第20話 天罰

その場を沈黙が支配する。この群衆からしたら今まで見ていた世界が壊れるような発言を聞いたのだから当たり前だろう。


しかし、沈黙は私に投げつけられたひとつの石によって破られる。


「嘘よ!!王太子殿下とその『ツガイ』様がそんな大切なことを我々に隠すはずがないわ!!」


石は私の頬を掠めて地面に落ちた。石の鋭利な箇所が当たったためか頬に線状の傷が出来てそこからわずかに血が流れるが不思議と痛みは感じなかった。


そして、石を投げて叫んだ女に私は見覚えがあった。隣人の『ツガイ』だった確かサリーという女だ。


サリーの声に触発されたように、「そうだ!!」「嘘つき!!」と群衆から次々に石や何か物が投げられた。


奴らは私を口汚く罵りながら何かを投げることに夢中だったが、サリーの投げた石以外はひとつとして私に当たることはなく、当たりそうになったものは不自然に地面に落ちいった。


しかし、熱を帯びた愚かな群衆はそれに気づかない。その様子を私は冷ややかに見つめ続けた。


「それより、この女を、大罪人を捕えろ!!」


そう叫んでひとりの筋肉質な男が私に駆け寄ろうとした。彼は確か王太子の護衛騎士だったと記憶している。


男の言葉に私に襲い掛かろうとする群衆、しかし、その手が私に届くことはなかった。


なぜなら、その体が宙に浮いたからだ。正確には私を抱きかかえた人物が宙に浮いていたのだ。


「遅くなって本当にごめん。アリシア」


「本当にとても遅かったわアメ……いいえ、


、この世界、この国を作り出した唯一の神にして『ツガイ』の恩恵を与えた存在。


この国の誰もが知るその名を私が口にするとアメは屈託のない笑顔になる。


だと……そんなはずない。神も神話も約束も全ては古のおとぎ話のはずだ……」


王太子の言葉だった。しかし、その言葉に群衆がざわめく。


『カケラ』が異端者であるということは群衆にとって共通認識だが、この国の中で神を否定することはタブーだった。


神とはすべての恩恵を与えた存在。その神の代弁者として王族はこの国を治めている存在であり、神を否定することは自身の正当性を否定することになることに王太子は気づいていなかった。


「ああ、君たち王族には一度警告をしたのに。アリシアが何回か前の転生をした時に嫌がらせをした時に次はないと約束をしたのを覚えていないようだね。アリシア、少しだけ待っていてね」


優しく微笑んで私の額にキスを落としたはゆっくり空中から着地をし、地面から椅子のようなものを作り出すと私をそこに丁寧に座らせた。


そして、自身はアルカイックスマイルを浮かべて完全に硬直している王太子に近付いてその顎を掴み目線を合わせた。


「……本当に、貴方は様なのか??」


「うん。だから、もうだ」


とても冷たい声色でが言葉を言いきった瞬間、今まで晴れていた空が突然雨雲に包まれて激しい雨が降り始めた。


そして、雷鳴が轟いたタイミングで、群衆はまるで蜘蛛の子を散らすようにそれぞれの家に逃げ込んでいった。


その場に残されたのは、焦点の合わない目をした王太子とその『ツガイ』である王太子妃のマリアナのみ。


最初に気付いたのはマリアナで、王太子に声を掛ける。


「クリストファー様、早くこの場から逃げましょう。雷があたりでもしたら……」


しかし、王太子はなんの反応も示さない。ただ曇天を惚けた表情で見つめているのみだ。しびれをきらしたマリアナが周囲に声を掛ける。


「誰か、王太子殿下を王城へお運びして!!」


「承知いたしました」


護衛騎士が王太子に触れようとしたその時、一筋の激しい稲妻が王太子の体を貫いた。

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