146 ゲームセンター恋の嵐
そのまま「クレナイ」の勧めでプレイヤーカードを作成し、気づくと龍之介は今日初めて遊ぶアーケードゲームに1000円近くつぎ込んでいた。
「どうだ、面白いだろ? そういやそろそろ腹減ってきたな。せっかくだし飯でも行くか?」
そう言われて時計を見ると時刻は既に17時を回っていた。
まだ夕食には少し早い時刻だが、今から父に連絡すれば外で夕食を済ませてきても問題のない時刻でもある。
「そうだね、ボクもご一緒します。今日はこんなに面白いゲームを教えてくれてありがとう」
「何、気にするなよ。オレも君とは仲良くなってみたかったんだ」
「クレナイ」はそう言うと座席を立ち、鋭い眼光で龍之介の顔を直視した。
つかみどころのない彼の態度に龍之介は若干の不審さを感じつつも、彼に何とも言えない魅力を感じている自分に気づいた。
ゲームセンターを出てすぐ目についた定食屋に入り、龍之介は「クレナイ」とようやくお互いに自己紹介をした。
彼の名前は
驚いたことに彼も医学生で、枚方市にある京阪医科大学の医学部医学科3回生だった。
「へえ、お前も医学生なのか。しかも畿内医大っていうとオレと立場近いじゃねえか」
「そうだよね。ボクは滋賀県の大津から大学に通ってるんだけど、呉君はどこから大学に通ってるの? それとも下宿生?」
「俺は実家もこの辺で、アゾールにはよく遊びに来てるんだよ。お前のことは前から見かけてたけどまさかお互い医学生とはな。人生面白いもんだ」
それから頼んだ定食が届いて、龍之介と公祐は大学の話やゲームセンターの話で盛り上がった。
「いやー、今日は本当に楽しかったよ。連絡先も交換したしよかったらまたゲーセンで遊ぼうぜ。これも何かのよしみだろうし」
「ボクの方こそぜひお願いしたいです。あのバクレツ少女前線ってゲーム、女の子はかわいいしゲームシステムも面白いけど何より協力プレイが楽しいからね」
龍之介が笑顔でそう言うと公祐も満足した表情で頷いた。
お互い定食を食べ終えてJR京都駅前で解散しようとした時、公祐は道の端で突然立ち止まった。
「そういえば薬師寺、お前に一つ聞きたいことがあるんだけど」
「どうしたの?」
突然の申し出に首をかしげた龍之介に、公祐は真剣な表情で、
「はっきり聞くけど、お前ホモだろ?」
全く動じない口調のままそう言った。
「えっ……」
「男なのに相当ファッションに気を遣ってる、俺の身体に注目してる、セクシーなバクレツ少女を見ても顔色一つ変えない。そして何より、お前はかわいい」
龍之介を同性愛者だと断定した根拠を述べつつ、公祐はニヤリと笑った。
「いきなり何を言うんだよ、ボクは別に、そんな、ホモなんかじゃ……」
「あー、いや心配しなくていいんだ。だってさ」
慌てて抗弁する龍之介に、公祐は再び右手を龍之介の肩にポンと置くと、
「オレも、同じだからな」
その一言を口にして、そのまま笑顔で手を振って歩いていった。
風のように現れて竜巻のように去っていった公祐の背中を見送りながら。
龍之介は自らの心の中に、恋の嵐が吹き荒れ始めるのを感じていた。
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