186 気分は実験動物慰霊祭
少し早めだが夕食に行っても問題のない時刻だったので先輩は僕をそのまま駅前の中華料理チェーン店に連れて行ってくれて、例によって僕はマレー先輩に食事をおごって貰っていた。
「そういえば明後日は昼11時から第一講堂で実験動物慰霊祭があるけど、白神君は来れそうか?」
「えっ、土曜日ですか!? そういえばヤミ子先輩が10月下旬にあるって仰ってました」
この大学では実験動物として使われて命を落としたマウスやラットなどの動物の魂を
基礎医学教室の教員の多くが参加する他に学生研究員も参加が奨励されており、特に研究医養成コース生は極力出るべきとされていた。
実験動物慰霊祭については8月の病理学教室基本コース研修でヤミ子先輩から聞いていたが、2か月も前のことになるので僕は今この瞬間までその存在をさっぱり忘れていた。
「その反応からすると剖良君が君に伝えるのを忘れていたみたいだな。実施要項のPDFファイルは後で送るけど、土曜日の昼11時からって日程は大丈夫そうかな? 大体30分ぐらいで終わるけど」
「ええ、スケジュールには全然問題ないですしぜひ参加したいです。PDFもすごく助かります」
「良かった良かった。実は今回は白神君にも特に来て欲しい理由があってな」
僕の返事を聞き、マレー先輩は焼き餃子を生ビールで流し込みつつ笑顔で話し始めた。
「俺に
「へえー、すごいですね。僕も先輩の弟さんに会えるのは楽しみです」
マレー先輩には生人君という4歳下の異母弟がおり、現在は立志社大学社会学部の2回生だと聞いていた。
彼は中学・高校の社会科教員を目指して勉強しつつも将来は実家の寺院である
畿内医大の実験動物慰霊祭というのは宗教的行事の中でも最も小規模な部類に入るので、大学も今回は生人君の実地研修に協力してくれることになったのだろう。
「生人も白神君には俺を何度も助けてくれた件でお礼を伝えたいと言ってて、当日は少しでいいから話してやって欲しい。実は美波も見に来たいと言ってたんだが、部外者が参加していいイベントじゃないしヤミ子君や剖良君がドン引きしそうだからそれはやめさせた」
「何というか、お疲れ様です……。もちろん僕も生人君には挨拶させて頂きますね」
美波さんを制止した先輩をねぎらいつつ答えると先輩はありがとう、と言って僕にも追加の餃子と生ビールを注文してくれた。
久々に生ビールを味わいつつ、僕は異母兄弟でありながら非常に仲の良い先輩と生人君との関係に改めて微笑ましさを感じた。
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