(ボツ)キャラクターに「量感」はあるか?
※もはや絵画知識なのと、キャラクターではなく情景描写の内容になったので、ボツにしました。とはいえ小説家にとって、絵画の知識も興味を引くかと思い、公開します。
キャラクターに「量感」(Solid・個体)はあるか?
小説家は物語を描写する前に、個々の出来事を描写する技術が必要だ。
キャラクターを書くときに、ひとつ頭においてほしいのが、キャラクターも物体だということだ。大きさがあり、重さがある。
つまり、キャラクターも「物質」なのだ。
キャラクターが歩いたり、走ったり、笑ったり、怒ったり。
これは物質の動作だ。
動作が描写できないと、物語を組み立てる上で、自分の作りたいものが表現しきれなかったり、プロットの段階で制限が入ってしまう。
二人の剣士が、お互いの持つカトラス(海賊の持っている三日月刀のこと)を交わしつつ、港町の屋根を走り、波止場に停泊する海賊船のマストの上にたどり着き、因縁の関係に終止符を打つ。
そういった最後の決戦を行うシーンを、一体どう書こう?
物語に登場するキャラクターは、いろいろな動作や感情の変化を描かなければならない。書けない場面、感情、動作があると、せっかくの物語のアイデアが使えないか、書いたとしても分かりづらく、イマイチな印象になってしまう。
方法は一つしか無い。
できるだけわかりやすく、親切に、上手に文章をかけるようにすることだ。
まず文章がわかり易くかければ、物語の基本の形を描くのが楽になる。
そして次に書こうとするものを理解することだ。
体を動かしてもいいし、誰かにその行動をしてもらって、それを観察するのも良い。どうしてそう動いたのか? 何を感じたのか? それを聞くと良い。
ただし感情面についてあれこれと聞くと、確実に友人を失うか、そいつが自分と同じくらいの変人と判明するかのどちらかだ。見極めよう。
とにかく、できるだけうまく、「何を感じたのか?」を注視して、人を書けるようにすることだ。
キャラクターという「物質」の動作を書き、「量感」を表現する目的はなんだろう?それは世界を浮かび上がらせることだ。
とても上手にキャラクターという物質のことが書ければ、その世界が見えてくる。全く世界を描かなくても、何を見て、何を感じているか?それが見える。
小説の中の世界を説明するのに、歴史や社会科の授業を始める必要はない。
何が「居て」何を「見て」何を「感じて」いるのかを文章に書くのだ。
我々は誰かと話すとき、仕事をするときに、出身地や家族構成のパーソナリティ、文化的ルーツを聞くことがあるだろうか? そんな奴がいたら確実に変人か、差別主義者を疑われるだろう。そういうキャラクターなら構わないが。
社会的な区別が仕事や生活で役に立つことはなく、仕事なら仕事に関係すること、遊びなら遊びに関係すること以外は、そこでする必要がないからだ。
さて、一旦話を戻そう。
――小説家が「この場面は書きづらいな」と思った時に、小説家の中で、何が起きているのだろう? 実は「何も起きていない」。
つまり「情景が浮かんでいない」。これに尽きる。キャラクターの動作を考えているようで、空間のイメージ、絵心が必要なシーンになっているのだ。
そうなった場合、小説家は読み手にその空間の遠近感や立体感を意識できるように、その文章を書かなければならない。
たった場所の高低差は?時間は?温度は?色は?距離感は?
すこし風景描写の内容も絡んでしまって、キャラクターに命を吹き込むというコンセプトからは外れてしまうが、ご容赦願いたい。
※港町の屋根を走り、剣を振るう二人の剣士のシーン
僕はジョンを追いかけ、薄いオレンジ色のタイルで覆われた角度の浅い三角屋根に降り立った。屋根には焼き物の薄いタイルが葺かれているのだが、ブーツで踏みつけると、それはパキパキと小気味よい音を立てて割れた――
家主にとってはまったく溜まったものではないだろうけど、まるで僕の足が楽器を演奏してるみたいだ。こんな切迫した状況にもかかわらず、僕の中にはなにか一種の楽しさが生まれていた。
僕は逃げるジョンを目線で捉え、走って追いかける。
僕と同じく、オレンジ色の屋根に降り立ち、逃げるジョンはしゃかりきになって手足を振っている。カンカンと音を立てて屋根を走る彼は、オレンジ色の屋根の上で、そのシルエットがぽっかり浮き上がっていた。
走りながら僕は彼の行く手を見る。眼下には遠く見渡せる藍色の海原があり、その手前には階段状になった港町の屋根がある。
海へ近づくほどその屋根の形と色はぼやけ、豆粒のように小さくなっている。しかしその先に明確な形を示した巨大な構造物が並んでいる。四角い棒をいくつも並べたような波止場と、それにつながる無数の船。
波止場にひときわ大きい、三本の柱が生えた黒い船がみえる。
あれは……海賊船だ。あの帆布に書かれたドクロのマークには見覚えがある。
ジャーヘッド海賊団の船だ。たしかジョンは、奴らに雇われていたはず。
時間は昼、海に向かって風が吹いている。
草の匂いの交じる風が、僕が走る屋根の上をなでていた。
風向きは海へ向かっている。
――そうか、奴は船を使って逃げるつもりか!
