第24話 願いの叶った世界

あの後、王国は『ツガイ』という絶対的なシステムを無くした。


そして、そのシステムを破壊した王太子は責任をとる形で処刑されたと私は隣人だった彼から聞いた。


国は王政を廃止し、それにより王家と近しいことで力を持っていた貴族達も権力をなくしたという。


変化はそれだけではない。


ずっと閉ざされていた霧が晴れてその先にも行けるようになり、人々は今まで交流がなかった他国とも交流を始めたという。


そうして、変わらず絶対的とされた『ツガイ』至上主義の王国が崩壊した世界を私は眺めていた。


全てが終わったのだ。


「アリシア、君の願いは叶えられたかな??」


私は、アメとふたりで一度燃え落ちてしまった大切なあの家に戻った。


私が最後まで執着した場所。ただ、静かにそこで暮らしたいと望んだ場所。


戻った時は全てが燃え尽きてしまっていた。


やるせない思いのままそこから動けない私をアメはずっと抱きしめていた。


「やっぱり、世界を物理的に壊そうか??」


物騒なアメの言葉に私は首を振る。私はもはや気力を完全に無くしていた。


燃え尽きた思い出を手に取り抱きしめてみた。


(お祖父様、ごめんなさい。私は貴方の宝物を守れなかった……)


枯れたはずの感情がよみがえり涙が頬を伝う。


「……アリシア」


優しく涙を拭うアメに私は何も言わなかった。


その後、家は私が神の花嫁と知った人々により再建された。


以前とよく似た全く違う新しい家で、私はアメと暮らし始めた。


不思議なことに私の生活はアメが一緒にいることをのぞけば驚くほど静かなものだった。


家が建てられるまで出入りしていた人々もいつの間にか訪れなくなっていた。


「アリシア、今、幸せ??」


最近、甘えん坊の大型犬みたいに私にしがみついて離れないアメに聞かれた。


「……そうね、少なくとも不幸ではないわ」


私の願いはこの世界の片隅で静かに暮らすことだった。まさに今の状況だった。


「なにか足りない??足りないなら僕は君の願いを叶えたい」


「いいえ、足りなくはないわ」


私の小さな願いは叶っているのだから。私の心を読んだのかアメが笑う。


その笑顔は甘い甘い砂糖菓子をさらに甘く煮詰めたような表情だった。


「よかった。愛しいアリシア。やっと笑ってくれたね。ああ、アリシア、今度は僕の願いを叶えてくれない??」


困り眉で聞いてくるアメに、何か大切なことを忘れているような感覚があったが、私は微笑み返した。


「わかったわ。アメ、貴方の願いはなに??」


「ありがとう、アリシア。僕の願いは……」


耳元で囁かれた言葉の意味が私にはわからず首を傾げることしか出来なかった。

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