第12話 永遠に美しく
これ、またテレビでやってくれないかなぁ?
前は何度もしつこいほどやったんですよ。たぶん三回は見た。もっとかも?
いい話や文学っぽいのや風刺的な話ばかり見てるわけじゃない。ふつうのエンタメやホラーなんかもたくさん見てる。日本の映画も最近はよく見るよ。マニアックな洋画あんまりしてくれなくなったし。
タイトルの作品はホラーです。ただ、怖いホラーではなく、ホラーコメディになるのかな。むしろ、ブラックユーモア?
アメリカ映画。監督はロバート・ゼメキス。主演メリル・ストリープ。メリル・ストリープは多くの映画に出てますね。『プラダを着た悪魔』も好きな作品です。
かるく脱線して、プラダを着た悪魔について語っておくと、あれと『ララランド』の結末の違いに、時代の流れを感じました。両方とも夢を持つ大人の女性が、恋と夢のはざまにゆれる話なんですよね。
プラダではラスト、自分を押しとおしたヒロインは恋も夢も手に入れる。両手にウハウハ。まさにアメリカン・ドリーム。
一方、ララランドでは、同じように夢を持つヒロインが、その夢を叶えるために努力する。過程で出会った素敵な青年との恋。だけど、おたがいの夢にむきあううちに、二人のあいだはすれ違う。結果、ラストは惹かれあい、愛しあいながらも、たがいの夢をつかむ道を選び、恋は過去の思い出と消える。
両方は得られない。何かを強く求めるなら、別のものをすてなければならない。このへんに、単純なアメリカン・ドリームではなく、現実的な今のアメリカの姿が見える気がする。みんな、夢に対してもシビアになってきてるのかなぁ。
どちらの映画も素敵ですね。プラダはアン・ハサウェイがとにかくキュート。どんどんキレイになってくのが魅力的。
ララランドは曲とダンスがどれも抜群に素晴らしい。見つめあい、たがいの思いをたしかめながら別れるラストも切なくて好きです。わりと序盤の曲からすでに哀愁が感じられるのが、二人の未来を暗示している。
さて、今回本命の、永遠に美しく。
あるところに成功した一人の女性マデリーン(メリル・ストリープ)。かつてはものすごい美女だったが、アラフォー(くらいだろう。たぶん)になった今、本人は気づいていないけど、容姿はおとろえはじめている。彼女は自分はまだまだモテると思っているので、愛人の若い男が本気で自分を愛してくれていると思っている。旦那もいるけど、もちろん自分にベタ惚れだから、ちょっとの浮気くらい、ぜんぜん平気。たしか会社経営をしてて、金持ちなんだよね。
会社に新しく入ってきた二十歳の娘の谷間を見て、ちょっと自信を失ったりもするけど。
「いいわねぇ。ゴムまりみたいじゃないの。あの胸」とか。
そうは言っても順風満帆。幸せな日々——のはずだった。ある日、とつぜん、自宅の豪邸にたずねてきた学生時代のライバル、ヘレン。成績では負けたけど、美貌では優っていたと自負しているマデリーン。
ヘレンは何かとマデリーンに張りあっていた。マデリーンの旦那も二人でとりあった仲。なので、いまだにアレコレ、ちょっかいをかけに来る。そして、すきあらば旦那に手を出そうとする。これがまた、なんで二人の美女がとりあおうとするのかわかんないような冴えないおじさん。のちのちのことを考えると、まあ、天才だったんだろうなと。才能に惚れたのか、またはライバルから奪おうという気持ちが強すぎたせいか。「ヘレンに渡すくらいなら」「マデリーンには負けられない」みたいな。
そんなある日、旦那がヘレンと浮気している現場を目撃してしまう。怒り狂うマデリーン。でもいいわよ。わたしにはもっと素敵な彼氏がいるんだから。若い愛人を呼びよせるんだけど、なんと、彼女の会社のゴムまりみたいな新人とキスしてるところに来あわせる。
「なんでよ。そんな小娘なんかより、わたしのことを愛してるって言ったじゃない」
「いいかげんにしろよ、ばあさん。おれが本気であんたを愛すわけないだろ? 金だよ。あんたが金持ちだからお世辞言ってやってたんだよ」
笑いながら若い女の肩を抱いて去っていく愛人。
打ちひしがれるマデリーン。
雷雨のなか、泣きながら車を運転して、自宅へ帰るマデリーン。浮気した旦那をうちから追いだしてやるつもりだった。稼いでるのは彼女で、旦那はようわからん研究をしてるだけだったので。
ヒステリー起こして、夫の実験室に入りこむマデリーン。しかし、そこには誰もいない。前にたずねてきたとき、ヘレンが夫の今してる実験を聞いてたけど、若返りの薬がどうのこうのとか?
このあたり、こまかい展開をよくおぼえてないんだけど、とにかく、マデリーンは夫の研究室で変な薬を見つけた。いかにも怪しい。ただの毒薬かもしれない?
しかし、絶望してヤケになってる彼女はその薬を飲んだ。
すると! 激しい変化に見舞われるマデリーン。顔のこじわがなくなり、たれていたバストが持ちあがる。お尻もキュキュッ。
鏡を見た彼女は思わず喜びの声をあげる。
「うわーお。バージンみたい」
ここ、日本語的に当時、訳しづらかったんだろうな。小娘みたいとか、生娘みたいとか、イマイチ、ピンと来ない訳だった。マドンナの『ライク・ア・バージン』を聞いたときに、ああ、こういう意味だったんだなと。
若返って有頂天のマデリーン。ヘレンはすぐに彼女の異変に気づいた。旦那に浮気されたのに、どうでもいいみたい。それに、どう見ても二十歳のころに戻ったみたい。
旦那に近づき、秘密を知ったヘレンは自分も若返りの薬を飲む。
しかもそのことをマデリーンに自慢しに行く。
口論になった彼女たちは、なぐりあいから、本気の殺しあいになる。首がもげ、腕がとび……悲惨な状況になるものの、なぜか二人は死なない。そう。それはただの若返りの薬ではなかった。飲むと不死になるのだ。ただし、死体と同じで、一度傷ついた場所はもう治癒しない。マネキンのように接着剤などでつなぎあわせ、はがれた皮膚を張りつけ、ペンキで色をつける。
修復係を任されたのは、マデリーンの旦那。
二人の女のあいだでムチャな要求ばかりされ、ついに爆発。
「もういい! 君たちは勝手にすればいいんだ!」
旦那はそのまま行方不明に。
そして時がたち——
百年経過しても死なない彼女たちは、あいかわらず言い争いながら、二人で生きている。その姿はもはや、バケモノ……。
ラスト、二人でふりかえり、声をそろえて「ティース」かなんか言うんですよね。その姿にギョッとしておしまい。
美に執着する女の執念がすさまじい作品。
前半、強くかしこく、夢を追いかける二人のヒロインからの、女の悪いところをだだもれにする後半の二人。
女性が印象的な作品群でした。
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