第16話 狂った王太子と逃亡
その日は、よく晴れた日だった。
この国はいつもうっすらと雲が空の光を遮るような天気ばかりだったのでとても天気の日で前世を思い出してきっと良い日になると思ったその日に、私を襲ったのはあまりにも理不尽な、いやむしろ今までの日常的な悪夢だった。
早朝、店の扉をけたたましく叩く音に目覚めた私が、階下に降りるとそこに隣人が血相を変えて立っていた。
「どうされたのですか??」
「国王陛下が亡くなりました」
その言葉の意味を理解するのにしばらく時間がかかった。
「長く患われておりましたからね……」
「違います、王太子殿下が国王陛下をいいえ、国王夫妻を殺したのです。そして、自身が国王になると宣言し、あなたを重罪人として処刑しようとしています。この情報は信頼できる筋から手に入れました」
あまりに現実味のない言葉に私は思わず眉を顰めた。
(……あの王太子、両親を殺してまで私を殺そうとするなんて、ついに狂ったのね)
今まであの男が私に対して嫌悪感を剥き出しにする中で、それをギリギリで諫めたのが国王陛下と王妃様だった。
幼い日、初めて会ったあの日からあの男は私をなぜかひどく嫌悪し苦しめ続けてきた。
あの男に初めて会ったのは兄の後ろに隠れてだった。
『カケラ』である私を面白半分に見たいと言ったあいつから感じる好奇の眼差しが嫌でなんとか逃げようとした。
『逃げるな!!僕を誰だと思ってる??』
傲慢の言葉の後に腕を強引に引っ張られてあいつの目の前に姿を晒した瞬間のあの嫌な沈黙を私は今も覚えている。
しばらくして、王太子は顔を真っ赤にして怒り狂って叫んだ。
『こんなブスが顔を隠すなんて無礼だ!!』
それからは手がつけらへないくらい罵倒された。意味がわからないし、兄が私の手を引いてその場を後にしてくれなければどうなっていたかわからない。
つまり、初対面から異常なまでに嫌われていたのだ。
「早く逃げないといけません。あの、同居人の方も一緒に、一旦町長が匿ってくださるそうなのでそちらに行きましょう!!」
隣人の言葉にハッとして、私はアメを呼ぶために2階に上がるがそこに彼の姿がない。
「いないわね……」
彼は気まぐれにどこかに出かけてしまうことがあり、ちょうど出かけたのかと思うがタイミングが悪い。
何か行先の手がかりがないか探していた時、一冊の見覚えのない古い本があることに気づいた。
今まで見たどんな本より古いそれを反射的に掴んで私は持ち出した。
なぜか、そうしないといけない気がしたのだ。
それからしばらくアメを待ったが帰ってこなかったので、私は一枚の書き置きを残した。
「行きましょう、近衛兵が近くまで来ているようです」
隣人の声に私は古い本以外全て残したまま、外に出ることになったのだった。
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