130 気分は恋愛リソース

 それからはもう少しどうでもいい話が続いて、話の流れで僕とヤミ子先輩は恋愛トークを始めていた。


「へえー、白神君ってファンちゃんからアプローチされちゃってるんだ。しかも本当は中学校の同級生だったんでしょ? すっごく運命的じゃない?」

「僕の方は忘れてたんですけど卒業アルバムによると本当だったみたいです。といってもだから彼女に惹かれるってことにはならないんですけど」


 何かの機会に聞いたのかヤミ子先輩は僕の出身地を知らなかった一方で僕と壬生川さんが中学校の同級生だった件は知っていたらしく、その話題には興味津々なようだった。


 ちなみにファンちゃんというのはヤミ子先輩が壬生川にゅうがわさんにつけた「ファンネル」というあだ名に由来しているらしいがそもそもなぜファンネルなのかは全く分からなかった。


「でもファンちゃんって2回生では一番人気の美人でしょ? そんな女の子にアプローチされたのに白神君は付き合おうって気にはならないの?」

「うーん、僕自身はとてもありがたく思ってますし壬生川さんを友達としては好きなんですけど、その程度の気持ちで交際していいのか迷うんです。壬生川さんからもはっきり付き合って欲しいとは言われてないですし、何より女の子と真面目に付き合えるほど時間もお金もなくて……」


 曖昧な態度をごまかしているような台詞に聞こえるかも知れないが、僕が話したことはすべて正直な事情だった。



「確かに誰にでも恋愛に割けるリソースの問題はあるよね。白神君に覚悟ができてないなら今のまま置いておくのもいいと思うけど、ファンちゃんも他の男の子が気になったりしたらいつまでも君のことを好きとは限らないからそのことは忘れないでね」

「分かりました。そのアドバイス、すごく心に響きます」


 女の子からのアプローチに曖昧な態度でいることにはリスクもあると再認識し、改めて身の振り方を考えてみようと思った。



「そういえばヤミ子先輩は彼氏とかいらっしゃるんですか? 3回生ではかなり男子人気が高いってお聞きしてますけど」


 マレー先輩から聞いた重大な話の裏を取る意味も兼ねて、僕は軽い感じで聞いてみた。


「今は特に付き合ってる人はいないよ。大学に入ってからは粉をかけてくれる男の子はいたけど正々堂々と付き合ってくれって言われたことはないし、私も特に彼氏は募集してないから。高校生の頃は同級生の男子とお付き合いしてたけど、あんまり気が合わなくて別れちゃった。子供の恋愛をノーカンにするなら私も彼氏いない歴22年って言っていいかも」

「そうなんですか……」


 ヤミ子先輩は過去に剖良先輩からも交際を申し込まれて断っているはずなのだが、親友のセクシュアリティに触れることになるからかその話はあえてなかったことにしているようだった。



「彼氏ができたらさっちゃんとか友達と遊べる時間も減るし、よっぽど気が合って楽しく過ごせる相手が見つからない限りは今のままでいいと思ってる。女医さんは生涯独身率高いっていうからいつまでもフリーでいていいとは思わないけど、まだ22歳だから何とかなるかなって」

「ヤミ子先輩なら絶対大丈夫ですよ。すごく優しくて美人ですし、性別に関係なく打ち解けやすいお人柄ですから生涯独身になんて絶対なりません。僕が保証します」

「またまた、お世辞が上手いんだからー」


 ヤミ子先輩はそう言って苦笑していたが僕自身先輩と長時間2人きりで話していても全く緊張しておらず、先輩のキャラクターの親しみやすさは素晴らしいと思った。


 マレー先輩はヤミ子先輩のことを色気があるとか魔性の女だとか言っていたが、やはり考えすぎなのではないかと思った。

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