84 青春はバイオレンス
そんなある日の放課後、化学研究部の活動のために理科実験室に向かったボクは活動時刻になっても彼の姿が見えないことに気づいた。
他の部員に聞いても欠席の連絡は受けていないらしく、軽い胸騒ぎを覚えたボクはそのまま2年D組の教室へと歩いた。
案の定というべきかそこには賭け麻雀の参加者を中心とした不良が集まっており、天草らしき男子生徒を掃除道具入れのロッカーに閉じ込めて取り囲んでいた。
「お前がチクったんやろ? とっとと白状して楽になれや!」
賭け麻雀の企画者である粗暴な男子生徒がそう言ってほうきの柄でロッカーを叩く。
「お前みたいな卑怯者のせいで俺らも停学になるかも知れんのや。早くゲロして謝らんか、ボケ」
他の男子生徒も怒声を上げてロッカーを叩きつけるとその場にいた6名の男子生徒たちはほうきを振り上げ、一斉にロッカーを叩き始めた。
この日の前日、賭け麻雀に参加していた生徒の1人がどこからかの通報で教師に呼び出され、ポケットに10円玉のキャッシュケースをいくつも忍ばせていたことで厳重注意の処分を受けていた。
まだ現場を押さえられた訳ではないがこの件を口実に学校側が取り締まりを強化することも考えられ、彼らは賭け麻雀を教師に通報したのは天草だと決めてかかっているようだった。
「やめてくれ、俺は先生に言いつけたりしてない」
ロッカーの中から天草が必死で抗弁しても周囲の不良たちは半ば面白がりながらロッカーを叩き続けた。
その瞬間、ボクの頭の中で何かが切れる音がした。
ガシャンという音がするほど勢いよく教室後方のドアを開けると、ボクはそのまま教室内に躍り込んだ。
「おい、誰や……ってヤッ君か。こいつの成敗に付き
賭け麻雀の企画者である男子生徒は2年D組ではNo.2ぐらいの権力を持っており、ボクに対しても敬語は使っていなかった。
「成敗も何も、オレの許可を得ずに
「リンチも何も、俺らは賭け麻雀を先公にチクった奴を成敗してるだけで」
これまでも裏切り者への私刑は各自の判断で行われていたので、ボクが言ったことは完全に言いがかりだった。
それでもボクには天草に暴力を加えている連中を叩きのめすことしか頭になく、
「うるせえ、オレに反論できる身分か!!」
沸騰した思考回路のまま怒鳴りつけるとボクは相手の懐まで突進し、そのまま握り
クラスを掌握しているボクがNo.2を殴ったことに周囲の不良たちはうろたえていたが、その時のボクは彼ら全員に激しい怒りを覚えていた。
傍にいた2人の喉元を突いて戦闘不能にし、もう1人には下顎に得意の頭突きを食らわせた。
「や、やめてやヤッ君。俺はリンチに誘われただけで」
「くだらねえ言い訳してんじゃねえ」
怯える1人に冷たく言い放つとボクは足払いをかけて相手を転倒させ、傍に落ちていたほうきを拾って柄の先端で股間を突いた。
「なあ、このことは誰にも言わへんから、どうか」
「いいから立て、下っ端が」
教室の隅に座ったまま怖気づいていた最後の1人には学ランの襟を掴んで立ち上がらせ、そのまま顔面から地面に叩きつけるとボクはあっという間に6人の不良全員を昏倒させていた。
それからすぐにロッカーのドアを開けると、天草は中から恐る恐るといった様子で出てきた。
「薬師寺君、君が彼らをやっつけてくれたのか」
「見りゃ分かるだろ。それより部活に行こう」
「えっ?」
その言葉に驚く天草に、ボクは笑顔を浮かべると、
「オレは天草と、いや、君と部活がしたいんだ」
静かにそう言って、彼の手を引いて理科実験室まで走った。
それからは天草があからさまないじめを受けることはなくなり、部活でボクと親しいという噂も広まったことでボクと彼は部活外でも一緒に過ごせるようになった。
中学3年生に進級する頃には学年内での抗争もほとんど収まり、喧嘩する相手も主に他校の不良になったことでボク自身も畏怖される存在ではなく勉強ができて喧嘩の強い生徒という無難な扱いになっていった。
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