第17話 裏切りと献身

隣人に連れられて、町長の家の一部屋に匿ってもらった。町長は祖父の親友で今は『ツガイ』に先立たれて『カタヨク』の人でこの人のおかげで私は祖父から相続されたあの家に住んでいられた恩人でもある。


あたえてもらった部屋の中で、私はアメがあのメモを見てくれたか心配になった。何より、すでに王太子もアメのことを把握しているはずなのでどこかで捕まっていないかとか最悪の事態まで考えてしまった。


「……だめだ、今何かを考えるとネガティブなことばかり考えてしまうわ。一旦落ち着こう……」


次にすべきことを考えるにしても、心が乱れすぎている。私はアメがなぜか持っていたとても古い書物に手を伸ばした。


その書物はいままでみたどんなものより古い書物で、この間まで読んでいた王家にある最古の書物の写しによく似ていた。


恐る恐るページをめくると、先日読んだ内容と同じ文面が続いた。読み進めるうちにこの間欠けていた箇所までたどり着いた。


『『ツガイ』とは神の祝福であり、神が欠けた人を完全に近づけるために作り出したシステムである。


 ただ、極まれに『カケラ』と呼ばれる『ツガイ』を持たないものが生まれてくる。『カケラ』が『ツガイ』を持たないのには理由がある。


『カケラ』とは神の欠……』


私はその内容に驚愕した。そして、それと同時に王家がなぜこの本を隠していたかの理由を理解してしまった。


そして、『カケラ』という存在に『ツガイ』が存在しない理由も全てを理解したその時、私は町長の家の階下で人の話し声がすることに気付いた。


どうやらこの部屋の真下が町長の部屋のようだった。良くないことだと思ったけれど何気なくその会話に私は耳を澄ました。


「はい、今この部……の上におります、も……」


「そうか……今か……あの魔女……捕えねばな」


とぎれとぎれだったが何となく聞き取った内容に全身から血の気が引く。間違いない、私を匿った町長と王太子側の人間の声だった。


町長が裏切っていたのだ。裏切られた悲しみより生命の危機が間近に迫っている。


(まずい、なんとか逃げないと……)


階段を静かに登る足音がする。先ほどの声の主だろう。他に出る方法がないか後ろを振り返るが嵌め殺しの窓があるだけだ。


(どうしよう……、どうやって逃げよう……)


必死に知恵を絞るがいい方法が浮かばない。


(だめ、もう来てしまう……)


絶望を悟ったその時、扉も前で大きな声がした。


「お前、何故ここに!?」


「……あの人は、何もしていない。王太子殿下のやろうとしていることは不当なことだ!!」


隣人の声だった。どうやら隣人が私を連れ去ろうとした男を止めているようだ。その気配に私は急いで扉を開いた。


開いた扉が運よく見知らぬ男に当たった。


「ぐはっ!!」


衝撃にのけぞる男を尻目に私は走った。その後を追うように隣人もついてきた。


階段を駆け下りた時、階下に誰かいるのが分かった。


「な、なぜ。逃がさんぞ!!」


それは町長だった。いつもの好々爺の顔は完全に失われて般若のような顔でこちらを睨んでいるのが分かった。


さらにその手には刃物が握られていた。


(まずい、このままじゃ……)


「……アリシアさん、ここは俺が食い止めます。だから逃げて下さい!!」


私を庇うように隣人が町長の前に躍り出た。


「でも……」


「大丈夫、どうか生き延びて下さい!!」


その言葉に私は、やりきれない気持ちになりながらも私は町長の家から外に逃げ出したのだった。

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