キャラクターに「誇張」はあるか?

 キャラクターに「誇張」はあるか?


 キャラクターはその五感で、自分以外の他者に触れて、反応する。

 そこに「誇張」はあるだろうか?


 どういうことか詳しく説明しよう。


 アニメーションでは、キャクターは目にしたものに驚いた時、目を点にしたり、目玉を飛び出させる。呆れた時には顎を外すし、怒った時は頭から湯気を出す。


 こういった現実の世界ではあり得ない誇張表現は、小説においても存在する。

 例えばこういうのはどうだ?


 恋心に胸を焦がす。焦りに胸を灼いた。

 寂しさで心臓まで凍りつくようだった。


 こういった誇張表現は、感情の動きをより印象付けることができる。

 マンガも、アニメも、小説もそこは変わらない。


 表現が「おもしろい」と感じれるなら、どんなウソをついても良いのだ。


★★★


 さて、一旦関係なく見える話をさせて欲しい。

 もう一つの「誇張」の仕方について解説したいからだ。


 ストーリーがなくても、その部分だけでおもしろいもの、例えばYoutubeの動画の切り抜きを思い出して欲しい。ショート動画でも良い。


 あれは人の「興味」がどういうものか、それを探る資料としては最適だ。


 そこに何があるだろう?


 ――そこには感情の動きがあるはずだ。

 弓を引き絞って、それから放つような、感情の動きがある。


 キャラクターに「誇張」はあるか?

 その本質がここにある。感情を引き絞り、放つ瞬間が誇張だ。


 ここでは、前述した方法とは違う方法を提示する。

 例を出すので、「感じて」欲しい。


☆「誇張」なし

 トムは椅子に座って本を読んでいた。

 突然、ガラスが割れたような音に驚き、音がした方に振り向いた。


★「誇張」あり

 トムは椅子に座って本を開き、その世界に入り込んでいた。しかし、夢の世界に入り込んでいた彼は、急に現実に引きもどされた。


 突然、ガラスが割れるような音がしたのだ。


 彼は何事かと驚き、肩をすくめ、全身を縮こまらせる。

 どれだけそうしていただろう? 10秒? 1分? 1時間?

 しかし彼は勇気を振り絞って、恐る恐る、音がした方に振り向いてみた。


 さて、「感じた」だろうか?


(言わんとする事をわかり易くするために、ている。決して良い文ではないので、その点には注意して欲しい)


 誇張はアニメーションではことさらに重要視されている。

 ウォルト・ディズニーは「リアリズムを重視しろ」と再三スタッフに言っていた。しかし、あがってきた動画を見て、誇張が足りないと文句をいうことがあった。これにアニメーターはひどく混乱した。


 写実的に描けと言っておいて、誇張しろとはどういうことか?

 矛盾しているではないか!! そう思ったに違いない。


 私にも覚えがあるので、この気持は非常にわかる。

 しかし、この言葉は矛盾しないのだ。


「表現の核心になる部分を現実的に描き、観客に伝わるように誇張せよ」

 これがウォルトの真意だ。


 だったら最初からそういえば良いものを、と思うが……。

 ともかく、写実とリアリズムは違う。

 彼の頭の中にあるリアリズムとは「現実感」であり、説得力のあるもの、心に強くアピールしてくるものを指している。


 写真はリアルだが、ストーリーを感じられなければ、そこに面白さはない。

 小説を書き始めたばかりの者は、偉人の格言や、Wikipediaから、あるいは資料からそのまま引用したような文章で、賢さを自慢するような事をしがちだ。


 それはリアリズムでも何でも無く、ただの虚言だ。


 まぁ、そうなるよね。という納得できるもの、「信じられるもの」を書くのだ。

 SFの名作、「果しなき河よ我を誘え、リバーワールド」はどうだ?

 「宇宙の戦士」は?


 リバーワールドは全く破天荒だ。

 荒涼とした大地に、銀の柱があり、そこから一日分の食料が出てくる。

 人間たちはそれを巡って闘いを始める。奪うためか? 違う。


「他にすることがないから」だ。


 しかし人間たちは過去の地球に生きていた者たちだ。

 どうやら彼らは何者かに……「試されている」らしい。


 「宇宙の戦士」は明らかにファシズムの時代を書いたSFだ。

 銀河の彼方まで、宇宙船が飛んでいるのに、やっていることは1940年代と大差ない。しかしそれらの要素は、宇宙の戦士の根底に流れている、「あるテーマ」を強調することに使われている。


 作品の表現が、テーマが狙っているものは何だ?そこで狙っているものを作者が正しく理解していれば、「誇張」は必ず成功する。


 この「誇張」は作者が何を大事に思うのか?その視点によって大きくその姿を変える。つまり、書き手のセンスやオリジナリティが問われるのだ。


 何よりも警戒しないといけないのは、「何を誇張するのか?」だ


 世界、キャラクター、アイテム、差別化の為に誇張しても、それが読み手に伝わっていなかったり、むしろ不快感になってしまえば、やらないほうがマシだ。


 リアリティを失わない、ギリギリのラインを攻める必要がある。


 あまりにもご都合主義的に誇張すれば、「登場人物がバカすぎる」「設定破綻」と受け取られ、ページをめくる手が止まってしまう。


 「おもしろければいい」という考えがあることは承知している。


 リアリティの感じ方には、個人差がある。なのでこれを語るのは非常に難しい。

 しかし誇張はすべきで、やったのなら、信じられる範囲に納めるべきだ。


 明らかに誰でも「これは夢だ!」と気付いてしまって、夢から覚めてしまうほどの誇張をすべきだろうか? おもしろければ、それでもいいのだろうか?

 

 これに関しては、作者である君の判断に委ねたいと思う。

 きっとそのさじ加減が個性になる。


 さて、もう一度聞こう。

 キャラクターに「誇張」はあるか?

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