第6話

やはり、大学生とは生存本能が強いものだろうか。恋ばかりをしている、彼方此方で恋の色めきが忙しなく立っている。真面目な人間はきっとこの環境が不愉快でたまらないだろうが。私は実に楽しい、もっとやれ。と常々思っている。

ここでひとつよくある大学生のパターンをあげよう。大学生男子は実に単純だ。女子生徒に話しかけられると、自分のことが好きなのではないかと邪推し、勝手に恋に落ちる。

とても短絡的で、文明の力によって成長したと自称する人間にしてはあまりにも知能が足りないように感じるかもしれないが、これぞ生存本能。こうやって勘違いを加速させることで生き延びてきたのだろう。この性質を肯定する気は毛頭ないが、理解はできる。

そして実にアンビリーバボーなことにこれは人間心理学の導入部分にも書かれていることがあるほどの定説なのだ。これを”好意の返報性の原理”というのだが…気になる人は調べてみることをおすすめする。


そしてこれが上手くいくひともい人もいれば、何を言っているの?気持ち悪いんだけど...となり、心臓を抉られ、玉砕というパターンも見る。どちらかと言えは後者の方が体感多いように感じる。

ここで、落ち込んだ者、まだ早い。

別に付き合えようが、付き合えなかろうが、そこは重要な部分ではないのだ。その時どう感じるか、どう行動するかによって、その人間が今後恋人ができるかかかっていると分析している。

この一瞬の振る舞いで、人間として付き合いを続けてもいい人間なのか決まるのだ。まず、女子は噂が大好きな人間だ少しでも変なことを言えば有る事無い事付け足されながら噂が回る。つまり告白をした時点で、幕は下ろされた。

告白のことが、大学中に知れ渡るの考える必要があるのだ。女子に悪い感情を抱かせる物言いは、これから出会う他の女子の印象をも操作する。恋は振られた瞬間から新たに始まるのである。

自分の恥を受け止めきれない人間はここで、相手を責める。

全く相手が悪くなくても、勘違いさせた方が悪いのだ、と他者を責め立てる。自分を守ることに精一杯でその他に大切なものを見失う。他者からの好感度を著しく低下させている。滑稽な姿だ。見てられない、嘘をついた。私は目をかっ開いてその光景を目に焼き付けている。全然知らない生徒だったとしても、すれ違えば、その人だと認識出来るくらいには記憶している。確か、この前のは山朱音と鷹村祐也だったか...。

ここで、矛盾するのだが振られる人間はまず、告白の仕方がなっていないのである。

上からだ。(君が僕を好きみたいだから、まぁ仕方ないから付き合ってあげるよ)という見えない感情を出しながら

「付き合ってみる?」

と言うのだ。

これではどうも、はいとは答えずらい。ここで私が提唱するのはあくまで下からのスタンスである。だいだい、他者の時間を奪って告白をしているのだ。上からいくのは見当違いなのだ。恋とは取引だ。自分の時間と他者の時間を使ってまで得るものがあると思わせなければ成立しない。契約書のない契約なのだ。


「端山君、契約書のない契約はしない方が身のためだよ」


彼は私の言動を鬱陶しいと言わんばかりに顔を顰め、前へずかずかと歩み始めた。しかし、良心の呵責があったのか、後ろを振り返りぶっきらぼうに

「こんなところで時間を無駄にして、遅刻しても知らないからな。」

といい、また歩き始めた。

彼の下手に人を突き放せない優しさが、私の煩わしい言動の数々を増長させている原因の一端を担っているのはまごうことなき事実。だからこそ、彼の私だけが悪いと言う様な、断罪するかのような態度には納得がいかない。納得いくわけが無いのだ。

「あなたは共犯者だ、私の悪の一部を担っているのはあなたなのだ」

と指摘する言葉が喉まで上がったが、濁流に呑まれて消えた。

なんで消えたのか、何故消えてしまったのだろうか。あの時口を紡げば、彼は私を捨て。私も彼を忘れる。そんな他の未来があったのかも知れないと、今でもふと、私の頭をよぎるのだ。

あの日々が無駄だったことはない、あの痛い喉に沁みたコーヒーの味も、虚しくて寂しい線香の香りも全て私の一部だった。

私の言動が増長されて迷惑を被るのは彼自身"だけ"なのだ、と思い直し勝手困っていればいいのだと思いで、そのまま口をつぐんで、彼の後ろ姿を眺めていた。

春風に全てを任せ、坂を転がり落ちてしまいたい。

前、一緒に博物館で見たあの示標化石のように僕たちも何千年先の主力となる生物に、「遠い昔、大陸全土で繁殖していた"人類"という生物は雑食な生物だった」とか「骨格から読み取るに手と足が五本づつで手でものを作ることができたとされる」だとか、「脳が発達した生物」だと言われるんだろうね。

あとは電車で遠い場所に立っている年配の女性に席を譲る時、どう女性を呼べばいいのだろう。「そこのお姉さん」と呼んでも、自分でないと思い振り返ってはくれないだろう。


なんて話したことも話したことも忘れちゃうのだろうか。


「君って…自分が思ってることを口に出している自覚ないの?」

「自覚あるけど無視してる」


今頃何をあたり前のことを言っているのだろうかという言葉を、150円で買った缶コーヒーで飲み流した。

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グラコロ馴染み 福神漬け @inu5rouFramboise

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