268 期待と不安

 1月25日土曜日に京都河原町駅前のラブホテルで真琴と破局した剖良は無気力な状態のまま週末を過ごした。


 3月上旬の進級試験に向けて今は空き時間を見つけては勉強しなければならないのに、何をする気も起こらなかった。


 剖良は理子への思いを断ち切ったつもりが実際には未練にまみれていて、自分のことを本気で好きになってくれた真琴に対して誠実な態度を示せなかった。


 こんな自分にはもはや恋愛をする資格はないから、これからはそういったことには関わらず生きていこう。



 そう思っていたから、週明けの月曜日の午後に理子から着信が入った時も剖良はちょっとした用件だろうとしか思わなかった。


 毎週月曜日は弓道部の練習がある日だがこの日は午前中で授業が終わったため16時になるまでは学生研究に取り組んでいて、学生研究員の待機室で剖良は電話に出た。



「もしもし、解川です。ヤミ子、何かあったの?」

「さっちゃん、私、さっちゃんに大事な話があるの。なるべく早いうちに私の家まで来てくれない?」

「えっ?」


 最後に理子の自宅に行ったのは1回生の秋頃であり、大学生同士は一緒に遊ぶ際にわざわざ自宅まで行く必要もないのでそれきりになっていた。


 逆に言えば、理子が自分を自宅に呼ぶということはそれ相応の重大な用件ということになる。



「うん、全然いいよ。今日は部活があるから明日でもいい?」

「それで大丈夫。いきなり本当に申し訳ないけど、明日の放課後は一緒に帰ろうね。……あと、一つだけ聞いときたいんだけど」

「何?」


 声のトーンを落として前置きした理子に剖良は何気なく尋ねた。



「さっちゃんって今、付き合ってる人はいる? 女性でももしかすると男性でも、誰かいるなら教えて」


 飛んできた質問は剖良の心にクリーンヒットし、その瞬間に剖良の心拍数は急上昇した。



「えっ……ううん、誰とも付き合ってないよ。それがどうしたの?」

「そっか。来て貰う前にそれだけは聞いておきたかったから。じゃあ明日よろしくね」


 理子はそう言うとさっさと通話を切り、剖良は彼女から明日何を言われるのだろうと期待と不安が混合した感情にとらわれた。

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