第22話 この世界の常識と理を……(アメ視点)

「……僕は君の望みならなんでも叶えてあげたかったんだ」


そう囁いたけれどアリシアはぼんやりとした表情を浮かべるだけだった。僕の愛おしい子をこんなに疲弊させた原因を壊し去ってしまおう。


まるで、自分だけは助かりたいというように逃げ惑う群衆に僕は雷を放つ。その雷を受けた者は倒れて意識を失う。それは無作為に選んでいるのではなくアリシアを傷つけたり傷つけようと間接的にした者達を中心に落としていった。


「……」


アリシアはただそれを無表情で眺めていた。アリシアを後ろから抱きしめながらその耳元に僕は囁く。


「アリシア、あの雷が当たるとね、面白いことが起きるんだよ」


「……雷が落ちたらただでは済まないことが面白いの??」


僕の言葉に、眉間に皺を寄せたアリシア。君はいつだって優しすぎる。優しいから、君を傷つけて、君の大切なものを焼き払おうとした愚か者ですら傷つくことを好まないのだと僕は知っている。


けれど、だからこそ僕が君の代わりにこの世界に裁きを下す必要がある。


「そうだね、半分正解で半分間違いかな。あの雷を喰らっても外傷は受けないよ。けれど、あの雷はね『ツガイ』としての機能を破壊するんだ」


「『ツガイ』としての機能を破壊する??」


「そう。『ツガイ』ってね、元々分からないものなんだ。だけど、この世界を作るときに優しい君が「『ツガイ』がいるのに分からないで不幸になる人間が可哀想だ」と言ったんだ。だから、僕は君の願いを叶えてこの世界の、人間らに『ツガイ』が分かる様に祝福を与えたんだ」


僕の言葉に無表情だったアリシアの顔が驚きに変わるのが分かった。その愛らしさに僕はそのまま話を進めた。


「そして、「幸せに暮らす彼らをしばらく見守りたい」という君のもうひとつの願いを叶えるために、君をこの世界に何度も転生させた。最初は『カケラ』がどんな存在か理解していた人間たちはしっかりと君を丁重に扱い君も彼らを愛していた。けれど時代が下るにつれて、人間は自身こそがこの世界の支配者だと思うように驕っていきついには神に等しい存在であり本来王族より上の存在である『カケラ』を矮小な存在にするべく王族はその欲のために『カケラ』の本質を秘匿するようになった、そして今の前の『カケラ』の時代に事件が起きて、その際に君の魂は深く傷ついて損傷を受けてしまったんだ」


「魂が損傷を受けた??」


「だから、1回、本来の生まれ故郷である場所に転生してから君はこの世界に帰って来たんだ……。そして君が「もう一度だけ人間を信じたい」と望んだから今のアリシアに生まれ変わった」


「……それと『ツガイ』としての機能を破壊することとの関連が分からないのだけど……」


アリシアが首を傾げた。その仕草が本当に愛おしい。そのままどこかに連れ去りたいが彼女の『望み』を叶えるために僕らはもう少しここにいる必要がある。


「僕はね、君のために作ったこの世界で君を傷つけた人間たちが許せないんだ。だからね、この世界を壊すことにしたんだよ。いや、正確には君を傷つけたこの世界の常識と理をなくしてしまうことにしたんだ」

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