このままでは追いつけない。もっと近くに寄らなければ。
奴の居るところまでの高差差は、家ふたつ分くらいか?結構あるな。
しかし、屋根のうすいタイルは意外とクッションになる。飛び降りてやれないことはないはずだ。
しかし、いざ飛ぼうとすると、緊張して唇が乾く。
舌で自分の唇を舐めると、潮風の味がした。
早く走るには、腰の剣が足にまとわりついて邪魔だ。
まずはコイツを手に持ったほうが良いな。
僕は剣を抜き放つと、手足をちぎれんばかりに振って、走っていた屋根から、眼下の屋根に向かって勢いをつけて跳躍する!
うおおおっ――!
驚いて見上げる住人の視線を浴びながら、家々を隔てる路地を飛び越した。
崖下のような屋根に向かって降り立った衝撃は凄まじく、少し後悔した。
全身を使って受け身をとり、屋根のタイルを破砕して飛び散らせながら前へ転がる。ざらついた、砂っぽい表面のタイルに手をついて、僕は立ち上がった。
背中がちょっと痛いが、さっきよりジョンの姿はだいぶ大きくなっている。
追いすがる僕の姿を認めたジョンは、腰のカトラスを抜き放った。
奴の持つ三日月状の白刃が、午後の太陽の光を受けて、キラリと光る。
ここでやるつもりらしい――! 望む所だ!
まだまだ修行中の身のため、未熟な文章を読ませる事になって、大変申し訳無いが、このような具合になるのではないだろうか?
チェイスから剣を抜いて、ここから切り合いながら洗濯物をなげつけたり、煙突を盾に使って投げナイフをかわしたりと、色々演出が考えられる。
キャラクターの「量感」を文章で出すときに重要なのは、「五感」だと私は考えている。視覚はもとより、触感、嗅覚、聴覚、味覚だ。
やっつけ気味に全部を盛り込んだが、トムというキャラクターに、私が言わんとする「量感」とやらを何か感じられたなら、幸いだ。
キャラクターが感じた事から、世界の実体感を意識させること。
それが私の言いたいことだ。
「広」から「狭」い範囲に、「五感」を使って書くという森沢明夫の「プロだけが知っている小説の書き方」と内容が重複するが、まさにその話なので、興味がある方はそちらも目を通して欲しい。
★補遺
もしかしたら、デッサンでよく言われる「量感」に付いての内容がヒントになるかもしれないので、そちらも触れておこう。
一見、形や色ぬりが上手な絵でも、目の良い人間がみると、「レリーフ」、浮かし彫りにしか見えないということがある。
絵に奥行きが無いのだ。
ディズニーの標語では「双子」に気をつけろ、というのがあった。
双子とは、腕や脚が左右対称になっていて、しかも左右が完全に同じ動きをしているというエジプト壁画のような状態のことだ。
大の字になった棒人間をそのまま詳細に描いた絵を想像して欲しい。
そこに奥行きはあるだろうか?
デッサンの授業で確認事項の一つだったのが、生徒の絵は重さと奥行きがあり※バランスが取れているか?というものだ。
それは、実質感のある立体的な絵を描くときの基本だ。
※バランスが取れているか?:これは左右対称という意味ではない。手を置くに突き出したポーズ、または前に出したポーズで、手の長さの整合性は目の画角から逆算して、適切な長さになっているか、もしくはそう見えるかどうかという問題だ。
無論、キュビズム的な表現を意図しているならそれはそれでかまわない。ちゃんと意味があるからだ。セクシーなイラストで、尻を見せながら胸の形が見えるようになっているイラストが見られると思うが、あれは完全に腰が折れている。
だが言われなければ気づかないだろう。イラストレーターに関節を折っている自覚があるなら、それを誤魔化すために色々な手を尽くしているからだ。
デッサンでは空間を四角く切り取り、そこにあるものを描く。
まず空間を意識させるためだ。
デッサンでは対象以外の余白のものを書くことはない。
それゆえに量感が失われがちなのだ。
空間はどこにあるのか?
それを認識させることで、対象が浮かび上がるし、対象が空間を意識させる。
これが「量感がある」ということだ。
主に距離感、色と光、空気に関しては、現実世界で空や太陽、光がどういった挙動を取るのか?という知識も書くべきなのだが、これは小説の技法と言うよりは、映像や絵画で必要とされる基礎知識なので、書くべきかどうか迷っている。
もし興味があるという方はコメントでその旨を書いて欲しい。
普通に退屈な座学の内容になると思うが……。
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