キャラクターの動作に「彩り」はあるか?

 キャラクターの動作に「彩り」はあるだろうか?


 キャラクターの動きを観察して、単純すぎる動きをしていないだろうか?

 試しに文章の「トムは」の部分を「エミリー」に変えても違和感がなかった場合、その動作は演技になっておらず、シンプルすぎる可能性がある。


 「彩りがない」というのは、キャラクターの個性が出ていないという意味だ。


 例を出そう。

 これはトムの初登場シーンだ。


 トムは廊下を歩いて教室に入った。


 文章としては面白みがない。

 おそらくこのキャラクターの動作を、他のキャラクターに差し替えたとしても、とくに差し支えはないだろう。


 ではトムがすごい太っていたらどうだろう?


 トムは腹の肉を揺らしながら、大股で歩いて教室に入ってきた。


 あるいはこういうのはどうだ?


 トムは落ち着き無く周りを見回して、それから教室に入った。

 教室の中にイジメっ子がいないか、それを確認したのだ。


 彼の神経質な性格がわかる。


 一つ注意だ。

 昨今のネット小説、一般文芸においても、文章に解釈の余地を持たせるのはあまりよくない。わからない印象を与えてしまう。本を閉じるのが確定しているラストシーンを除いて、入れないほうがよい。


 心理や意図が絡む描写では、キャラクターがどう感じたか、そして読み手がを書く。


 物事を選択すると言うのは、非常にストレスがかかる。

 人間が一日で「選択」に使える集中力は、そう多くない。

 君のネット小説を選んだ時点で、きっと読者の集中力は消耗しきっている。


 だから「選択」のストレスを与えないように。

 ひたすら受け身に回らせるのだ。小説の世界で、もてなすのだ。


 話を戻そう。

 キャラクターの動作や感情は、副次的な動作で「彩り」強調できる。


 笑ったキャラクターが腹を抱える、口に含んだものを吹き出す。


 ケガをしたキャラクターは、ケガを押さえて立ち上がる。


 眼鏡をかける、体を揺らす、物に当たる、手や髪を触る、手足など、体の一部分を興味のある対象に向けると言った具合だ。


 歩く、立つ、喋る。基本動作にこれらの「彩り」を加える。するとそれが次第にキャラクターの個性になっていく。


 が、気をつけてほしいのは、これらの「彩り」は動作の主役ではない。

 基本となる動作の「賑やかし」になる。


 しょせん「彩り」に過ぎない動作が、キャラクターの主要動作を妨げてはいけないし、目立ってもいけない。もしそうなってしまった場合、「彩り」を外そう。


 例えば、トムがイジメっ子に立ち向かうシーンで、勇気を出してオドオドしていたら? せっかくの感動的なシーンが台無しだ。


 こういう場合は「彩り」を外してしまって構わない。


 「彩り」で注意したいのは、体を動かして、まとまった表現にすることだ。


 キャラクターが悲しんでいる時の動作の「彩り」は涙を拭ったり鼻をちーんとかんだり色々あるだろうが、主役はあくまで悲しんでいることだ。

 表情や心理描写の印象が薄くなるほどに、しつこくやる必要はない。


 あくまでも、さり気なくでいい。


 エミリーはひどく落ち込んで、肩をガックリと落とした。


 トムは疲れ果て、ぜぇぜぇと苦しそうな息をしていた。


 最初はこんなものでいい。

 慣れたら人物をより観察して、キャラクターの「彩り」にしていこう。


 親切

 不注意

 挑発的

 セクシー

 愛想よく上品な

 感傷的な

 年上、年下?

 健康状態は?


 はつらつとした女性は大股で歩き、顎を引いてまっすぐ前を見て、左右の歩幅が狭い。歳をとった女性は腰を大きく曲げ、歩幅はせまく、手は前にだらんと垂らしているか杖をついている。


 妊娠した女性は仕草が注意深い。両足はバランスをとるた左右に少し離れ、歩幅は狭い。太った女性も同様だが、仕草に違いがある。バランスをとるために足を低く摺るのが癖になって、靴はカカトから削れていく。


 赤ん坊は?頭部が重いために常にバランスを崩している。10歳以下の子供は大人に比べ、足を高く上げる。足の動きが大きく、体幹が柔軟でよく動く。


 心理的な違い、肉体的な違い、文化的な違いで、笑い方も違ってくる。胸を張る笑い方をするのが主流な国もあれば、背を曲げてくつくつと笑うイメージが主流の国もある。口を隠すのが作法の国もある。とにかく人間を観察しよう。


 ここで必要になるのは、偏見じみた個性の強調だ。

 そうまでしないと、読み手には伝わらない。


 さて、もう一度聞こう。

 キャラクターの動作に「彩り」はあるか?


 個性を出したつもりの動作を、他のキャラと入れ替えてみよう。

 とくに違和感が無いようだと、すこし不味いことになっているかもしれない。

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