第10話 「銀星」という名の半妖
「ぎんせい?」
「銀色の『銀』に、『星』と書いて、銀星。爪を持った
「確信があるわけじゃないのか?」
すると茜は少し考えてから答えた。
「あたしの鼻が
と言って、茜は小さくため息をつく。
「もし銀星がやったとしたら、
充は小首を傾げて「それは何?」と聞いた。茜はちゃぶ台に頬杖をつき、縁側の外を眺めながら言う。
「銀星は、鷹山のなかで三本の指に入るほど強いんだ。しかも戦うこと以外に興味を持たない。そんな奴が人間の沙羅に目を付けて、血なんか飲ませたのかってことが信じられないんだ」
「三本の指って……強いな」
「あたしよりは弱いけどね」
さらりと茜が言った言葉に、充は彼女がこの山でも相当強いということを察した。
(でもそうだとしたら、銀星だけでなく茜だって不思議な行動をしている。何故沙羅を
充は気になったが、話し出してしまうと話題がずれてしまうと思ったので「半妖の血」の話を続ける。
「血って、そんな簡単に手に入れられるものなのか?」
充は想像を巡らせて聞いた。
血を採る技術を持っているなら出来るが、普通「血をくれ」と言ってくれるものではないだろう。それとも人間ではない半妖である彼らは、考え方が違うのだろうか。
「君が言いたいことは分かる。答えは『簡単なことじゃない』だ。仮に沙羅が戦って何とか銀星の腕を噛んだとしても、奴の皮膚が強くて人間の歯じゃ破れないからな。刃物を使うという手もあるが、ここには調理用の包丁くらいしかないからね。そんなので銀星もやられないだろうよ」
「じゃあ……、誰かが手を貸したってことか?」
半妖の血を飲んだ今なら、茜の腕に噛みついたようにできるのかもしれない。だが、その前の沙羅はここでは無力だったというころだろう。それなのに血を飲むことができたということは、それしか考えられない。
「まあ、そうだろうね」
茜がそう言って目を細めたとき、山小屋が何故かざわめいた。しかし、辺りを見渡しても充たち以外の姿は見えない。
「な、何?」
充がそのざわめきに驚くと、茜は「小さい妖が隠れているだけだから気にするな。害もない」と言う。
害がないかどうかは怪しいが、彼女が山小屋の奥に強い視線を送ると、そのざわめきが一瞬にして消えた。
それを感じた茜は、深紅の瞳を細め冷ややかな笑みを浮かべる。充はぞくりと背筋が凍るような感覚に陥ったが、彼女の表情からはすぐその笑みは消し話を続けた。
「だがそれを知るのは重要なことじゃない。あたしたちは人間じゃないからね。血を飲ませたからと言って、犯人捜しをするような面倒なことはしない。気にくわなかったら戦うだけさ」
「……そう、か」
充は、「戦う」という言葉を小さな声で反芻した。
先ほどの茜と沙羅の戦いを見た限り、「妖の戦い」というは相当荒いことが想像される。きっと強い者の意見がここでは押し通されるのだろう。
「今のところは、誰に助力してもらったのかどうかまでは分からない。だけど沙羅は、銀星の血を飲んで妖気が融合し、彼の力を手に入れた。だが、その見返り……なんだろうな。銀星の強い血が沙羅の体で暴れている。半妖の血も人間の子どもには重く、痛みを伴う」
充ははっとし、先程母が言っていた言葉を思い出していた。
——分かった、それなら鎮静薬がいいわね。用意するわ。
「だから母さんは妖怪の薬とかいう『鎮静薬』の処方をしたのか……?」
茜は頷く。
「ああ。痛みを抑えても、暴れているものをどうにかしなければ意味がないからな。そして半妖の血が関係しているから、時子は妖怪の薬を使ったというわけ」
「そういうこと」
「まあ、時子が
「理由はよく分かったけど……、
充が小さくため息をつくと、茜は知っていることを教えてくれた。
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