第6話 気分はプレイステイブル4
そういう訳で壬生川さんは結局それからもカラオケをすることができず、僕は2020年8月上旬の今日この日にプレイステイブル4の接続と初期設定をするために彼女の実家まで呼ばれたのだった。
壬生川さんに一刻でも早くカラオケを遊ばせてあげたい思いとそれ以上に恋人に喜んで欲しい思いから、僕は事前にプレイステイブル4の接続と初期設定、そしてカラオケアプリの導入について入念なリサーチをしていた。
「これでテレビへの接続は大丈夫。……ほら、画面に出てきたでしょ」
「へー、これが最近のゲーム機なのね。何かスマホの画面みたい」
壬生川さんが友達の家で触らせて貰ったことのあるゲーム機は電源を入れるとすぐにソフトが始まる時代のものだったらしく、彼女はまずホーム画面が出てきてそこからソフトやアプリを選ぶ最近のゲーム機に驚いていた。
「これだけじゃまだカラオケは遊べないから、まずは初期設定をするね。えーと、この家にWi-Fi環境はあるよね?」
「流石にそれはあるわよ。パスワードは……えーと、ルーター見てメモしてくるわね」
「うん、よろしく」
壬生川さんは自室を出ると1階のリビングにあるWi-Fiルーターを見に行き、本体に書かれている接続パスワードをメモしてきてくれた。
今の時代に有線LANしかないと言われたらどうしようと心配していたが、スマホやタブレットを使っている家庭なのでWi-Fiは置かれていたようで安心した。
「これでこのゲーム機はインターネットにつながった。更新が始まるからちょっと待ってて」
「最近のは本当にスマホみたいなのね。うーん、楽しみー」
壬生川さんはそう言うと両腕を上に伸ばして
それを見て僕は一瞬ドキッとして、健全な目的で来たとはいえ美しくセクシーな彼女と密室で二人きりという状況に煩悩が湧き上がってきた。
今はご両親が1階にいると再び自分に言い聞かせ、僕はプレイステイブル4が本体更新を済ませるのを待った。
「それじゃあ次はプレイステイブルのアカウントを作るね。このアカウントがないとカラオケのアプリをインストールできないし月額料金も払えないから、IDとパスワードはメモしといてね。何かメールアドレス入れてくれる?」
「OK。……ねえ、これってどのボタン押せばいいの? 十字のキーは分かるんだけど」
「ああ、○ボタンで文字を入力して消したい時は□ボタン。×ボタンを押すと画面が閉じちゃうから気を付けて」
壬生川さんはプレイステイブル4での文字入力すらおぼつかない状態だったらしく、これは僕が同席しておいてよかったと思った。
何度も修正しつつメールアドレスを入力すると、彼女はパスワードを何にしようかと考えていた。
「パスワードどうしよう。あたしの誕生日と……そうだ、あんたの血液型でどう?」
「壬生川さん、僕の血液型はともかく自分の誕生日とか他人から簡単に推測できる情報はパスワードに使っちゃ駄目だよ。できれば意味のない文字列にして、大文字と小文字を混ぜて記号も入れないと」
「最近は面倒なのね……。じゃあ適当に決めちゃうから」
最近じゃなくてもパスワードの設定にはこれぐらいの配慮が必要になると思ったが、壬生川さんは僕のアドバイスを素直に聞いて考えたパスワードを紙にメモし、それをプレイステイブル4で入力した。
アカウントの作成も無事に終わり、僕はそこからは壬生川さんに操作を任せてプレイステイブル4の公式ウェブストアからカラオケ機種「ライジングD」のアプリをインストールした。
アプリを開くと月額料金の支払い画面に進み、壬生川さんはスマホ決済を選択して月額料金の支払いを済ませた。これから毎月使い続けるかは分からないのでまずは1か月分(30日間)のみを税込1100円で契約して貰った。
「これで、これでカラオケができるのね!? ちょっと何か入れてみていい!?」
「もちろん。えーとね、ここで曲名を入力して……」
月額料金を支払うとライジングDのアプリには「有料契約済み 残り30日」という表示が出て、これで今すぐカラオケができる状態になった。
有線接続のマイクは既にプレイステイブル4本体につないであるので、曲を予約すればすぐにでも歌える。
「それじゃ歌うわね。ああー、ようやくカラオケができるなんて……」
壬生川さんは嬉しさのあまり歌う前から涙を流していて、僕は今日ここまで来れてよかったと改めて思った。
そのまま前奏が始まり、壬生川さんは最近覚えたという数年前のドラマの主題歌を歌い始めた。
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