまテレビで二回見た。

 フランスだかどこだか、ヨーロッパで作られたアニメ映画です。


 アニメなんだけど、ひじょうに重くて、リアリティにこだわった作品になってます。ネットで見ると、どうやら、監督のお母さんの経験がもとになってるみたい? これ実話って、どんなスゴイお母さんだ。


 ここに書くってことは大好きなアニメなの?

 いえ、違います。正直に言えば、とくに好きではありません。二回見たのも、ほんとぐうぜんで。テレビ欄見たら書いてあったから、「もしかしたら前に見たあのアニメかも?」と思って見たら、そうだった。


 んじゃ、なぜ、わざわざ、ここに書くのか?

 それはやっぱり、フランス映画独特のモヤモヤ感が残るからですね。そこが芸術性、文学性なんだろうか?


 アニメと言いつつ、外国のやつって、いろんな点で日本のアニメとは大きく異なる。まず絵柄が違う(棟方志功っぽい丸顔)し、エロくない(ヒロインにあからさまな露出の激しいカッコをさせたり、無意味にパンチラがあったり、股のあいだから景色をのぞく構図があったり、胸がバランスくずすほどデカかったりなどが皆無)、エンタテインメント性が薄い。テンプレじゃない。(お約束がない)


 日本人がこれと同じストーリーを作ったとしたら、絶対、ラストに『ざまぁ』が来ると思うんですよ。さんざんヒロインをひどいめあわせてくれたあの卑怯者の王子の鼻っ柱を折ってやって、「ギャフン」(←古いとか死語とか言わないように)と言わせてる。

 なのに、この映画では、それがない!


 あらすじです。

 19世紀のロシア貴族に生まれたサーシャは、冒険家の祖父をひじょうに尊敬していました。しかし、その祖父が北極点をめざして船で旅立ったまま、行方不明になりました。それはただ失敗したというだけでなく、国家が多大な費用をかけて造った第一級の船を消失させてしまったという汚名をかぶることでもありました。


 何度も捜索されましたが、船はいっこうに見つかりません。

 ただ、冒険家としてのそれまでの栄誉をたたえ、新築される博物館におじいさんの名前がつけられることになっていました。


 さて、サーシャの父は名誉挽回のために、大使に任命してもらえるよう根まわししてました。そのために大勢の貴族や王子を招いてパーティーをひらきます。それはサーシャの社交界デビューの場でもありました。


 祖父のことを思いだし悲しい気分になっていたサーシャは、以前、祖父にもらった宝石のイヤリングをとりに祖父の部屋に入ります。そのとき、祖父の残したメモを見つけました。祖父が航海するつもりのルートが記されていたんですが、それは現在、捜索されているのとはまったく違う場所だった。


 パーティーの席で、もう一度、別ルートで捜索してほしいと、サーシャは王子に訴えるものの、じつはこの王子、とんでもないゲスで、博物館を自分のものにするために、伯爵家(だったはず)を陥れようとしていた。


 なので、わざとサーシャを怒らせるようなことを次々に言い、なんとか自分を抑えて懇願するサーシャの言葉尻をとらえ「こんなに侮辱されたのは初めてだ!」と激怒(したふり)してパーティーの途中で帰ってしまう。招かれた客も全部逃げていく。


 大使になれなかったお父さんは「サーシャ。おまえには期待していたのに」と頭ごなしに怒鳴りつける。

 失望したサーシャは一人でおじいさんの船を探しに行くため家出。世間知らずな貴族の娘が一人旅ですから、当然、悪いやつにだまされる。おじいさんの形見のあのイヤリングをとりあげられて(船に乗せてやるかわりの船賃と言ったくせに、サーシャを港に置いて出ていく)、行き場のなくなったサーシャは酒場で働くことに……。


 このときの酒場の女将さんがほんとにいい人でよかった。悪どい人ならこのあと人買いに売られたり、R18な展開になってくところ。昨今のラノベはかんたんにR18展開になるので、それは反省のしどころだと思う。やっぱり、そういうのは不朽の名作にはなりえない。


 まあ、ガッツリ労働力として鍛えられ、たくましくなったサーシャは因縁の船に乗りこみ、ようやく北極へと旅立つことに——


 このあとがメインストーリーなんだけど、まあ、雪と氷の世界で起こりえるあらゆる苦難を乗りこえて、おじいさんの船を見つけたのでした。嵐とか、仲間割れとか、船を失ったり、飢えとか。船長の大怪我とか、友達になった少年とケンカしたり。


 まわりの船乗りたちは船を見つければ懸賞金をもらえるって理由だけなので、ちょっと困難にあうと、すぐサーシャのせいにするんですよね。船に女なんか乗せたからだ、とか。


 そういうなかで、ただひたすら、祖父の名誉を守りたいサーシャの一途な思いだけがピュア。何度か心折れそうになりつつも、終始一貫して、目標のブレない強い子でした。


 ただね。日本のアニメだと、ラスト、見つけた船に乗って故郷に帰り、クソ王子を見返してやったり、横暴なお父さんを反省させたり、助けてくれた女将さんにはお礼言ったり、いろいろあるじゃないですか。いわゆるその後。エピローグです。

 それが、いっさいないんですよね。船を見つけました、感動! 終わり。

 ……なんですかねぇ? このスッパリした締めかた。

 追放されて、苦労しながら成功して、さぁこれから『ざまぁ』だ! ってとこで終わり。


 ここらへんが外国の人と日本人の感覚の違いなのかなぁと思います。

 そういえば、ディズニーでも露骨な『ざまぁ』ってしないですよね。主役は寛大にゆるす。それが西洋の美学なのかもしれない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る