第15話 とある王の絶望(国王陛下視点)
「……私ももう長くはないな」
ベッドからもう長らく出ることができず、やせ細った自身の腕を見ながらそう呟いた。声にも以前の張りがなく長く口を開いていなかったことを実感した。
「陛下……」
私に寄り添うように泣き崩れる『ツガイ』であり、妻であり、この国の王妃が縋りついている。
少し見ないうちに顔色が悪くなり、彼女も痩せてしまったようだ。
どんな姿になろうと美しい私の『ツガイ』が憂いのこもった瞳で私を見つめながら悲しげに言葉を紡いだ。
「クリストファーはあの子はあなたとの約束を守らずついには一線を超えてしまいました」
その言葉に私は強く強く瞳を一度閉した。
(ああ、私の代でこの国は終わってしまう……)
王家の過ち、『ツガイ』愛しさと自身が王であるという傲慢さから今から数代前、今の前の『カケラ』が王家に嫁いでまだ王家にいた頃、父親の死後すぐに王位を継いだ王太子がまさに今のクリストファーのように『カケラ』を冷遇した。
年若い王太子は、長年、自身の母親から恨まれていた『カケラ』を自身の治世では徹底的に冷遇すると決めていたらしい。
だから、その際に古の神との約束にまつわる寓話を書き換えさらには、それより古い本は全て焼き払った。
そうして、『カケラ』をなんの保証もなく捨ててしまった。
しかし、その後すぐに王都に異変が起きた。
王太子とその『ツガイ』の子をはじめとしたすべての赤子が奇形で生まれて、そして1日と立たずに死ぬようになった。
さらに、王都は常に黒い雲に覆われて大量の雨と雷が落ちて、王家や高位貴族の館が家事になった。
あまりの事態に慌てた王太子はある夜夢を見る。
この世のものとは思えない男が夢に出て来たのだ。男は神だと名乗り、
「神との約束を守れ。そして、お前は王とは認めない。弟を王としろ。さもなくばこの国を滅ぼす」
と告げた。
王太子は焦った。
神との約束が書かれた本は全て焼き払ってしまったのだから……。
そのことを弟の王子に話すと彼は一冊の本を取り出した。それこそ神との約束がいまや唯一書かれた本だった。
信心深い彼は神を信じていたから、隠し持っていたのだ。
その本のおかげで『カケラ』は保護されて、国は滅ばずにすんだが、今度は王になった弟王子の元に神は夢枕にたった。
「二度はない。必ず約束を守るように」
それ依頼、王家は約束を守り続けてきたが、クリストファーはそれを破ろうとしている。
「王妃、私の愛おしい『ツガイ』、もう一度だけクリストファーと話がしたい、この本を神との約束を守らせねばならない」
目尻から涙の粒が溢れる。しかし、そんな私の言葉に王妃が首を振る。
「手遅れです、あの子は……」
外から銃声がなるのが分かった。そうして私は全てを察した。
「そうか、なら最期はせめてそなたと……」
物々しい足音が近づいている。私は滅びゆく国を憂いながら愛おしい人の手を握りしめながら瞼を深く深く瞑った。
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