65 気分は合法ショタ
2019年6月3日、月曜日。時刻は16時30分頃。
午前中から15時ぐらいまでかかって生理学実習の初日が終わり、僕は例によって初回オリエンテーションを受けに研究棟4階の薬理学教室を訪れていた。
生理学実習はどの回も1日で完結する代わりに回数が多く、全部で6個のテーマについて実習に取り組んでレポートを提出する必要がある。
成宮教授による生化学実習は全部で3個のテーマにそれぞれ2日間かけて取り組むものだったが、この辺りは狭く深い学習を重視するか広く浅い学習を重視するかという教授のキャラクターの違いによるのかも知れない。
今月の17日からは生化学・生理学・分子生物学の試験が実施されるため今日の時点で3科目の講義はほとんど終わっており、試験日までは生理学実習に加えて免疫学の講義の一部が行われることになっていた。
研究医養成コースの研修中に試験期間が重なるのは今月が初めてなので試験前に休みを貰えたりするかどうかはオリエンテーション担当の先生に聞いてみようと思った。
何事もなく薬理学教室の会議室に入るとそこには見覚えのある人が着席していた。
男子大学生にしてはやや小柄な背丈に、すべすべとした白い肌とお洒落な服。
少し長めのカットの茶髪にくりくりとした黒目がちの瞳。
男子医学生がよく使う肩掛けのカバンではなくカーキ色のリュックサックを使っている点からも、やはりその人は高校生か背が高めの中学生ぐらいに見えた。
「あっ、こんにちは! 白神君、遅れずに来てくれてありがとう」
僕が挨拶する前に3回生の
「こんにちは。研究棟にもそろそろ慣れてきたのでこの部屋もすぐに見つかりました」
無難に挨拶を返すと僕はヤッ君先輩の隣の椅子に腰かけた。
「今日はさっきまで講義だったの? それとも何かの実習?」
黒目がちの瞳をキラキラ輝かせて尋ねるヤッ君先輩に、
「生理学実習の初日でした。実験操作自体は大して難しくなくて先生方も優しかったんですけど、昨日は文芸研究会の新歓飲み会だったので体力的にはきつかったです」
僕はあくびを噛み殺しながら答えた。
「へえ、ついに入部を決めたんだね。白神君は研修で忙しいからこれ以上は誘わないけど東医研はいつでもウェルカムだから、また3回生からでも興味があったら来てみて」
「ありがとうございます。もちろん検討させて頂きますけど僕らは研究医生のつながりもありますし、個人的にも仲良くして頂けると嬉しいです」
本心からそう伝えるとヤッ君先輩はにこにこ微笑んで頷いた。
その笑顔は好感が持てるとか親しみを感じるというよりかわいいという表現が最も似合っていて、僕より年下とはいえこの人は本当に今年で21歳なのだろうかと思った。
一浪までで大学に入学した人は学年で後輩に並ばれることはあっても追い越されることはないが、二浪以上になると年齢は下でも先輩という人を当たり前に見かけるようになる。
相手も同じ高校の出身者だった場合は高校の後輩が大学で先輩になるという事態さえあり得ることになり、畿内医大に多くの学生を輩出している地元の進学校の出身者からは実際にそのような話を聞かされたことがあった。
僕は四国という別の地方の出身なので学内に高校の知り合いはいないが(中学校の知り合いは奇跡的に1名いた)、地元の国立大学である伊予大学に受かっていたらそういう経験をすることもあったのかも知れない。
「あ、忘れてた。薬理学教室の教授は
そのまま雑談タイムに入りそうな所でヤッ君先輩は今日この教室ですべきことを思い出した。
「分かりました。よろしくお願いします」
頭を下げてそう言うと僕は自分よりいくらか背の低い先輩の後に付いていった。
あくまで目測だが、先輩の身長は160cm前半ぐらいだろうと思われた。
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