188 気分は好色一代住職

「皆さんお疲れ様です! 今日は読経を聞いてくださってありがとうございました」


 はきはきとした声に全員が振り向くとそこには生人君が立っていた。


 後方からはマレー先輩とお父さんである細人さんも歩いてきていて、親子3人で第一講堂から出てきたらしい。


「あなたが白神さんですよね。自己紹介が遅れましたけど僕は物部家の次男の生人です。今は立志社大学社会学部の2回生です」

「こちらこそはじめまして、僕は医学部2回生の白神塔也です。物部先輩にはいつもお世話になってます」


 直接お会いするのは初めてだからか丁寧に自己紹介をしてくれた生人君に、僕も会釈しつつ自己紹介を返した。


「この前は兄さんを助けてくださってありがとうございました。兄さんが美波さんと結婚して幸せな未来を歩めるのも、すべては白神さんのおかげです。白神さんは僕ら一家の恩人です!」

「そこまで大したことはしてないけど、そう言って貰えると嬉しいです。今後とも仲良くさせてね」


 生人君と会話を続けていると彼に気づいた他の先輩方も興味津々といった様子で近寄ってきた。



「わあー、このイケメン和尚おしょうさんがマレー君の弟君なんだ。私、微人君の友達の山井理子です。こっちは共通の友達の解川剖良ちゃんと薬師寺龍之介君」

「……よろしく」

「すごーい、マレー君より美男子だ! あ、ごめん」

「いえいえ、兄さんは僕なんかよりずっと魅力的な人ですよ。秀才ですし美人のお嫁さんもいますし」


 マレー先輩の同級生の友達3名から連続で話しかけられた生人君は自然な笑顔を浮かべて返事をしていた。


 異母兄弟同士でも非常に仲が良いというのは周知の事実だが、生人君は若干ブラコンのがあるのかも知れないと思った。



「私たちも自己紹介しなきゃ。こんにちは、私は医学部2回生の壬生川恵理です。生理学教室で学生研究をやってます」

「うちは医学部2回生の生島化奈です。物部先輩とは仲良くして貰ってます」

「壬生川さんと生島さんですね。皆さん美人ばかりで兄さんがうらやましくなりますよ」

「おおー、マレー君より女心分かってる」

「ヤミ子君、それは流石に心外だぞ……」


 ヤミ子先輩と剖良先輩に加えて壬生川さんとカナやんという美女2名まで現れ、生人君は目をキラキラさせていた。


 ある意味では医療職以上に他者への気遣いが必要とされる聖職者であるからか、生人君は自然に人を褒められる人物であるようだった。



壬生川にゅうがわっていうと、そうかあ、そこのお色気女子大生が白神君のステディって訳か。何だ? 研究医生の男は巨乳美女をゲットできる法則でもあるってのか?」


 壬生川さんの方を見ながらにやけ顔で言った細人さんに、壬生川さんははっとして両手でスーツ姿の胸元を押さえた。


「親父、女子大生見つけたからってセクハラするのはやめてくれ! まったく恥ずかしい……」

「流石は噂に聞くマレー君のお父さん、今時珍しいセクハラおやじだねー」

「……最低」

「おっとすまんすまん、セクシーな美女を見るとつい」

「…………」


 長男に加えてヤミ子先輩と剖良先輩からもセクハラを咎められ、僧衣の細人さんは苦笑しながら頭をかいた。


 壬生川さんに食いついた細人さんの視界にも入っていないと感じてかカナやんは無言でそっぽを向いていた。



「俺と生人は先に帰るから今日は友達連中とカラオケ楽しんで来いよ。皆、うちの長男と仲良くしてくれてありがとうな」

「今日は皆さんと会えて嬉しかったです。これからも兄さんをよろしくお願いします!」


 丁寧にお礼を言って去っていった細人さんと生人君を僕らは笑顔で手を振って見送った。

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