280 気分はオンライン飲み会
2020年3月下旬、僕は松山の実家でだらけ切った生活を送っていた。
1日中家にいる僕と異なり母は毎週月曜日から金曜日まで薬局で働いていて、今は土曜日だけドラッグストアのアルバイトに出ている。
淑子おばさんの遺産のおかげで母は土日にアルバイトをする必要はなくなったが勤務先のドラッグストアで薬剤師として頼りにされている中でいきなり辞めるのも忍びなく、日曜日さえ休めれば十分ということで母は今でも土曜日だけはアルバイトを続けている。
母はその分の収入で一度手放した家財も買い直そうと考えており、レイアスの中古車を買うのは流石に今の車が壊れてからにするらしいが70インチの大型テレビはすぐに買い直した。
大型テレビで毎晩のようにテレビドラマや映画を見て楽しむ母の姿に、僕は息子としてやっと安心できた。
実家で過ごす間は平日と土曜日の昼食は自分で何とかしなければいけないが、歩いて行ける距離に飲食店はほとんどない上に新型コロナウイルスの感染拡大で外出自粛も求められる昨今なので僕は人生で初めて自炊にチャレンジするなどしている。
IHの狭いコンロが一つしかなくまな板を置くスペースもない皆月市の下宿でも自炊ができるとは思えないが、少なくとも家事ができて損をすることはないので今だけでも練習しておこうと思った。
3月中は学生研究以外本当に何もやることがなく学生研究も紀伊教授から与えられた課題をこなしてメールで報告するだけで、大学で取り組んできたいつもの学生研究のハードさとは程遠かった。
週に1度は
『それじゃあ今日の会議はこれで終了とする。2人とも引き続き頑張ってくれ』
『分かりました。……あ、先生、ちょっと白神君と2人で話したいことがあるのでしばらく画面から外れて貰っていいですか?』
『そうなのか? よし、じゃあ10分ほど別室で待機しておこう』
そんな中、僕は定例Doomミーティングでヤミ子先輩から2人で話したいと伝えられた。
ヤミ子先輩はおそらく兵庫県西宮市の実家からビデオ会議に参加しているはずで、僕と直接顔を合わせて何かを伝えたいのだろう。
「お疲れ様です。先輩、何かありました?」
『実はね、最近若者の間でDoom飲み会っていうのが流行ってるらしくてマレー君が研究医生のDoom飲み会を企画してくれたの。明後日の夜20時からって参加して貰えそう?』
Doom飲み会の話題は僕もネットニュースなどで目にしていて、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い対面での飲み会を開催できなくなった若者たちがDoomを利用してオンラインでの飲み会を楽しんでいるらしい。
「そうなんですか? ぜひ参加したいです!!」
『ありがとー。参加するのは私とさっちゃんとヤッ君とマレー君に、2回生から白神君とカナちゃんとファンちゃん。この7人は研究医生の中でも特に仲がいいからとりあえずこのメンバーでやるつもり。ファンちゃんも楽しみにしてるらしいよ』
「ははは、それは光栄です。では当日はよろしくお願いします」
笑顔で答えるとヤミ子先輩はよろしくー、と言ってミーティングを退出し、僕もパソコンの画面上で退出のボタンをクリックした。
ここ最近は暇で仕方がないし久々に先輩方やカナやん、そして何より壬生川さんの顔を見られるのはとても嬉しい。
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