用語集1-3 医学部用語(試験編)
※用語集はおまけコーナーです。読まなくても物語の理解には差し支えありません。
※特に断りがない場合、この用語集の内容は作中の設定ではなく現実に準拠しています。
※用語集に含まれる情報は2023年3月時点のものであり、現行の制度とは一致していない場合があります。
・定期試験
科目ごとに行われる試験を指し、必要な回数以上出席して定期試験に合格すればその科目の単位が認定されます。
合格点は100点満点中60点で、59点を下回った場合は再試験を受験することになります。
出席状況が点数化されている科目も多く、例えば「定期試験の成績を80%、出席状況を20%」として評価する科目であれば全出席していれば定期試験は100点満点中50点以上得点すれば合格となります。(欠席が多ければその分だけ不利になります)
・再試験
現代日本の医学部医学科には「選択履修」という概念はほとんど存在せず、大半の科目は必修科目扱いです。ゆえに落とした科目を翌年以降に再履修することはできず、定期試験で不合格になった場合は必ず再試験を受けることになります。
国公立大学では再試験の受験が無料の場合もありますが私立大学では原則として有料で、1科目落とすごとに3000円や5000円といった再試験受験料(大学によって異なる)を支払う必要があります。
・進級試験・総合試験
一般に医学部4年生の最後にはCBT、6年生の最後には卒業試験という関門がありますが、大学によってはそれ以外の学年でも「進級試験」「総合試験」といった名称の関門が設けられている場合があります。
大抵は3年生および5年生の最後に設けられており、進級試験のある大学ではその学年の全ての科目で単位が認定されていても進級試験に合格できなければ留年となります。
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クリニカル・クラークシップの前(大抵は4年生の後半)に実施される共用試験です。現在ではCBTおよびPre-CC OSCEに合格した医学生のみがクリクラに参加できることになっており、CBTとPre-CC OSCEは事実上の進級試験となっています。
CBTとは「Computer-Based Test」の略であり、2023年時点では紙媒体の筆記試験である医師国家試験と異なり回答は全てパソコン上で行います。問題の形式は医師国家試験と同様、全て選択式(客観式)です。
出題範囲となる科目は概ね医師国家試験と同様ですが医師国家試験ではほとんど出題されない基礎医学がCBTでは出題の10%以上を占める点で異なり、臨床医学・社会医学についてもCBTで出題される範囲は限定されています。CBTは医学生がクリクラに参加する資格を判定する試験であるため特に臨床医学においては病院実習において遭遇する頻度が高い疾患・病態のみが出題されることになっており、現代日本において重要であるものの病院実習で遭遇する頻度が低い疾患・病態はCBTには出題されません。
医師国家試験では全ての受験生が同じ問題を解くことになりますがCBTでは過去に蓄積された大量の試験問題(プール問題)からランダムに出題されるため、受験生ごとに解く問題は全く異なります。この形式で不公平が生じないようCBTは非常に複雑なシステム(複雑すぎてこの用語集では説明できません)に基づいて実施されています。
各大学ではなく全国共通の組織(CBTは医療系大学間共用試験実施評価機構、国試は厚生労働省)の管轄にある試験という点では医師国家試験と共通していますがCBTの合格基準は各大学が独自に設定することになっており、65%以上の得点率を合格とする大学がある一方で68%以上の得点率を合格とする大学もあります。
・
医師になるための知識を問うCBTおよび国家試験に対し、医師になるための技能を問う試験がOSCEです。Pre-CC OSCEとPost-CC OSCEの2種類があり、その名の通り前者はクリクラの開始前に、後者はクリクラの終了後に行われます。
Pre-CC OSCEではクリクラに参加するための最低限の技能が確認され、具体的には基礎的な問診(医療面接)、手術用手袋とガウンの着用、身体診察、心肺蘇生法といった項目が実技形式で問われます。
Post-CC OSCEではクリクラで身に付いた技能が確認されます。Pre-CC OSCEと異なり決められた一連の手技を行うのではなく、模擬患者に問診を行い、何の疾患が疑われるかを推定した上で自らの判断で必要な身体診察を行って上級医に結果を報告するという高度な実技試験となります。
Pre-CC OSCEに不合格の場合はクリクラに参加できないため留年となり、Post-CC OSCEに不合格の場合は卒業できないためやはり留年となります。そのためOSCEも事実上の進級試験として機能しています。
・卒業試験
医学部医学科の卒業に際しては通常の4年制大学と異なり卒業論文は課されませんが、その代わりに卒業試験が課されます。卒業試験の実施は義務ではないため卒業試験がない大学もごく一部にありますが、ほとんどの大学では6年生は卒業試験と医師国家試験の勉強を並行して行うことになります。
卒業試験の実施目的は「医師国家試験に受かる見込みのない医学生を卒業させないことにより国試合格率を上げる」という1点に集約されるため、卒業試験は出題範囲・出題形式ともに医師国家試験に準拠している場合がほとんどです。一方で問題の難易度は医師国家試験よりもハイレベルで、一般に卒業試験に余裕を持って合格できる学生は医師国家試験にも合格できます。
・医師国家試験
医師免許を取得するための試験です。2023年時点では紙媒体の筆記試験であり全問選択式(客観式)の出題です。
出題範囲は臨床医学の全範囲と社会医学の一部(公衆衛生学など)であり、出題は「必修問題」と「一般・臨床問題」に分かれています。基礎医学の内容が出題されることもありますがCBTと異なり数問程度と極めて少ない上にいずれも臨床医学と重複する内容(例:消化管上皮の組織学的構造、コレステロール代謝)であり純粋な基礎医学からの出題はほぼ皆無と呼べる状態です。
合格の条件は「必修問題で得点率80%以上、一般・臨床問題で合格基準点(70%前後、年度によって異なる)以上の得点率かつ禁忌肢選択が規定数(年度によって異なる)以下」で、この3つの条件のうち1つでも満たさなければ不合格となります。禁忌肢選択とは医師として絶対に選んではいけない選択肢(実行すると患者が即死するレベルのもの)を選択してしまった場合にカウントされるものです。
合格率は全大学の平均で約90%と一見高く見えますが、1年生~6年生まで数々の定期試験と進級試験、CBT、卒業試験を勝ち抜いてきた学生でも1割は落ちると考えれば相当ハードな試験と言えます。
実際には一般・臨床問題の合格基準点は全受験生の1割が不合格となるよう設定されるため、「1割は落ちる」というより「1割は強制的に落とされる」という表現が正確です。資格試験にも関わらず合格点が相対評価という点は医師国家試験の最も恐ろしい部分です。
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