第19話 『カケラ』の真実

私が冷たく呟いた時、強く冷たい風が吹いた。


その風の心地よさに私は今まで私を覆いつくしてきたものを晒すように分厚い眼鏡と髪を束ねていた紐を取り去った。


「何の罪も犯していないのに憎まれて嫌われて差別されてそれを当たり前するこんな歪んだ世界はいらない!!」


気付いたら叫んでいた。もうどうなっても構わないと思ったから。それに私はあの本を読んである確信をしていたのだ。


私の声に気付いて、私の家を燃やした群衆とその先導者の王太子がこちらを見たのが分かった。


……しかし、彼らは私を見つけたというのになぜか沈黙していた。てっきりいままでのように罵詈雑言を吐くと思ったので肩透かしを食らった気持ちだった。


それから、しばらくして王太子が正気になったのか私に向けて話しかけた。


「……君は誰だ??あの『カケラ』の賛同者か??悪いことは言わない。君は……その美しい。あんな魔女の肩など持たず君を愛してくれる『ツガイ』のところにもどるとよい」


なぜかわずかに頬を赤らめた王太子の口から出たのは、気の抜けるような言葉だった。


(どうして、あの王太子が私に気付いていない??)


王太子以外を見たところ、群衆の中の男達は同じように頬を赤らめていた。そして一部を除きほとんどの女達は私を睨みつけているのが分かった。


「王太子殿下、その魔女こそが目の前にいるこの私ですが??」


皮肉を込めた笑みを浮かべた。目の前の群衆にざわめきが起きる。


「そんなわけがない。あの『カケラ』はとても醜い女のはずだ。そうして、図々しくも私の『ツガイ』に嫌がらせをしてまでも妻になろうとするようないやしい存在だ。君のように美しいはずがない!!」


どこか熱の篭った瞳をした王太子の言葉に私は反吐がでそうになった。


「いいえ、私こそが貴方が忌み嫌い、何もしていないのに憎悪と嫌悪をはじめから向けて来た『カケラ』です。今でもはっきり覚えています。貴方が私に初めて会った日に『こんなブスが顔を隠すなんて無礼だ!!』と言ったことを……」


「そんな……嘘だ」


信じられないという表情の王太子とは違い、隣に寄り添いながら今にも私を殺したそうな瞳で見つめる王太子の『ツガイ』のマリアナが声を上げた。


「クリストファー様、間違いないです。あの女ですわ、早く捕まえましょう」


いつもなら、その言葉にすぐに行動する王太子がなぜか動かない。そんな様子を見ていたマリアナが焦ったように王太子を揺さぶる。


「どうされたのですか??まさかあの時みたいに……だからあの女が『カケラ』が私は嫌いなのよ!!折角最近は自身の立場を弁えてあの瓶底のような眼鏡と三つ編みしかしなくなったのに!!」


当たり散らすように叫ぶマリアナの姿にはいつもの、王太子妃としての余裕は一切ない。


正直奴らが私をどう思っていようがどうでも良い。私はそれよりも爆弾となるだろう発言をこの場でぶちまけることにした。


「それよりも、王家は私に働いた不義理をどうはらすつもりなのでしょうか??この国の王族には『カケラ』を保護するこの世界の神と約束した義務があったはずです。建国時に書かれた王家所属の書物にも書かれていたはずですが??」


私の言葉にぼんやりとしていた王太子が急に焦った顔で私を見つめる。


「なぜ、それを知っている??」


「全て知っていますよ。私は、偶然その書物を読むことができたのですから。

『『ツガイ』とは神の祝福であり、神が欠けた人を完全に近づけるために作り出したシステムである。


 ただ、極まれに『カケラ』と呼ばれる『ツガイ』を持たないものが生まれてくる。『カケラ』が『ツガイ』を持たないのには理由がある……』」


「やめろ、これ以上は……止めろ!!至急やめさせろ!!」


慌てた王太子が周りに指示を出すが、群衆はただ成り行きを見守るように私の話に耳を傾けている。私は迷いなく続けた。


「『『カケラ』とは神のを意味する。独神ひとりがみで『ツガイ』を持たなかったこの世界の神が自身の体を割り作り出した存在であり、つまりは『神の花嫁』『神のツガイ』こそが『カケラ』である』」

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