第25話 ある神の独白(アメ視点)※
※直接的ではないですがグロ要素があります。苦手な方はご注意ください。
「僕の願いは、君が君らしくあることなんだ。だからこれからも君のお願いを僕に叶えさせて」
僕の言葉に不思議そうに首を傾げたアリシアが愛おしくて仕方がない。
(……やっと君は君を取り戻せたのかな、やっと……)
僕はずっと君に嘘をついていた。君の望みは今まですべて僕の望みだった。
アリシア、いや、初めて会った君を僕は覚えている。
この世界は、君のために創った世界、失った君を取り戻すために僕が作り出した世界……。
初めて会った君は、今の君のように他の人々と何かが違うというたったそれだけの理由で、差別された幼い少女だった。
だからかもしれない、生まれてこの方ずっと独りぼっちだった僕がずっと感じていた悲しみを理解してくれた。
優しい君は、『さみしい、さみしい』と涙を流す僕の手を幼いながらに握りしめて『ひとりぼっちは寂しいよね』と言って側にいてくれた。
君が居ると『さみしい』が消えた。だからずっと側にいて欲しかった。だから僕は君を離さなかった。
けれど僕が少し目を離した隙に君は消えてしまった。
それからも僕は君が恋しかった。だから沢山沢山『さみしい、さみしい』と今思えば恥ずかしいくらい泣いたら君が戻ってくれると信じていた。
そうして、君のことが忘れられなくて泣き過ごしたある日、人間が僕に『神の花嫁』という名の供物を与えた。
僕は、その国の人から恐れられていた。だから鎮めるために生贄が定期的に捧げられた。
今まではそれは森で取れた獣たちだった。
しかし、その時『神の花嫁』として僕に捧げらたのはあの日、僕の手を握って微笑んでくれた君だった。
生まれて初めて僕は動揺した。そして、あまりにも人間のことが分からなかった僕は君をどうするべきか判断できなかった。
「あっ……あ」
「貴方が神様ですか??」
僕の前に進み出た君の澄んだ瞳にはなんの後悔もないように見えた。しかし、その体は得体の知れないものへの怯えから震えていた。
「……そうだよ」
やっと答えた声に君は覚悟を決めたように言った。
「ならば、どうか私を食べて下さい」
静かな声だった。本当は、僕は君を食べたくなかった。だって君は間違いなく僕の手を握ってくれた人だから。
けれど彼女は僕だと気付いてはいない。
「どうして??きみはいきたくないの??」
どうが『生きたい』と言ってくれと願ったけれど、僕の言葉に彼女は首を左右に振る。
「もう疲れたのです。どんなに頑張っても私は異端……ひとりぼっちなのです」
その言葉に、僕は涙をこぼした。
(……ぼくもひとりぼっちだから、きみとなら……)
この世界にひとりとして僕と同じ存在はいない。でもその孤独と彼女の孤独が似ているような気がした。
「きみをたべたくない。きみを……」
「神様、私は貴方にまで見放されたるのですね」
僕の言葉を誤解した君が悲しげに笑う。そんな顔、見たくなかった。まるで本当に世界にひとりぼっちにされたみたいな君の顔の僕は首を振った。
「ちがう、ぼくは……」
「どうか、私の願いを叶えて下さい」
儚く微笑んだ君の願いを僕は叶えない訳にはいかなかった。だから、僕は彼女の願いを聞き入れて彼女を泣きながら食べた。
彼女を食べてから僕はより孤独になった。
僕は彼女を取り戻したいと思った。だから僕は僕の心臓を抉りだして『君』を取り戻そうとした。
けれど、君は自我を取り戻すことがなかった。
だから、君にプレゼントとしてこの世界を作り出した。君が昔悲しい思いをした環境で良い思い出を手に入れたら君は君に戻るかもしれない。
けれど、君は僕と同じことを考えるだけで自我が芽生えることがなかった。
そんな君が、やっと君だけの願いごとを僕にしてくれた。それが嬉しくて嬉しくてたまらない。
「……アメ??どうしたの??」
僕の様子に首を傾げたアリシアに、いつも通り微笑みながら囁く。
「僕だけのアリシア……」
永遠に、僕だけの愛おしい君。君の願いならどんな願いも叶えてあげたい、たとえその願いが世界を滅ぼすものでも、君が望むなら……全て。
ツガイが当たり前の世界で、ツガイが居ない私は…… 雛あひる @hiyokomen
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