キャラクターは「予備動作」をしているか?

 あなたが描写しているキャラクターは、「予備動作」をしているか?


 さて、歩く事を想像してほしい。

 貴方は、まず何をする?



 「足を前に出す」なるほど。



 おめでとう、完全な間違いだ。

 そう答えた君の観察力は、平均的かそれ以下だ。

 まずはそれを自覚しよう。


 正解は「身体を前に傾ける」だ。


 正解を当てた人は、実によく見ている。

 その観察力は称賛に値する。


 さて、試しに体幹を動かさず、足だけを前に出してみてほしい。

 びっくりするほど、自分の身体が動けないことがわかるだろう。


 これはアニメーションの基本だが、同じことが小説でもいえる。


 例えばジャンプするときを例に取ろう。


 トムはお菓子のある棚に向かって、力いっぱいジャンプした。


 簡潔で良いが、なにか物足りない。


 トムは棚の上にお菓子を認めると、それをじっと見つめていた。

 彼はしゃがんで脚に力をためると、それを一気に伸ばして、バッタみたいに棚に向かって飛び上がった。


 若干くどいが、活き活きした感じがする。

 何より、「時間」とメリハリを感じないだろうか?


 そして、トムの身長が想像できないだろうか。

 君の脳裏に浮かんだトムは、どんなキャラクターになった?

 全身を使ってジャンプする子供時代を思い出し、少年になったのではないか?


 さて、本題に戻ろう。

 あらゆる行動には事前動作、予備動作がある。


 ボールを投げる前には振りかぶる動作をするし、走る前には身体をしずめる必要がある。


 この事前動作があるおかげで、読む人がスムーズに「次に何がおきるか」を理解することができる。動作の見落としがなくなるのだ。


 文章を読んでいる人に、今キャラクターは何をしているのか?

 それを伝えやすくなる。


 無論、サブキャラまでにこのルールを適用する必要は無い。

 モブの動きにまでいちいちこれを描写していたらクドすぎる。


 それはそれで文章の「メリハリ」がなくなってしまう。

 誰が重要な人物なのか? それが区別できなくなる。


 これをする要点は、何か?

 メインキャラクターの「次は走り出す」「次は剣をふる」という動作。

 これを読み手に予想させ、そのとおりに動かすことで、読み手にキャラクターの動作を活き活きと理解させること。


 コレがチェックすべき要素だ。


 またこの予備動作はキャラクターの動きだけではなく目線(トムはしつこく棚を見ている)も予備動作となる。


 ダイコン役者は動作とセリフを一緒にやってしまうが、ちゃんとした役者は目、動作、セリフと順立てしてそれを行う。


 「ビル!敵だ!」そう言ってトムはインディアンの少女を指さした。


 これは最悪の類の描写だ。

 特に意味がないシーンであれば、そうしてもいい。

 しかし重要なシーンで(ヒロインの登場など)これをやってはいけない。


 トムは視線の先に何かを見つけたようだ。彼はそれを指さして叫んだ。

「ビル!敵だ!」

 彼がそういって指差した先には、インディアンの少女がいた。


 予備動作の重要性が解ってきただろうか?

 時間、シーケンス、タイムラインの存在が理解できるだろう。


 ちなみにこの予備動作は、環境においても使える。

 小説ならではの、演出による予備動作だ。


 例えばこういった具合だ。


 彼は監視カメラの映像が映るモニターを覗いていた。

 椅子に座って画面をみている彼。その後ろのドアは開いたままだ。


 わざわざ「後ろのドア」に言及されると、この次「なにか起きるのではないか?」そんな気がしてくるだろう。これも予備動作だ。


 小説でシーンを作成する時は、読み手をAの動作からBの動作へと、間違いなく導く必要がある。キャラクターの演技の連続性を考えないといけないのだ。


 もしこれを見落としていると、読者は小説のなかの世界で、何が起きているのか、さっぱりわからなくなる。


 コツはメインキャラクターの「次の動き」に対して心構えをさせるのだ。

 この場合、次は予想させても良い。いや、予想させなくてはいけない。


 主要な動作をするときに、次に起きることを読み手に予想させる、明確な動作とはなんだろう?これは君が考えないといけない。


 いくつか段階がある。


 内心・感情の変化、表情の変化、目線の変化、動きの変化、まだ色々ある。


 さあ、君のキャラクターは「予備動作」をしているか?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る