250 気分はスキャンダル

 それから先輩はメッセージアプリで呉さんに連絡し、呉さんからは明日から京都市にある実家に泊まってくれていいと返事を受けたらしい。


 遅くなったが24時過ぎには寝ることにして、僕は床で寝ますと申し出ると先輩はセミダブルなら2人ぐらい寝れると言ってベッドの端の方に身体を寄せて寝転んだ。


 玄関のドアを閉めたことを確認してワンルームに戻るとヤッ君先輩は疲れからか部屋の電気を点けたまま眠っていて、僕もその横で寝ようとした。



「…………」


 すやすやと眠っている先輩の寝顔は中性的で非常に美しく、20代美少年はやはり伊達ではないと思った。


 電気を消して僕もベッドに入り、さっさと寝てしまおうとすると、



「……むにゃむにゃ……コウ君、大好き……」

「んうっ!」


 先輩は寝言を口にしながら僕の背中に優しく抱きつき、細身の身体のやなぎのような感触に僕は声を上げてしまった。


 僕までそちらの世界に入ってしまっては大変だと思い、それからは必死で壬生川さんとの一夜のことを思い浮かべていると僕もいつの間にか眠りに落ちていた。




 そして翌朝。



「いやー、昨日はごめんね。ボク普段こんなに寝相悪くないんだけどベッドめちゃくちゃにしちゃって」

「いえ、全然いいですよ……」


 ヤッ君先輩と同じ部屋で寝たのは研究医合宿以来だが先輩はストレスのせいかあの時と違って非常に寝相が悪く、僕は目を覚ました時にベッドから転がり落ちそうになっていた。



「それじゃ、ボクはそろそろ失礼するね。その辺のカフェでも寄って朝ご飯食べてくる」

「分かりました。どうせ大学行きますし僕もご一緒していいですか?」

「そうする? OK、じゃあ一緒に行こう」


 普段は実家で朝食を食べているはずのヤッ君先輩を一人でカフェに行かせるのがかわいそうになり、僕は先輩と朝食をご一緒することにした。


 そのまま大学に行けるよう肩掛けカバンに荷物をまとめ、僕は先輩と並んで下宿を出た。


 そしてオートロックを解除して路地に出た僕らは……



「あっ、おはよう白神君。……って、えええええ??」


 見慣れた女性に遭遇し、僕とヤッ君先輩の同伴登校に驚いている彼女は医学部2回生にしてサッカー部マネージャーの山形さんだった。


 彼女は下宿生でも普段はこの路地を通らないが、今朝は駅前唯一のドラッグストアに寄ってからサッカー部の朝練に行こうとしていたために遭遇する結果になったと後で聞いた。



「お、おはよう山形さん」

「ちょっと白神君、薬師寺先輩とお泊まりしてたの!? これどういうビッグニュース!?」

「いや、ビッグニュースって訳でもないんだけど……」

「白神君、何か面倒そうだからボク先に行くね。後よろしくー」

「ちょ、ちょっと先輩!?」


 面識のない山形さんに騒がれて迷惑に思ったのか、ヤッ君先輩はそのまま早歩きでカフェに向かって逃げていってしまった。



「やだやだやだ、白神君まさかとは思ってたけどそっちの方も行ける人だったなんて! お姉さん大ショックなんだけど!!」

「山形さん、頼むから壬生川さんに言いつけるのはやめてー!!」


 それから山形さんの誤解を解いている間に授業開始時刻が近づき、僕は結局朝食抜きで登校する羽目になった。


 あまり慣れないことはしない方がよさそうだと思った。

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