第23話 国の終わり

「君の願いは何でも叶えたいんだ。僕だけのアリシア」


恐ろしい言葉の後に甘い甘い声色でそう言うアメの様子に背筋が冷たくなるのがわかった。


アメは私の味方に間違いない。しかし、アメは神様で私は自分が神様とは思わない。


この国の生い立ちの話を信じるなら私はアメから生まれた存在、『カケラ』のはずだ。


つまり、元はアメと同じ存在だったはずだ。それなのに、なぜか違和感を感じるのだろう。


「アリシア、いいものを見せてあげるよ」


私の思考を遮るようにアメが額に自身の額をくっつけた。


その瞬間、頭の中にある光景が見えた。


それは、私を散々苦しめた王太子とその『ツガイ』のマリアナと護衛騎士の3人がどうやら城に戻った後の映像だった。


「クリストファー様、やっと目を覚まして……」


涙を流しながら王太子に抱きつこうとしたマリアナを王太子は怪訝な表情を浮かべながら突き飛ばした。


「キャッ!!」


「王太子殿下、どうされましたか??『ツガイ』様を突き飛ばすなんて!!」


その言葉に王太子はまるで私に向けたあの忌々しいというような表情で吐き捨てるように言った。


「『ツガイ』??なんだそれは??それにこの醜い女は誰だ??私に気安く触るな!!」


「なっ、クリストファー様、私が醜い??いつも可愛いと言ってくれたじゃありませんか、どうして……」


呆然と泣き崩れたマリアナに王太子は追い討ちをかけるように続けた。


「はっ、ありえない。私の好みは美しい女だけ、そう……あの真紅の髪の人のように……」


熱に浮かされたようにそう口にした王太子はすぐに冷えた眼差しをマリアナに向けた。


「だから、お前などいらない。早急にこの女をつまみ出せ!!」


「しかし、王太子殿下……」


ドカン!!!


護衛騎士がその行動を諌めようとした時、王城の外から大きな爆発音が鳴り響いた。


「な、なんだ?!」


狼狽えた王太子の元に見慣れた人物、あの日、私を救ってくれた隣人が現れた。


「王太子殿下、いいえ、クリストファー。貴方は、いや王家は本来、大切にすべき神の花嫁を虐待し、この国の神の怒りをかったことにより未曾有の大厄災を引き落とした罪を償って頂く。また、その『ツガイ』であるマリアナ嬢、貴方も虚偽を王太子に報告し、神の花嫁を貶めた罪状が出ていますのでご同行願います」


冷静に言葉を告げた隣人と、彼に従うように集まった騎士達の姿に、王太子は目を剥いた。


「ふざけるな!!私はこの国の王になるもの、お前たちごときに私を裁く権利はない!!」


「王とは仕えるものが、民がいて初めて成立します。しかし、もはやこの国に貴方に忠誠を誓うものなどほとんどいない。大厄災を引き起こしたのだから当然です」


大厄災とはアメが行った『ツガイ』の無効化のことだろうか。


「大厄災とはなんだ??私は知らないぞ」


「民衆は見ていました。貴方が神の怒りを受ける瞬間を、その後多くの人が雷の餌食になり、そして、雷を受けたものはみな『ツガイ』のことを忘れてしまったのですよ」


「知らない!!私は何も知らない。それよりあの美しい人に、赤い髪の翡翠の瞳の娘に会わせろ!!彼女こそ私の求めた人だ!!」


淡々と事実を告げる隣人に意味が分からない妄言を吐く王太子だが、すぐに騎士達が王太子を取り押さえてマリアナと共々連れて行ってしまった。


そうして、その場には護衛騎士がただひとり残された。


「どういうことだ、これは……」


呆然とする彼にひとりの騎士が気の毒そうに彼に告げた。


「お前もお前の『ツガイ』を失ったことをこの後知ることになるだろう。もう、たとえお前が仕事を優先し続けても健気に待ってくれていた『ツガイ』はいない」


「嘘だ、コレットは俺を……」


「もう、『ツガイ』の絆は消えた。お前だって王太子を見ておかしいと思っただろう……」


「あっ、あああ!!!」


その言葉に、護衛騎士は発狂しながら駆け出した。それを見届けるとその騎士も立ち去り、誰も王城からいなくなった。

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