86 破滅の覚悟

 2019年6月20日、木曜日。時刻は夕方18時過ぎ。


「今日も長い時間お疲れ様。白神君にお願いしたいことがあるんだけど、いい?」

「僕にですか? ええ、どうぞ」


 放課後の図書館のコンピュータルームで、いつも真面目に指導を受けてくれる後輩の白神塔也にボクはあるお願いをしていた。


「今度の日曜日なんだけどさあ、一緒に映画見に行ってくれない?」

「へっ?」


 突然の誘いに白神君は驚きの表情を見せた。



「JR皆月駅近くの映画館で見に行きたい映画やってるんだけど、2人で予約するとチケット代がお得で限定グッズも貰えるんだって。映画館に確認したら男同士でも問題ないっていうから、よかったら一緒に行かない? もちろんチケット代はボクが全部持つよ。『アトランティック・ウォーズ』っていうアメリカの特撮映画だけど知ってる?」

「ええ、海外ドラマは割と好きなんでその映画も聞いたことがあります。ぜひご一緒したいですけど、流石にチケット代払って貰うのは申し訳ないですよ」


 この反応は予想通りだったので、ボクは彼が確実に承諾してくれるよう追加で提案をした。


「そうだねえ。じゃあチケット代は1人1500円だから、1000円だけ出してくれない? 2人セット予約でこの料金にポップコーンとドリンクも付いてくるから1000円で映画が楽しめるよ。これでどう?」

「なるほど、それならぜひお願いしたいです。集合時間とか場所ってもう決まってます?」

「ありがとう! えっとね、集合は朝10時にJR皆月駅の改札前にしよう。せっかく休みの日に来てくれるし映画の後でご飯食べに行ってもいいね」

「分かりました。いつも研修でお世話になってるのに休みの日も遊んで頂けるなんて罰が当たりますね」


 無邪気に喜ぶ白神君を見て色々と申し訳ないものを感じたが、今のボクには日曜日、どうしても彼に付き合って貰う必要があった。



 本当はその映画には興味がないし、これから予約するつもりもない。


 2人セットで割引という話は本当だが、これも誘う口実を用意するために調べてきただけだった。


 今のボクはヒデ君を助けるためならばどんな嘘でもつけるのだ。



 それからいつものように阪急の皆月市駅前で白神君と別れるとボクは帰りの電車の中でメッセージアプリを開き、改めて奴とのトーク内容を確認した。


 慇懃無礼な態度でヒデ君に恐喝を行う安堂とのやり取りを確認して、ボクはこいつを絶対に許さないと心に決めた。



 人間のくずと刺し違えてでも、ボクはヒデ君を守らねばならない。

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