第11話 クリスマスをくりかえす



 今でこそ一般的になったタイムリープ。同じ時間を何度もくりかえすというSFの一種です。


 これをじつは今から二十年くらい前に僕は見てるんですよね。すごく完成度の高い映画で、タイムリープ物として世界初の映画なんじゃないだろうか?


 タイムリープじたいは、萩尾望都さんの『銀の三角』のなかで、僕は初めて知った。中学生のころだったように思う。親戚の人がその本を持ってたので読んだんだけど、ものすごい手法だと、これまた衝撃。


 父王に命を狙われてる赤ん坊の王子をたくされ、なんとかその星から脱出しようと宇宙港をめざすエージェント。だが、何度、時間を巻き戻し、ルートを変えて試しても、必ずデッドエンドを迎えてしまう。(ちなみに彼は未来予測の超能力を持っている。その力で未来を見ていた)どうやっても王子を助ける方法がない……という回。


 銀の三角も傑作SF。絵も美しいし、独特の世界観がたまりません。萩尾さんは音楽の精霊のような長髪の美形をよく描かれますよね。

 が、ここは映画を述べるエッセイなんですよね。


 タイムリープが果たして、いつごろから書かれたのか、誰が最初なのか、僕はそこまで知らないですけど。あの映画よりもっと前からあったのかもしれません。日本で流行りだしたのは、ほんとにこの数年なので、僕にしてみれば「今さらタイムリープかぁ」って感じなんですが、たしかにSFに不慣れな人にもあつかいやすいテーマかも。


 さて、その映画はあるクリスマスイブの日、現地レポートをするために、地方へと車で移動している気象予報士が主役。この男、冒頭、ほんと根性悪くていけすかないヤツ。まわりのスタッフにもみんなに嫌われている。


 ところが、現地にむかう途中の町で、予報にないとつぜんの大雪のため、足止めをくらってしまう。悪態つきながらも天気のことなので、しかたなく町のなかをあちこち歩く。朝ご飯を探したり、道端で乞食をしてるホームレスの男性を見かけたり、屋根から落ちて足を骨折した子どもの話を小耳に入れたり。


 この町にヒロインもいるんだけど、まだ出会ってなかったっけ? それとも、ホットドッグを買った店のウェイトレスだったかな?

 最初の出会いは最悪で、イヤミな態度をとって「何よあの人。感じ悪い」とか言われてた気がする。


 そのあと、主役は丸一日、その町ですごした。大雪がいっこうにやまず、通行止めが解除されない。しかたなく一泊することになる。


 夜の町を歩いていると、パトカーを発見。昼間に見たホームレスがどうやら凍死してしまったらしい。カラの缶詰の缶をさしだして、お金を恵んでくれって言ってたっけ。いくらおれでも、死ぬとわかってりゃ、小銭くらい渡したのに。

 イヤな気分でホテルに戻り、眠りにつく。


 ところが、その翌日、目がさめると、ようすがおかしい。朝一番に新聞を見ると、日付が昨日のものだ。ホテルがケチってるのか? ちゃんとその日のを置いとけよ。

 まだ現地に行けないと、スタッフに連絡もしないと。が、電話をすると、話の内容がかみあわない。二日も遅れて悪いがこっちだって困ってるんだと主張するものの、相手は「二日? 今日はまだ24日ですよ」と言う。


 何かがおかしい。町に出て歩きまわる。すると、昨日の出来事がそのままくりかえされていた。昨日の子どもがまた屋根から落ちたとさわがれている。きわめつけは、昨晩に死んだはずのホームレスが生きている! も、もしかして、もしかして……これは、昨日なのか? 同じ日がくりかえされてるのか?


 ネタバラシすると、このタイムリープ、かなりの数くりかえされます。たぶん一ヶ月以上。

 当時、まだタイムリープなんて言葉もなかった。今、ネットでタイムリープ洋画恋愛で検索しても、2010年代のばっかり出てきて、この作品はまったくひっかかってくれません。かなり古いのなんだろうなぁ。ほんとにすごくいい話なのに。ホームアローンなんか正直、どこが楽しいのか僕にはわかんないんだけど、この話をクリスマスの時期にやってほしいもんです。


