第16話 デカダンスはフランスの香り



 基本的な自分の性格はマジメで素直。裏表のある人があんまり好きじゃない。純朴なタイプかなと思う。


 なので、自分自身で言えば、退廃なんてまったく無縁なんだけど、書く作品はわりとデカダンス。退廃、耽美、倒錯。そういうのが好物。


 そんな要素をどこからひろってきたかと言えば、マンガ、小説、それにフランス映画から。


 マンガはねぇ、とくに木原敏江さん、名香智子さん。貴族文化がお得意な漫画家さんですね。贅沢、豪奢、華麗、倒錯、爛熟、誇りと偏見、ムダに浪費される時間と湯水のごとく流れる金。けだるい空虚。そこに隠された純愛のエッセンス。


 肝心の映画は?

 そんなにたくさん見てるわけじゃないんだけど、フランス映画は強烈に記憶に残るのが多い。


 じゃあ、ものすごく好きなのかと言われれば、とくにそうじゃないんですけどね。一作ずつの内容や映像がどうこうというより、おそらくはデカダンスの香りに酔わされるんでしょう。


 あの作品、タイトルおぼえてないんだよなぁ。金髪の美女が出てくる映画だった。いろいろ調べてみたけど、ぜんぜんヒットしないんだよねぇ。当時の番組説明によれば、けっこう有名な名作らしかったんだけど。


 舞台はフランス植民地の南国。主役はフランス大使館に着任したばかりの若い外交官青年。将来有望な美青年が堕ちていく……そういう話がフランス映画には多い。アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』とか。あれもおもしろかった。


 ヒマな植民地で退屈していた青年は、あるパーティーで、魅惑的な美女に出会う。

 お近づきになろうとするが、最初はかるくあしらわれる。この美女はいわゆる、ファム・ファタルだ。決して近づいてはいけないたぐいの人。魔性の女。


 でも、冷たくされればされるほど、惹かれる。

 この映画、とにかく映像美が売りなので、細かい流れは忘れたけど、なんやかんや、二人はそういう関係に。でも、純真な青年はすっかり彼女を恋人のつもりでいるんだけど、彼女の態度は優しくなったり、つれなくなったり。

 エロい場面がけっこう出てくる。Rで言えば16そうとうくらいか? 18まで行くか? 全裸だけど階段の手すりできわどいとこは隠れてる、みたいな。そのまま、やる。豪邸の踊り場、風呂場。美しい風景のなかで、とにかく、やる。


 今でこそ本番ポルノ出まわってるけど、これ、公開当時はほぼポルノあつかいだったんじゃないだろうか?

 でも、画面が美しいせいで芸術作品に仕上がっている。


 ストーリーはその後、退廃。転落の一途。青年は美女にのめりこみ、彼女なしではいられないというのに、彼女はどんどん冷めた態度、または変なあおりをしていく。


「なぜだ、なぜわかってくれないんだ! 君を愛してるんだ!」と主張する青年に対して、ハッキリした理由を告げないんだけど、彼女的には完全に遊び。ヒマつぶし。恋多き女として、誰か一人のものになるなんて考えられないんだろう。


 青年に飽きたのかなんなのか知らないけど、現地の黒人少年の召使いを毎晩、可愛がってあげてるのよ、とか言う。


「〇〇(少年の名前)は黒いのよ。お口のなかで弾けるわ」なんて。大人ならわかる意味。


 嫉妬に狂った青年は、彼女の屋敷に行き(出入り自由)、問題の少年をむりやり寝室につれこみ、やっちまったのです。あ、殺してはないですよ?


 植民地ですから、白人は現地の人々より身分も地位もハッキリ上。しかし、さすがにこれは現地の大人が怒り狂い、どこへ行っても白い目でにらみつけられる。ちなみに少年は十歳〜十四歳くらいのあいだ。

 もちろん、美女もそれっきり会ってくれない。でも、たぶん、わざとさせたんだよな。しつこいから別れたかったのか?


 青年の悪い評判は大使館にも知れ渡り、彼はついに解雇。絶望に打ちひしがれ、祖国へと帰る青年……。


 こういうの、フランス映画には多いんですよね。とにかく悲恋。うまくいく恋愛なんて、フランス映画じゃない。


 そしてやっぱり、ヨーロッパって情熱の国なんだなと思う。言動がたまに理解できないときがある。というか、理解できないわけじゃないけど、日本人ならしないなっていうか。恋にすぐ命かけちゃうから。あの国の人たち。テンションとか、発作的な行動とか、あぜんとする。


 これも、もう一度見たいわけでもないし、タイトルわからないままでもかまわない。でも、なんだろう。青年外交官とともに、魔性の美女に翻弄された二時間だった。(かなり長い映画で三時間あったかも)

 まるで自分の昔の女みたいな。

 ときおり、ふとした瞬間に、彼女のけだるい微笑みがよぎり、あのときの空間にひきもどされる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る