 さて、昨日(というか、初回の日)に死んだホームレスに冷たくしたことを悔いていた彼は、今日は百ドルをふんぱつして、缶に入れてやる。


「おっさん。これで美味いもんでも食って体力つけな。ホテル行って、風呂も入るんだぞ」

「おおっ、ありがとう。ありがとう」


 すごく感謝されるとちょっといい気分。これで、おれは一人の命を助けたと思っている。

 でもこの夜、ホームレスはけっきょく死ぬ。ホームレスが大金を持ってたので、強盗に奪われてしまったのだ。


 ホームレスが死ぬ直前に、主役は気になって、彼がいる通りに来ていた。かけつけたときには、もう凍死寸前。

「なんでだ。あの金を使えば、あったかいところで寝られただろう」

「金はとられた」

「クソッ。今、ホテルにつれてってやる。食いもんも買ってやるから、がんばれよ」

「いいんじゃよ。わしはもう満足じゃ。今日はクリスマスだから、神様がわしに奇跡を起こしてくださった。こうしておまえさんに親切にしてもらえて、ほんとに嬉しいんだ。ありがとう。おかげで幸せな気持ちで逝けるよ」


 お礼を言いながら主役の腕のなかで息をひきとるホームレス。

 彼は号泣し、この日から変わった。イヤミでイジワルな彼はいなくなった。人の命の大切さにふれ、自分だけ同じ日をくりかえすことに何かの意味があると考える。きっとクリスマスの夜に、神が自分に使命をあたえたのだと。

 彼は町の人すべてを守ろうと決意する。(町の人は同じ日をくりかえしてることに気づいてない)


 翌朝も、やはり24日。同じ朝。彼はあのホームレスにお金をあげるのはやめて、そのかわり、ダッシュである家にむかう。ちょうど屋根から落ちてくる少年を抱きとめた。骨折するはずだった少年は無事。母親に厚く感謝される。


 そんなふうに、彼は何度もくりかえされるイブのなかで、町じゅうのあらゆる出来事を把握する。自分の助けが必要なすべての人に、毎日、さりげなく手をさしのべる。性格も一変。みんなに感謝されることで、彼自身明るく、魅力的な人物へと変わっていった。町の人々にとっては初対面のはずだけど、彼はみんなの名前も知っているので、いつのまにか人気者だ。たった一日であちこちの人を助ける有名人になる。


「よう、ジョージ(勝手に名前つけた)」

「あんたがジョージか」

「あんた、スゴイんだって? 神様みたいだって聞いたぜ」

 みたいな。


 例のホームレスはどうやっても救えない人で、死ぬ運命らしい。彼は毎晩、ホームレスが死ぬ瞬間にそばについて、看取ってあげる。


 そんな彼に、しだいにヒロインも惹かれていく。主役もほんとはずっとヒロインが気になっていた。

 タイムリープがいつまで続くのかわからないけど、彼女とお近づきになれないだろうか? 思いきって夕食に誘う。思いがけず、承諾されるが、そのとき、彼は彼女の悩みを聞く。母の形見の指輪がなんとかかんとか、だったかな? 死んだ恋人の遺した指輪だったか?


 じつはこの彼女の悩みが彼のタイムリープに関係していて、彼女を真の意味で助けられないと、くりかえしが解けないのだ。二人のひきあう力がクリスマスの奇跡でうんぬん。


 彼は何度も彼女を救おうとするものの、安易な解決方法では成功しない。それどころか、一度はより深く彼女を傷つけてしまう結果になった。


 やっぱりもう彼女には近づかないほうがいいのか。どうせ、同じ日をくりかえすしかないおれじゃ、彼女を幸せにできない。明日以降の彼女とはともにいられないんだから。どうか、彼女の日々が今よりよくなりますように。


 あきらめる主役。

 だが、どうしても忘れられない。彼女がほかの人とデートすると知った(んだったかな?)彼は彼女の家にかけつけ、不器用だがけんめいに愛を告白する。

 彼女は涙を流し、彼とともに明日へと生きることを願う。そう。未来をすてていた彼女の心が時を止めていたのだ。彼女が未来に歩む決意をした瞬間、くりかえしの魔法は解けた。


 その夜、ホテルではなく、彼女の家でともに眠る主役。めざめたとき、これまでどおりなら、昨日に逆戻りして、ホテルにいるはずだ。だが、彼女の部屋のまま。


「もしかして……これは……だ! 明日が来たんだ!」

「何言ってるのよ。今日の次は必ず明日が来るものよ?」

「君は神様がイタズラだって知らないんだよ」


 抱きあう二人がくちづけをする姿がしだいにひいていき、クリスマスの町の景色のなか、エンドマーク。


 そういう話だったんですけどねぇ。とても優しい気持ちになれるラブファンタジーでした。最初のイヤミなヤツからのギャップがほんとにスゴイ。いい話なのに検索にもひっかからないとか、もったいない。

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